04『シャーク・ナイト』優等生、とち狂う
【作品情報】
『シャーク・ナイト』 2011年/アメリカ
監督:デヴィッド・R・エリス
出演:サラ・バクストン、ダスティン・ミリガン他
【あらすじ】
休暇を迎えた大学生ニックは、友達と連れ立って秘かに思いを寄せるサラの別荘へ遊びに行く。
道中でガラの悪い男たちに絡まれたりしつつもニック達は無事美しい湖畔の別荘に到着し、モーターボートを駆って楽しい時間を過ごす──しかし、湖に突如現れたサメによってメンバーの一人が大怪我を負ってしまい、一行は恐怖と混乱に陥る。
容易には動かせない重体の友人のために医者を呼びに行こうとした時、往路で出会った男たちが現れる。ニック達は彼らに事情を話して協力を願い、船で対岸の病院へ向かおうとするが、サメは実はその男たちが殺人ゲームのために放流したものだった……!
バランスが良い映画だ、と思った。
主人公一行は「内気なガリ勉」「お調子者な三枚目」「ナルシスト気味な陽キャ」「真面目なヒロイン」「お色気担当」など、わかりやすく個性を際立たせたキャラクターを各種取り揃えているし、いわゆる敵側として登場する「サメを使った殺人ビデオを撮ろうとする連中」もその目的は単純に嗜虐趣味であったり、ターゲット層を見据えた商業主義であったり、はたまた過去の屈辱に対する復讐であったりとそれぞれに違い、群像劇的な物語の厚みを持たせている。
そして何より、映画のキモの一つともいえる「サメ」すらも、バラエティに富んでいるのだ。
この映画にはシュモクザメやダルマザメ、イタチザメなど、実に様々な種類のサメが登場する。一般的にサメ映画に出てくるサメと言えば「ジョーズ」で想像するような凶悪なホホジロザメなのだが、それだけに頼らず各種のサメをひっきりなしに登場させて観客を飽きさせない。ある意味、巷にあふれるサメ映画の先を行こうという意欲の表れでもあるのかもしれない。
当然、サメの種類が多ければそれらによって引き起こされる惨劇も実にパターン豊かだ。小型の種であるダルマザメが一度に何匹も食いついてきたりとか──もちろん、王道的なシーンも外さない。疾走する水上バイクに大型のサメが真正面から飛び掛かり、見事なカウンターアタック食いちぎりを見せるシーンなどは圧巻だった。
ストーリーも破綻なくまとまっている。全体において、非常にバランスの取れた優等生的な映画だったと言える。
……しかし。
ないものねだりの贅沢なのかもしれないが、面白い映画を見て楽しんでいる裏で「サメ映画と聞いて連想するようなぶっとび感」を求めてしまう部分があったりする。
登場人物それぞれの心情に説得力がある、真っ当なサスペンス映画だからこそ──そこに、破天荒なまでに抜きんでるということのない優等生の弊害を感じてしまったりしたのだ。
とはいえ、映画としては退屈せずに見られる良いストーリーだった……
というところで締めよう、と思ったのだが。
スタッフロールが終わった後、僕のこれまでの感想を覆す「謎のCパート」が始まったのである。
それはミュージックビデオ風の映像にのせて、登場人物たちがラップ調の歌を歌うものだった。
そして、その歌詞はストーリーや、場合によっては歌っている登場人物本人の末路までを揶揄するような、おふざけ的なものだったのだ。
こういった手法が悪いとは、まったく思わないのだけれど──あまりの脈絡のなさ、そして今までストーリーに入り込んでいたからこそのメタフィクショナルな衝撃に、僕は逆に真顔になってしまった。
「ぶっとび感が欲しいとは思ったけど……こういうことじゃない……」
それはまるで、今までずっと真面目にやってきた優等生が卒業式の日に突然とち狂って壇上で全裸になってタコ踊りを始めたかのような──爆笑するよりもむしろ不穏というか、心配になるというか、そういう空気感だった。
なんで突然? という、その一言に尽きる。
見なかったことにしようかと思ったけれど、そうもいかない。結果として、見終わった後の感触は非常にちぐはぐな印象になってしまった。
結論……メタなおふざけは、場をわきまえて。
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