【禍憑姫/零】2004年12月16日13時24分
任務終了。
一対の雌雄は車内に搭乗する。
結界師が近隣に厭穢が居ないか調査を行う。
厭穢の再発生は低い事を確認する。
其処で二人の出番は終了した。
「このまま」
「学園に戻ります」
結界師が二人に聞く。
五十市依光は頷いて了承した。
稲築津貴子も、眼鏡の汚れを拭きながら了承する。
「あちらに到着予定時間は」
「大体お昼頃になります」
「それまで車内ではありますが」
「休息など自由になさって下さい」
そう言われて、雌雄は目を瞑った。
任務終了後は疲弊が残る。
それに加え長距離の移動は退屈だ。
だから、早々に寝てしまうに限る。
車に揺られる二人。
「ん、ぐ、が……」
「ん……んんッ」
眠る間。
五十市依光が稲築津貴子の肩に頭を乗せる事案が発生。
肩の重みによって目を開く稲築津貴子。
「………」
「………チッ」
寝起きで機嫌が悪いらしい。
肩に頭を乗せる五十市依光の頬に平手打ちをお見舞いした。
「イッたッ!?」
「あ、えッ!?何、敵襲!?」
「うるさい」
「え?あ、すいゃせん……」
「え、……えー、なに?」
頬に紅葉を作り。
涙目になる五十市依光。
そんな二人の旅も。
朝日が昇り。
お天道様が空の天辺に差し掛かると。
終わりが見え始めた。
「……お疲れ様です」
「八十枉津学園へ到着しました」
結界師はゆるりと車を校門前に停める。
そして、ドアを開くと、一対の雌雄は扉から外に出た。
「ん……あー、はぁ」
「あぁ、疲れたぁ」
体を伸ばして欠伸をする五十市依光。
そんな彼の姿とは正反対に。
規律正しく姿勢を保つ稲築津貴子。
「お疲れ様でした」
軽く結界師を労う言葉を掛けた。
それに応じる様に会釈をする結界師。
車に再び乗りこんで、道路を走り出した。
「さて、と」
「では、私は先生に報告しますので」
眼鏡を人差し指の腹で押し上げる。
稲築津貴子の眼鏡の奥から鋭い視線が感じられる。
何時も通り、峻厳な稲築津貴子の姿だった。
「悪いね稲築さん」
「報告、任せちゃってさ」
任務終了後。
必ず一人が教師に報告する。
任務の内容を明確に聴取して。
それが今後の階級や評価に繋がるのだ。
つまりは。
報告する人間が自分の行動に対して美化をする事も可能。
証拠や内容が成果と噛み合わない限りその内容で通される。
だから、報告する人間が得をする様になっていた。
「別に構いません」
しかし、稲築津貴子が報告するのには。
それ以外の理由も勿論ある。
「貴方が喋ると」
「グダグダになりそうですから」
そう、五十市依光は話下手だ。
内容が明後日の方向に向かい易く。
要領を得ないと悪い意味で評判だった。
「先生相手に雑談などして」
「報告に纏まりが無いんですよ」
「私は報告をし終えて初めて任務が完了したと思うので」
「無駄話をしてそれを長引かせるのだけはゴメンです」
五十市依光の欠点を稲築津貴子は鋭く突っ込む。
相変わらずの容赦の無さに腹立たしいとすら思わない。
「そこまで世間話してないと思うんですけど………」
か細く彼女の言葉に反論を入れてみるが。
「してるから言ってるのです」
事実を突きつけられて黙る他無かった。
これで問答が片付いた、そう認識した稲築は息を吐く。
「それでは、私が報告をしますので」
「これで失礼します」
話を区切り終える様な言葉だ。
事実、それを最後に五十市依光など気にも掛けず。
すたすたと校舎に向かって歩いて行った。
「あ、はーい……お疲れっす……」
手を挙げて、稲築津貴子に別れの言葉を口にする。
だが聞こえているはずもない。
一人残された五十市依光は深い溜息を吐いた。
「………んー、なんだかねぇ」
「稲築さんとはイマイチ距離が縮まらねぇなぁ」
「そういうの、もう少し努力しないとダメか?」
彼女の態度は。
一般人からすれば評価は低いだろう。
少なくとも仲良くしようとは思わない筈だ。
しかし、五十市依光はそんな稲築津貴子と仲良くしたいと思っている。
恋愛感情ではない。
同じクラスメイトだから、友好関係を築きたい。
そう思っているだけだった。
「いや、仲良くなるのに努力とか必要か?」
「………うーん、取り合えず」
「次に会った時にでもお茶にでも誘うかね」
「それか、何か好きな物でもあげるか……」
今度出会った時。
彼女に何か贈ろうかと考える五十市。
それが彼女の友好度を上げるかどうかは分からない。
「……はぁ」
「頭、回んねぇ……」
「早く帰るかぁ……」
「……あ、その前に」
帰宅する前に。
五十市依光は教室を目指す。
生徒は必ず、学園に来たと言う証明を記録しなければならない。
その証明の方法は単純であり。
教室に置かれた出席簿に記入をする、と言うモノだ。
生徒は必ず、記入をしなければならない。
もしも記入を怠れば。
何か事件に巻き込まれたと判断されて捜索届が出される。
任務中の不在。
学園側が提示する休暇期間。
教師に事情を説明した場合のみ。
出席簿の記入をしなくても自動出席扱いとなる。
五十市依光は任務途中に当たる為に。
本来は記入しなくても良いのだが。
「ふぁ……眠……」
「さっさと記入しないと……」
そんな前提を忘れている。
疲弊が募り、脳があまり回ってない様子だった。
稲築津貴子の後を追う様に、校舎へと向かう五十市依光。
「……どっちの方から行くかね」
五十市依光はどちらの道から行くか考えていた。
【グラウンドを通る】↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354055478314367/episodes/1177354055487196725
【校舎を経由する】↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354055478314367/episodes/16816452218412791232
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