03『アイス・ジョーズ』雪山にサメが出るおとぎ話
【作品情報】
『アイス・ジョーズ』 2013年/カナダ
監督:スコット・ホイーラー
出演:アレクサンダー・メンデラック、ケイト・ノラ他
【あらすじ】
スキーやスノボを楽しむ観光客でにぎわう、とある雪山。
休暇中の軍人ウェイドは、弟の姿が見えないことに不審を抱き、探そうとする。
同じ頃、パーティをする観光客たちの前に現れた地元の老人が、過去に惨劇を引き起こした怪物「スカッカム」が再び山に現れた、と警鐘を鳴らす。
監視員やスキー場オーナーは取り合わないものの、スキー場に常駐する保安官を始めとした数人は行方不明者が後を絶たない状況を座視できず、ウェイドと同じく捜索を開始する。
ほどなくして明らかになったのは、まるで海中のように地中を泳ぎ、人を捕食する異常なサメの存在だった。
二本目にしてキワモノに手を出してしまった……。
この『アイス・ジョーズ』、一言でいえば「雪の中を泳ぐサメが人を襲う」という、ただそれだけの話である。
「え!? 雪の中にサメが!?」
そう食いついてこの映画を見た人が楽しみにしているのは、まあまずもって「雪山という場面設定とサメがいかに調和するか」ということではないだろうか。(それ以前に「どうしてそうなった」とも思うだろうが、もともと理屈のつかないものに無理に理屈をつけても虚しいだけだし、パニック映画でそんな納得する深い理由なんてないだろうと自己解決した。僕の場合はだが)
陸地でしかも寒冷地方、そしてサメ。本来であれば決して交わらない両者が交わったところに、どんな化学反応が起きるのか。平たく言えば、「雪山の中に現れるサメでしかなしえないシーンやストーリー展開」を見たい、と期待するわけである。
結論から言うと、その期待が報われることはなかった。
本作では、ただただ海のような挙動でサメが現れ、雪山の中をプラプラ歩いていたスキー客が普通に食われる。それだけである。
戦い方も、特に「雪山ならでは」的なものは何もない。というか、普通に銃を撃っているだけである。
陸地の硬さを無視してざばざば泳いでいるサメは物理法則を無視した、言わば霊体のような感じっぽいのだが、なぜか銃弾は普通に当たる。「当たるのかよ!」と僕は突っ込んだ。
そして、当たってもなぜか効かない。「効かないのかよ!」と僕は突っ込んだ。
泳ぐ時と人体を食いちぎる時で都合よく霊体と実体を切り替える(その仕組みについても特に説明はない)サメ、しかもたまさか銃弾が当たってもノーダメ。皆さんは、こんな敵が登場したらどう解決すればいいか悩まないだろうか? 登場人物になりきって考えた時はもちろん、脚本家目線で見ても「どう終わらせればいいんだ……」と頭を抱えそうなこの映画、終盤で驚愕の解決法が明らかになる。
それは「供養」だ。
この怪物は20年ほど前にも出現しており、その時には現地のシャーマンが荒ぶるサメの魂を鎮めて裏山に慰霊碑らしきものを立てていたのだった。今回の出現の原因は偶然それが倒れたからで、偶然その場に行き会った女性(この人も単独行動で山をプラプラ歩いている。食われても知らんぞ)が、起こっている事態について何も知らないまま気まぐれに慰霊碑を立て直したらサメは消滅したのだった。
この展開をつぶさに眺めながら、僕は呟いた。
「……いや、なにそれ……」
事態の深刻さを周囲に叫び続けた20年前の生き残りも、スキー場オーナーや町長に疎まれながらも必死で治安を守ろうとした保安官も、サメに襲撃されている人を自らの身を顧みず助けようとしていたウェイドも、まったく何一つ関与していないところで事態は決着を迎える。
そして、映画は終わる。
「……いや、なにそれ……」
エンドロールを呆然と眺めながら、僕はもう一度呟いた。
とまあ、そんな感じだったのだが。
視聴後に少し時間をおいて考えてみると、このストーリーに奇妙な既視感を覚えることに気づいた。
それは「遠野物語」だとか「捜神記」だとかの、いわば怪異伝承系の物語。そういったものの中には、ちょうどこの「アイス・ジョーズ」と同じような感じで「怪異現象は意外なところに原因があったのでそこをケアしたらぴたっと治まりました」みたいな、唐突に終わる話がいくつかある。それっぽいな、と思った。
もし、この映画の製作陣が突飛なサメ映画という体裁の中で「古き良きおとぎ話」のマニアックな再現をしようとしていたのだとしたら、案外それは理想に忠実な形で実現できているのかもしれない。だとしたら、エンタメ的な見せ場が少ないというだけでこの映画を駄作と決めつけるのは早計であるようにも思えてくる。
……いや、ないか。ないな。
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