第15話 生きるは聖戦、死は救済(後)
前回のあらすじ。ペリドットが今生丸を打ち首にした。
「えぇ……?」
だってあのペリドットだぞ? 俺を師匠だなんだと慕って、このどうしようもない世界を本気で救おうってカリスマだけでクラン一つを束ねちまった夢見る少女だぞ?(少なくともガワだけは)
そのペリドットが――
「えい! やあ! とりゃあ!」
実に可愛らしい掛け声と共に〈救済聖戦〉のメンバーを次々に虐殺していく様は、俺をして呻かざるを得ない。いや虐殺というのも正しくはないのかもしれない、ペリドットが手に掛けるクランメンバーは、どいつもこいつもこうべを垂れて首を差し出し、ペリドットはその首を一撃のもとに叩き落としている。
武士の介錯でもないだろうが、ある種の慈悲は感じる。いやそれだけに目の前の状況がどうしようもなくイカレているのだが……あん?
なんだ、ペリドットの纏うオーラが……?
「あっはははははぁぁぁ!! お仲間に手を掛けるとは、いきなり頭がおイカレなさいましたかぁ!? 今日からクラン名を〈共食聖戦〉に変更なさってはいかがですぅぅぅぅ!?」
ペリドットの本来の相手であるカンナが大鎌振り上げて迫る。一方十人目の首を落としたペリドットは、緩慢とした動きで振り返り――その動作に似つかない速度で振られた手斧が大鎌をぶっ叩き、派手な金属音が鳴り響く。
「んっ……!?」
それと同時に、カンナの体が大きく後ろへ後退した。自発的な後退でないことは、カンナの体勢と表情を見れば一目瞭然だ。
「あなたにだけは――」
血に塗れた手斧を振りかぶり、低い姿勢でペリドットが突撃。弾丸の如き勢いでカッ飛ぶ体を覆うオーラは、さっきまでよりも格段に膨れ上がっていた。
「イカレているとか言われたくありませんよっ!」
「くぅっ……!?」
右から左から、縦横無尽に襲いくる手斧を大鎌を駆使して捌くカンナも流石と言うべきだろうが、それ以上に目を見張るのがペリドットの力だ。
度重なる手斧の連撃により、鎌の刀身が砕かれ、さらに攻撃を受けた柄もヘシ折られた。ゴミになった柄を投げ捨てながらカンナが舌打ち。
「急にギアが上がりましたね……! 一体何だと言うんですかぁぁぁ!?」
「滅亡特典【ソウルフード】によって、今生丸さんたちの思いは私が受け取りました。戦場で散った彼らは、私の中に生きている! あなたがたった一人で対峙しているのは、〈救済聖戦〉そのものです!」
「散ったも何も散らせたのは貴女ですが???」
俺が思ったのに言わなかったことをあっさり口にしやがった……しかし、
恐らく、オーラを纏っている間にプレイヤーを殺すことで、ステータスの一部を吸収する能力……! いや物騒だな、殺せば殺すほど強くなるとかヤバいだろ。何がヤバいって、ペリドットには自分から首を差し出すメンバーが大量にいるってのがヤバい。
「カンナさんが絡んでこなければ、こんなことにはならなかったんです! つまり今生丸さんたちが死んでしまったのは、カンナさんのせい!!」
「そもそも論を言いだすのならば貴女を売ったランダムさんに非があるのではぁぁぁ?」
「ランダム様が悪いわけないでしょうぶっ殺しますよ!」
「話が通じない……!!」
あのカンナにここまで言わせるとは……ペリドットの評価を修正しておく必要があるな……上か下かはさておき。
「〈救済聖戦〉の名の下に、あなたに死という救済を与えます!」
「くっ、流石ランダムさんの弟子……! 蛙の子は蛙というわけですか……!」」
「俺がヤバいみたいに言わないでくれない?」
「大した特徴もないくせに貴方ほどヤバい人もそうそういませんがぁぁぁぁ?」
「この状況で俺にも喧嘩売るなんて余裕あるなぁ、お前が生き延びれたらその喧嘩買ってやるよ!」
合わせ鏡みたいな不毛な言い合いをしてる間にも状況は進み、ペリドットが動き回るカンナを追い詰める。
あと一歩踏み込めば手斧が届く--その時、カンナの右手が光を纏う。
「【グリーンブレード】!」
