05『オープン・ウォーター』『ロスト・バケーション』げに恐ろしきは、海という環境。

 

【作品情報】

『オープン・ウォーター』 2004年/アメリカ

監督:クリス・ケンティス

出演:ブランチャード・ライアン、ダニエル・トラヴィス他

 

『ロスト・バケーション』 2016年/アメリカ

監督:ジャウマ・コレット=セラ

出演:ブレイク・ライヴリー、オスカー・ジャネーダ他


 

【あらすじ】

『オープン・ウォーター』

 休暇にカリブ海のダイビングツアーへやって来た、ダニエルとスーザン夫妻。

 忙しい日々を忘れ雄大な海を楽しむ二人だが、突如としてトラブルが発生する。ツアー業者の数え間違いにより、二人がまだ戻っていないにもかかわらず船が出てしまったのだ。

 大海原の真ん中に取り残されてしまった二人は途方に暮れながらも船が近くを通りがかるのを待つことにするが、恐ろしいサメの影はすぐそばまで迫っていた……

 

『ロスト・バケーション』

 医学生のナンシーは亡き母から教えられた秘密のビーチで趣味のサーフィンを楽しむ。しかし不意の波に浚われ、流された先では獰猛なサメに遭遇。傷を負いながらも何とかたどり着いたのは、数歩分しかなく身を横たえるのもやっとの小さな岩場だった。

 連絡手段はなし、持ち物もなし。手負いの上、執念深く付け狙うサメ……絶望的な状況下で、ナンシーは希望を捨てず死力を尽くす。

 

 

 

 似た状況の映画を二本続けて観たので、一緒に紹介しようと思う。

 どちらも海の真ん中という厳しい状況に突然放り出されてしまった人間の顛末について描いたものだが、作品のトーンはかなり違う。

 『オープン・ウォーター』は、実話が元になっているストーリーということもあって、映画としてのストーリーの起伏のようなものはあまり重要視していない。むしろ、画面から感じるリアルさの方に重点を置いている気がする。

 ただ淡々と時間は経過し、二人は徐々に衰弱していく。最初の方は楽観的にお互いを励まし合っていた二人も余裕がなくなって罵り合いをはじめ、さらにいよいよ切羽詰まってくると弱音を吐き合う。残酷なまでにリアルだ。そうもなるよなぁ、と観ながら納得してしまった。

 なにしろ、『オープン・ウォーター』の主人公二人は、足場の上にいるわけでも、何かにつかまっているわけでもないのだ。ただ海面に浮いて、波に流され続けているだけ。実際にその場にいたら、これ以上ないほどに不安だろう。

 徹底的なリアリズムが支配するカメラ内の世界で、二人は悲惨な結末を迎える。そこでさえも盛り上がりやドラマチックさを排しているあたり、「これは本当に起きた、痛ましい事件なのだ」という事実を余計な脚色なしに伝え切ろうという意思を強く感じる映画だった。

 観ている間中苦しく、悲しく、重苦しい感情に翻弄され続けたが、しかし観ない方が良かったとはまったく思わない。そういう映画だったと思う。

 

 一方、『ロスト・バケーション』の方はストーリーの起伏や場面のインパクトに富んだ、サスペンス映画としてのポテンシャルを存分に生かした仕上がりになっている。

 監督があの名作『エスター』を撮った人ということで期待して観たわけだが、大満足の出来だった。

 この映画の魅力について語るなら、主人公のナンシーが「ヒーロー」として十分な素質を持っている、という点をまっさきに挙げたい。

 女性が「ヒーロー」というのは語用として正しいのかどうか不安ではあるが、「ヒロイン」ではなくまさしく「ヒーロー」なのだ。ナンシーは不運にもごく狭い岩場で進退窮まり、サメの影に怯えるのだが、それでも決して希望を失うことはない。知識と経験を活かし、裂傷を負った足をネックレスを使って自ら縫い(このシーンは観ていて思わず呻き声を上げてしまうほど迫真だった)、手を尽くして救助要請を試み、時にはサメの行動パターンを冷静に観察して大胆な行動に出る。自分の持てるものすべてを使ってほぼ塞がりかけている活路を必死で切り開こうとする様は、「タフ」そのものだ。

 そして重要なのが、強いだけでなく、「優しい」ことだ。ナンシーのたどりついた岩場には、翼を怪我して飛べないカモメがいたのだが、彼女は自分が抜き差しならない状況であるにもかかわらずカモメの身を案じ、手ずから翼の脱臼を治療する。そして映画終盤、覚悟を決めて海に出る前にカモメだけは安全に逃そうとするのだ。亡き母をはじめとした家族に思いを馳せるシーンも随所に挟み込まれ、彼女がとても情が深く、優しい人間であることが窺える。(恥を晒すようでなんだが、僕は観ている最中「ナンシーはこのカモメをいつ殺して食うんだ」とずっと思っていた)

 要するに、ナンシーは心から「応援したくなる」主人公なのだ。そんな彼女が死力を尽くし、ギリギリの危ない橋を何度も渡った果てに訪れるラストには、深い満足感が残る。

 やはり創作において、主人公の精神性はおおいに重要ということだ。

 

 それにしても。

 二本続けて観たせいで、マジで沖合に出るのが怖くなった。

 僕は生涯、海に行っても波打ち際だけで遊ぶことにする。

 ……『ジョーズ』だとそれでも割とヤバかったりするけれど。

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