【禍憑姫/零】2004年12月15日3時10分
住宅街を掛ける雌雄。
呑気に道路を歩く影がある。
人の形をした、頭部に歯が生えた魔物。
それが、厭穢と呼ばれる人類を抹殺する為に誕生した生物だ。
「―――――ッ―――ィ―――ッ!!」
祓ヰ師を確認する厭穢。
即座に己の殺意を放つ。
空気に浸透して流れるその気迫は。
瘴気と呼ばれる厭穢の特有の能力。
厭穢が放つ瘴気に触れると。
生物が抱く負の感情。
嫌悪と恐怖が発生する。
耐性が無ければ。
精神に異常を齎す。
一般人ならば最悪。
精神が崩壊してしまう可能性もあった。
「厭穢を確認しました」
「これより戦闘態勢に入ります」
しかし二人。
この程度の雑魚の瘴気に躊躇する事は無い。
足止めにすらならない瘴気を無視して。
五十市依光が肉体を加速させて厭穢に近づくと。
「はいよ」
「じゃあお先に一撃ッ!」
弾ける体。
放たれる俊打。
一撃食らう厭穢。
勢い良く後退する。
(速い)
(いや、当然でしょうか)
五十市依光の肉体は一流祓ヰ師と同じ様に洞孔が展開されている。
洞孔とは祓ヰ師が術式を扱う為に必要なエネルギーを通す血管の様なものだ。
臨核から神胤を生成し。
洞孔に神胤を流し。
穴径と呼ばれる神胤を放出する穴から術式を放つ。
それが、祓ヰ師の術式を扱う上での基本。
洞孔はその応用だ。
臨核から神胤を生成し、洞孔に神胤を流す。
この時、穴径から神胤を流さず、洞孔内で循環させると。
神胤によって肉体が活性化されていき、身体能力の強化を行う。
この洞孔は術式を使用する為に重要な部分だが。
洞孔を全体に展開している術師は少ない。
何故ならば、洞孔は先天的に肉体に根付くものであり。
後天的に、いや人為的に作るとしても、精々三割が限度。
祓ヰ師として生きるのならば、最低でも四割の洞孔が無ければ難しいのだ。
だから、祓ヰ師は血筋と才能を含めての天性の職業とも呼べる。
(私も迎撃の用意を)
(術式を発動します)
稲築津貴子も臨核から神胤を放出。
脊髄に寄生する生成器官が動き出す。
神胤は万物の起源。
あらゆる事象を構築する万能粒子。
脳裏に刻まれた術式の構築図と合わせる。
神胤を通す血管的役割の洞孔から放出する為の穴径に流し。
神胤が放出すると同時に術式が起動、空間に展開。
「混、昏、魂ッ―――こん、コンっ!」
肉体から光の雫が漏れ出す。
彼女の体を覆う光は。
彼女の肉体を変貌させていく。
栗色の髪は黄昏の髪へと変貌し。
瞳の色は琥珀の様に澄んだ色と変わり。
長スカートから捲れて出てくるのは。
十一本の毛並みの整った狐の尻尾。
稲築津貴子は眼鏡を外す。
彼女の眼の横にある耳が消える。
代わりに、その頭部に尖がった耳が生え出した。
術式展開完了した稲築津貴子。
「しゃっ!おらッ!!」
「っとと、うっわ、何時見ても不思議だよなそれ」
一方的に厭穢に攻撃する五十市依光は。
変貌した稲築津貴子の姿を見て驚嘆して言う。
「何を見ているのですか」
「厭穢に集中していてください」
彼の呑気な視線に苛立ちを覚える稲築。
「いやでも、それ、どうなってんのか気になるんすけど」
「どうしてそれ、狐耳と尻尾が出てくんの?髪も金髪だしよ」
彼女の変身。
その仕組みは一体何なのか。
どうしても気になる様子だった。
「……私の中には呪いがあります」
「その呪いは時に臨核を伝い神胤を生成しますが」
「莫大な呪いは消耗しても消える事はありません」
「その呪いが私の肉体を変化させているのです」
「時に、五十市くん」
軽く説明を終える。
五十市依光は名前を呼ばれて彼女に応答した。
「んぁ?――――ぶべがッ!!」
そして、前方から迫る厭穢の拳に顔面を叩かれた。
「前方から厭穢が来てますよ」
「言うの遅いんですけどッ!?」
「あ~痛ってェ……顎にモロ入りやがったッ……」
顎を抑える五十市。
その目には痛みによって涙を流している。
「しかし、意外と大丈夫そうですね」
「まあ当たり前と言えば当たり前」
「肉体に展開されている洞孔に神胤を流せば」
「流した部分は神胤に活発化されて強化される」
「全身に洞孔が開いている貴方なら」
「受けても精々、少し痛いくらいでしょう」
そう。
厭穢の攻撃を受けて。
軽傷で済んでいるのは。
彼の肉体に流れる神胤によって。
活性化した肉体がダメージを軽減させていたのだ。
まあ、だからと言って。
「もの凄く痛いんですけどッ!?」
痛いものは痛い。
しかし、その痛みが。
五十市依光の闘志に火を点けた。
「くっそ、たまんねぇなぁ!!」
「厭穢の野郎ッ残念だったなぁ!」
「今の一発、逆に気合入ったぜ!」
「うっしゃ!ぶっ潰す!!」
神胤を急速に洞孔へ循環させる。
循環させる速度が速ければ速い程。
肉体は更に強く、硬く、速くなるのだ。
「うらぁぁッ!」
旋棍で連撃。
速く、速く、速く。
相手が防禦する隙も。
回避する暇も。
怯む間すらも。
許しはしない。
だが。
「ッ、!?」
ぐにゃり、と。
厭穢の体は粘土の様に柔らかく。
肉体が裂けていく。
片方は五十市依光の攻撃を受けているが。
もう片方はするりと、五十市依光を擦り抜けていく。
「な、こいつら!分裂しやがった!」
「片割れ、そっちに行った!稲築さん!」
ととと、と駆け足で向かう厭穢。
「成る程、この穢厭の特性は分裂ですか」
「しかし、雑魚が二体に増えただけ……」
稲築津貴子は指を構える。
神胤を指先に集中させて、迎撃態勢をとる。
厭穢に狙いを定めて、術式を放つ。
「私の術式で……ッ?!」
その瞬間で。
厭穢は更に分裂した。
稲築津貴子は一瞬。
どちらに攻撃すべきか判断を迷わせた。
(更に増えたッ!?)
「くッ猪口才なッ!」
更に分裂した厭穢を見た五十市依光は。
「ヤベェ!稲築さんがッ」
このままでは、稲築津貴子が傷ついてしまう。
そう察した五十市は―――
【選択肢】
・【確実に倒して援護に向かう】
https://kakuyomu.jp/works/1177354055478314367/episodes/16816410413930795062
・【迷わず援護射撃する】https://kakuyomu.jp/works/1177354055478314367/episodes/16816410413930800930
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