へぇ、アレ武器を介さなくても使えるのか。放たれた真空波が向かったのはペリドットの足元、ペリドットはそれをジャンプして回避。
「跳びましたね?」
瞬間、ギラリと光るカンナの目。後手後手に回っていたカンナがここへ来て自ら踏み込み、右手を振りかぶる。
「いかにステータスで上回ろうが、足が離れていては踏ん張れませんよねぇぇぇぇ!?」
滅亡特典【ギガトンパンチ】。結局俺は喰らわなかったから威力のほどは知らないが、なるほど確かにそれはマズい。
空中でまともに食らえば吹っ飛ぶぞ――果たして、ペリドットの対応は。
「くぬぅっ!!」
手斧を一本ぶん投げた。しかし機動も単調なその攻撃をカンナは苦も無く躱し、的を失った手斧が地面に突き立つ。
……なるほど、これは勝負あったな。
「苦し紛れ……と言いたいですが、その反応ができただけでも賞賛しましょう! 遥か彼方まで吹き飛んで――がっ!?」
――ペリドットの勝ちだ。
「これは……! まさか【スパークリング】……!?」
ぶった切られた自身の胴を見て、カンナが呻く。
【スパークリング】。雷の輪を発生させる滅亡特典であり。ペリドットはぶん投げた手斧を起点に【スパークリング】を発動させ、地面に突き立った直後に雷の輪を発生させることで背後からカンナを両断したのだ。
ずしゃ、と地面に落ちたカンナが、ペリドットを見上げながら言う。
「ふ……いいでしょう、今回ばかりは私の負けです。ですがタネは割れました、次も同じ手が通用するとは思わないことですねぇぇぇぇ?」
「いえ、何度も向かってくることはあなたにはできませんよ」
「デスペナルティのことを言ってます? その程度でわたくしの執念が潰えるとでも――」
「滅亡特典【ソウルフード】は、あなたの魂を喰らう力――この意味が分かりますか?」
「……?」
……あっ、まさか。
「【ソウルフード】の発動中に倒されたプレイヤーは、ステータスの一部を奪われる。この効果は、リスポーンした後も有効です。流石に世界が滅亡した後は元通りですが」
「……! 世界が滅ばない限り、奪われたわたくしのステータスは減少しっぱなしだと?」
「そういうことになります――そうである以上、私たちに挑み続けるメリットなんてないですよね? というわけで、あまり絡まないでいただけますと幸いです」
ペリドットが手斧をカンナの頭に振り下ろす。魂とやらを喰らったせいか、オーラが一層膨らんだ。
「ふぅ……一見落着ですね!」
「いや、見事なもんだよ。流石だな、ペリドット」
「ありがとうございます! ランダム様の名に恥じない戦いができま――あぁっ!?」
弟子二号がうっきうきで駆け寄ってきたが、地面に突き立った手斧の存在を失念していたらしく足を引っかけた。
しかし強化されたペリドットの脚力は、手斧で転ぶほどヤワじゃない。むしろ、引っ掛かった手斧の方が凄まじい勢いで蹴り飛ばされ――
「あびゃっ」
「らっ、ランダム様ぁぁぁぁぁーーーーっっ!!??」
手斧が俺の心臓を穿ち、俺のステータスの一部がペリドットに喰われた。
◆◆◆
「も、申し訳ありません申し訳ありません!」
「あー、まぁ事故だからそんな気にしなくていいって」
リスポーン後に俺を見つけたペリドットが平謝りしてくるが、どうやら謝っている理由が少し違ったらしい。
オーラのせいでやや分かりにくいが、二番弟子が頬を赤らめて懺悔する。
「いえ、その……ランダム様の一部が私の中にいると思うと……決して良くないことのはずなのに、なんだかこう、ゾクゾクしてしまって……ひどく気分が高揚するんです……! 師匠を殺してしまったというのに、どうしてこんなに……!」
……うん、まぁ。
やはりペリドットも、アポカリプス・オンラインのプレイヤーなんだなぁと今さらながらに確信した。
アポカリプス・オンライン 日暮晶 @hgrs-akr
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