コピー
弱腰ペンギン
コピー
「俺さぁ。コピーをしろっていったよね」
「ハィ」
「なにこれ」
俺の手には台本。机の上にはコピーされてきた台本が、十数冊。
10枚に満たない薄い台本だが、演者さんに渡す大事なものだ。
それをアシスタントに頼んでおいたのだが。
「コピーした台本です」
「そうね。手書きのね!」
時間かかってるなーって思ったらまさかの人力。機械を使えよ、令和だぞ今!
「しかも表紙まで手書き!」
かわいいくまさんの絵だよ。俺のだけ白紙だよ、悲しいよ!
「いやぁ、無地はさみしいじゃないっすか」
「なら俺のも書いて!」
演者さんごとにかき分ける余裕があるなら雑な奴でいいから、少し時間とってよ!
「そんな恐れ多い」
演者さんのに書くのは恐れ多くないってか。恐れ多いわ!
「後なんで原稿に校正入ってんの。俺のだけ校正入ってない原稿になっちゃってるじゃん。コピーじゃ無くなってるじゃん!」
誤字脱字もチェックされてます。
「いや、文章自体が間違ってるとか誤植とか、修正必要ですよね?」
「その通りだけども、頼んだ仕事はコピー!」
修正必要なら後で赤入れようよ。俺のだけ入ってないってもうこれ仲間外れ!
違った。この台本使えなくなっちゃってるからね!
「もう修正した台本でいいから、俺の分頂戴! それでやるから!」
「そうなると思いまして」
スっとアシスタントが台本を取り出した。
「お、おぉ」
あるなら最初から渡してほしいんだけど……俺のだけくまさんじゃなくてパンダさん……。しかも帽子被って椅子に座ってるぅー。かぁわいいー。
「ちなみに表紙を少しずらすと」
座っていた椅子がずれて消え、代わりに鉄格子。
「動物園に入っちゃった!」
ナニコレいじめなの!?
「違いますよ。刑務所です」
「なおのこと悪いわ!」
俺監督だよ!? なんでこんなことされてるの!
「さらに横に動かすと」
表紙をさらにスライドすると、絵の周りにスクリーンが出現。それを外から見ているくまさんの絵になった。
「一連のドラマをノンフィクション映画として撮影した監督の図です」
「お、おぉ?」
感動していいのか怒ったほうがいいのかわからなくなったので、とりあえずよかったとしておこう。角を立てないためにも。
「しかし、これだけの仕掛けを考えたりしたら、あの時間じゃ出来ないだろう。どうやったんだ?」
「はい。一人では無理でしたので——」
そういうとアシスタントがもう一人出てきた。
「コピーしてきました」
その後ろからまたアシスタントが。
「出来るだけ効率よくするために」
「何人かコピーしておこうと思いまして」
「ちょっとコストがかかりすぎるかなって思ったので」
「「「十人くらいでやめておきました」」」
そこで俺はブラックアウトした。
「っていう夢を見たんだよ。面白くない?」
「全然」
俺は稽古が終わった後の居酒屋で、助監督に愚痴をこぼしていた。
が、ニコリともしない。なんだつまんない。
「そもそも疲れてるから意識飛ばすんですよ、監督。だから変な夢見るんです」
「そうかなぁ」
アシスタントがコピーされちゃうってのは面白いと思うけども。
ともかく諭されて早めに切り上げることになった。明日も稽古があるからな。仕方がない。
「どうする。監督バグったままなんだけど」
「面白いからいいんじゃね?」
「助監督、どうにかしてくださいよ」
「えー、あたし嫌。っていうか普通突っ込みくるでしょ」
「監督、人がいいんだからからかうのほどほどにしようって言ったじゃないですか」
「すーぐ人を信じるし」
「さみしがりだし」
「一人だと死んじゃうし」
「「「ウサギかっての」」」
「どうすんの、これ」
「明日アシスタントが三つ子でしたって言ったらまたバグると思う?」
「おもうー」
「スタッフの数が10人だったとか思い出しませんかね?」
「「「無理だろ—」」」
「ですよねー」
「まぁ、面白いからいっか」
「「「そっすねー」」」
コピー 弱腰ペンギン @kuwentorow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます