【グラウンドを通る】

【前回】https://kakuyomu.jp/works/1177354055478314367/episodes/1177354055480237088


グラウンドを通って校舎に入ろうとする五十市。

気怠く欠伸をしながらグラウンドを通り過ぎようとした最中。

彼の眼球を抉る様な鋭い光が迸る。


「―――うをッ!?」

「眩ッ、な、なんだよ、これッ!」


両手で瞳を覆う行動を取る五十市。

其処で目が開く程度の影が出来たが。

五十市依光は謎の光に疑問を覚える。

光。

それは何と言うか。

光と形容するよりも。

刃と形容するに近い波だ。

その光を、五十市依光は知っている。

疲弊した脳から溢れ出る記憶が告げる。


「って、あれか、アイツかッ!」

「おい、義勇之介ッ!!」


五十市依光は謎の光を放つ元凶の名を叫んだ。

声帯が振動する、思わず咳き込みたくなる程の大声。

反応するのは、刃の如き発光をする長身長髪の男だった。


「……ん?」

「なんだ、愚臣か」


光輝く男は光量を絞る。

黄金の様な硬き筋肉。

余分な脂肪など一切無い引き絞った体が現れる。

両腕を天へと傾けて、股間を大胆に見せつける格好をする変態が其処に居た。

しかし股間は辛うじて、光によって包まれている。

自主規制、と言う奴だった。


「人の顔見るなり下に見てんじゃねぇよ」

「つか、眩しいんだよお前、それ」


その言動は少し厳しめ。

どうやら五十市とその男、輝嶺峠義勇之介は友人であるらしい。

多少の苛立ちも混じった言葉を浴びせるが、輝嶺峠は意にも介さない。


「ふん、だから止めろと?」

「無理な話だ」

「俺の威光は稲光、この輝きは誰にも止める事は出来ん」

「フンッ!」


筋肉を膨張させるかの様に。

輝嶺峠義勇之介は光り輝く。

眩い光は縮れた針金の様に紫電が飛び散る。

眼球が焼き切れる程の光。

今度はその眩さを直で見た五十市依光は両目を覆った。


「うおッ!目がァッ!!」

「い、いい加減にしろよオイ!」

「俺の眼球を潰すつもりかッ!?」


目を抑えて悶絶する五十市に輝嶺峠義勇之介は我ながら恐ろしいと呟き。


「俺の美しさに目を潰してしまったか……哀れな」

「しかし光栄に思うが良い」

「お前の最後に見る光景は美しき俺の姿」

「ふはははっ!感謝しても良いぞッ!!」


高らかに笑う輝嶺峠義勇之介。

五十市依光はその言葉に怒りを覚えた。

だから少し怯えさせる程度に脅してみせる。


「ほんっと、止めろ、怒るぞ、お前ッ」

「それ以上するんなら、俺も術式使うからなッ」


術式。

五十市依光の術式は。

使い方を変えれば。

どの様な相手でも封じる支配の力を持つ。

与える力と奪う力。

これが、五十市依光の術式の真骨頂と言っても良い。


「………フン、脅しか」

「くだらんな、そんな台詞」


言葉とは裏腹に。

輝嶺峠義勇之介の足は震えていた。

傲慢さが目に余る輝嶺峠義勇之介でも。

五十市依光の術式は恐怖として映るらしい。


「と言いつつ収めてるじゃねぇか」

「冷や汗やばいな、大丈夫か?」

「いや、俺が言ったからだけどさ」

「そこまで本気にするなよ」


流石に。

脅しにしてはやり過ぎかと。

五十市依光は思った。

如何に友人だろうとも。

術式を使えば祓ヰ師としての未来を奪ってしまう。

その事実が其処にある。


「ふん、俺が怖がる?」

「バカも休み休み言え」


五十市依光の術式など怖くない。

そう宣言する言葉だったが。


「そのセリフを吐くのなら」

「その足の震えを止めてから言ってくれ」

「………はぁ、しっかし」

「相変わらずどういう原理なんだよ」

「肉体を電気にするなんて」


五十市依光は目尻を抑えながら言う。

輝嶺峠義勇之介は特殊な体質だ。

肉体を雷に変換する事が出来る因子の持ち主。


「俺は愚臣とは違うからな」

「世界に存在する万物の記録」

「〈雷の因子〉を宿す」


世界が保有する万物の記録。

その記録から世界は概念を引き出し現象を引き起こす。

人間が誕生する時も。

人としての概念を定着させる事で。

受精した胎児に〈人〉としての遺伝子が組み込まれる。

しかし稀に。

別の記録、概念を人間の遺伝子に刻み付けてしまう事がある。

それが因子を宿した人間。

外見上は普通の人間と変わらないが。

その肉体に刻まれた概念は人の括りではない。

普通に生活するうえならば支障はないが。

祓ヰ師として生きる人間が居たのならば。

祓ヰ師として肉体に神胤を流すと、その能力を発揮する様になる。

神胤を肉体に流すと。

肉体に刻まれた因子が反応し、肉体に刻まれた因子を発生させるのだ。


「………えーっと、つまり」

「神胤を肉体に流せば雷になる」

「そういう認識だな、オッケオッケー」


五十市依光は長い話を好ましく思わない。

要所要所を掻い摘んで大事な部分だけを聞いて理解する。

しかし輝嶺峠義勇之介はそんな五十市依光が気に食わないらしい。


「おい、この俺の解説を短く纏めるな」

「きちんと俺の台詞を噛み締めて有難みを感じろ」


「感じさせたきゃまずは服を着ろ」

「絵面がシュール過ぎて感動もクソも無いんだよ」


肉体を電気に変換させる輝嶺峠。

当然ながら服を着た状態で電気に変換すれば。

衣服は焼け焦げて着る事が出来なくなる。

しかし、そんな真っ当な全裸にならざるを得ない理由があるにも関わらず。


「………ふッ、愚問なり」

「俺はこの状態で完成されている」

「つまり服など無用ッ!」

「ありのままの姿こそ俺は究極なのだッ!」

「あぁ、俺は今日も美しいッ!!」


輝嶺峠義勇之介の異常性は自分主義ナルシスト

衣服を着用しない生まれたままの姿こそが究極の美を考えている変態だった。


「……悪いな義勇之介」

「俺、頭を見る病院、知らないからよ」


そんな輝嶺峠義勇之介を憐れむ目で見る五十市。


「精神異常者として認識したな貴様」


悲哀の目を察して、輝嶺峠義勇之介はそう突っ込んだ。


【次回】https://kakuyomu.jp/my/works/1177354055478314367/episodes/1177354055487148357

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