最終章 その時は突然に
第37話 サプライズ(1)
三木くんから告げられた「実はユリカちゃんと三木くんが腹違いの姉弟」なんていう特大爆弾を抱えながらなんとか仕事をこなしていた。
「ゆう……じゃなくて藤城さん。今日は直帰ですね」
ユリカちゃんなにやら企んでいる顔で含み笑いをする。そういえば今朝もなんかコソコソしていたような……?
(職場でニマニマしすぎじゃないか……)
ユリカちゃんはニッコニコで自分のデスクに戻っていく。三木くんは笑顔を装いながらもちょっと複雑な顔(に見えるだけかもしれない)
「そうっすね。えっと、それじゃ、お先に」
「お疲れ様です〜」
***
「あぁ、だいぶ挨拶が長引いちゃったなぁ」
挨拶をしに行った担当者の話がやけに長くてもうこんな時間だ。まぁ、うん……、飲みに誘われなかっただけでもマシだと思っておこう。
スマホを眺めるともう夜の20時。住宅街の方は人もまばらで街灯たてるチカチカという音が聞こえるほど静かだ。
冷蔵庫にはたんまりストックの食材があったはずだし、買い物はいいか。
なんて考えていたらなんか良からぬことを企んでいそうなユリカちゃんを思い出してちょっと不安になる。
とんでもないこと考えてないといいが……。
マンションについて 念の為、チャイムを鳴らす。なんでもないはずなのにやけに心臓がドキドキする。
うん、なんか予感がする。ユリカちゃんはいるはずなのに応答なし。そのまま音ロックを自分の鍵で解除してエレベーターに乗る。
あの人は一体何を企んでいるんだ全く。
ドアの鍵、かかっている。
俺がドアを開けると、部屋の中は真っ暗。真っ暗……?
と玄関の電気スイッチに手をかけようとした時だった。
「サプラ〜〜イズッ!」
パーンと鳴り響くクラッカーの音、複数人の足音。パッと電気がついたと思ったら目に入ってきたのは、一人めっちゃ浮かれた様子のユリカちゃん。それから俺のバカ兄貴と親父。
奥にはちょっと苦笑いしているマリコさんと俺のお袋。
ちょっと予想だにしてなかったメンツに俺は言葉を失う。お、俺誕生日じゃないよな……?
えっと、なんだこれ?
「ゆうくん! おじさんになるんですよ〜!」
きゃっきゃっ! と俺の兄貴と浮かれまくるユリカちゃん。誰がおじさんだ、まだ華の20代だぞ。というかアンタより俺の方が若いんだぞ。
「えっ?」
「察しが悪いな、弟よ」
バカ兄貴が恥ずかしそうに鼻の下を擦る。ユリカちゃんに手を引っ張られてリビングまで何もわからないまま歩く俺。
「お姉さんのお腹には赤ちゃんがいるのっ!」
パァンッ、と机に置いてあった最後の一本をユリカちゃんが鳴らした。
「ということは……? ゆうくんは伯父さんですよ!」
マリコさんは少し恥ずかしそうにお腹をさする。親父とお袋が浮かれた顔をしているのはそういうこと……か。
「お、おめでとう」
「ありがとう」
俺は少し前に、マリコさんと兄貴が喧嘩してうちに来ていたことを思い出した。幼馴染の二人にはあるまじき喧嘩だな、なんて思っていたがもしかしたら、マタニティーブルーってやつだったのかも。
いや、そりゃ違うか? まぁ……なんでもいいか。
「お姉さんと一緒にお店のPRを相談してたら、妊娠が発覚して……PRは赤ちゃんが産まれて育児が落ち着いたらってことにして、今はみんなでお祝いしようって」
んで、なんで俺にだけサプライズ……?
俺の方を見てマリコさんがニヤリと微笑む。
(え、もしかして俺、プレッシャーかけられてます……?)
「さ、悠介も帰ってきたことだし、食いますか!」
仕切り出す兄貴にちょっと救われて、俺は着替えに寝室に向かう。一人で部屋着に着替えているとじわじわと実感する。
小さい頃から一緒にいた兄貴と幼馴染のマリコさんが結婚したってだけでもびっくりなのに、お腹に子供……。そっか、家族が増えるんだよな。
じんわりと目頭が熱くなる。俺も年食ったな……。
「ゆうく〜ん、早く早く!」
ドア越しにユリカちゃんの声が聞こえた。
「はいはい、もうちょっとっす」
兄貴が料理を温め直しているのかいい香り、お袋とマリコさんの話し声、楽しそうなユリカちゃん。
(次は俺の番……でいいんだよな)
「お待たせしましたよっと」
「いっただっきま〜す!」
ユリカちゃんに合わせてみんなが手を合わせた。
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