06『シャーク・ショック』クズの皮を被った何か
【作品情報】
『シャーク・ショック』 2017年/アメリカ
監督:グリフ・ファースト
出演:タラ・リード、トーマス・イアン・ニコラス他
【あらすじ】
川のほとりの空き地を不法占拠し、トレーラーで生活する低所得者たちの村──気のいい若者のロブは、そんな中で他の住民たちの世話をしながらマイホームを夢見ていた。
その日、ロブは叔父と共に川の流れを利用する水力発電装置を敷設し、村に電線を引こうとしていた。突然の爆音に振り返ると、川岸で炎上するトラックと逃げ去る男の姿──事態を把握する間もなくロブはサメの襲撃に遭い、水上バイクを噛み砕く獰猛なそれから命からがら逃げおおせる。
戻ってきた村は水没していた。川岸で起きた爆発は、不法占拠に業を煮やした町の有力者デコナーが企図した嫌がらせだったのだ。しかし実行犯がロブに顔を見られたことを報告するとデコナーは怒り狂い、自らの保身のために目撃者を何としても消せと命ずる。
同時刻、村では惨劇が始まっていた。水上バイクで感電して死んだはずのサメは、なぜか電気を操る体質に変わっていたのだ。元々の凶暴さの上に特殊能力まで備えたサメの前に、身動きを封じられた住民たちはなすすべもなく殺されていく。
仲間を集め何とか生き残ろうとするロブ、デコナーの差し向けた刺客、そしてサメ──三つ巴の戦いが始まった。
観始めて最初の印象は、なんか低予算っぽい映画だな、という感じだった。
なにしろ、2017年公開にしてはCGがショボい。水中を泳ぐサメのカットは使い回しが多いし、水上に飛び上がる姿も露骨にハメコミ具合がわかるほど違和感があるのだ。
そしてさらに、作中の登場人物たちの造形も極めて雑である。「土地代や家賃を払わず半ホームレスのような生活をしている人々」という背景を加味したとしても、「知り合いの感電する様子を見て大笑いしバカにする」「サメのいる水の中に浸かりながらしょうもないギャグを言う」「手近な玩具を投げつける程度でサメを追い払えると思っている」など、まるで危機感やパニックを感じられない。主人公のロブとその恋人のジョリーンだけは比較的まともだが、それ以外の人間たちは総じてバカで、しかもクズなのだ。
まあ、作品としてのクオリティ云々ではなく、バカな人が無残に殺されていく様を楽しんで観るタイプのバカ映画なのかな……と思いながらだらだらと観ていたわけだが、最終シーンで僕は思わず「おっ!?」と身を乗り出した。
最後のシーンには、ちゃんと意外な結末が用意されていたのである。しかもそれは最序盤で何の気なしに発された言葉が伏線になっていて、しっかりと計算された展開であることが窺えた。
そして、物語が終わる際の主人公の独白──これもまた冒頭で示唆されたことが前振り兼ミスリードとしてうまく効いていて、なるほど、と思ってしまった。
要するにこの映画、最初と最後はちゃんと良い映画なのである。
観終わってから考えるに、これは監督のこだわりなのではないか、と僕は思った。どんなこだわりなのかというと──最初は、意図的にバカ映画の皮を被ることで結末を引き立たせる狙いかとも考えたが、正直そこまでやる意味もない。良い結末とは書いたが、いわゆる溜めれば溜めるほど解放の時の衝撃が増すというような「どんでん返し」ではないからだ。意外というのは中盤を見て僕が勝手にハードルを下げたからそう感じるだけで、物語としてはわりあい順当な終わり方と言える。だから、最初と最後のクオリティをしっかりと作りこめるなら、全編それで作りこんだ方が絶対に良い映画になるに決まっていると思うのだ。
では、こだわりとは何か。
これはあくまで僕個人の適当な推測に過ぎないが、監督は映画会社から「バカなサメ映画」をオーダーされていたのではないか、と思った。
「電撃を操るサメが人を殺す! これ面白くね?」
そんな単純な思い付きだけを起点にした、ちょっと毛色が違うだけの、頭を空っぽにして見られるサメ映画。それを作ることを求められていたのではないか、と僕は邪推する。
そして監督はその指令を忠実に実行した。雰囲気が重くなりすぎないよう、バカでクズな登場人物を配し、雑に大味にサメがそれらを食い殺していく映画を作った。
しかしそれだけで終わりたくない、という思いから、最初と最後がしっかりと繋がった、「物語」として最低限纏まった形を志向した。それが、この結果なのではないだろうかと。
そして、それは一定の効果を発揮していると思う。最後がちゃんと締まっているだけで、観終わった後の気分は悪くない。
もちろん、全部をしっかり作りこめればそれが一番なのだろうけれど──そうでないときには、そういう手もアリだ。
物語を創作する上で、参考にすべき点だと思った。
フルパワー体当たり創作修行 中川大存 @nakagawaohzon
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