鬼滅の刃に学ぶキャラクター小説の書き方。

小膳

鬼滅の刃に学ぶキャラクター小説の書き方。

*このコラムは小説投稿サイトで大人気になれる小説の書き方講座ではありません。そんな方法を知っていたら私はとっくにブクマ数5000兆超え作者になっているでしょう。あくまでも不人気作者の私、小膳が自分なりに書き方を模索しているエッセイになります。



***



 こんにちは。小膳です(PNを九灯小膳からただの小膳にしました)。


 「主人公に魅力がない」……あなたはあなたの小説を読んだ人に、こんなことを言われた経験ありませんか。


 私はこれまでに百万回くらい言われました。


 以前公開したエッセイでも似たような話ばかりしているんですけど、これは私にとって本当に大きな悩みでした。


 だからもし同じような悩みを抱えている人がいたら少しでも助けになりたい! という使命感で、このエッセイを公開します。


 今回は私が鬼滅の刃を参考に(鬼滅の名前を使えばPV稼ぎにもなって最高だぜという自己承認要求に突き動かされるままに)、キャラクター小説の書き方を探っていきます。




もくじ

1.キャラクターには意思と動機が必要

自分から行動しないキャラクターを読者は好きになってくれません


2.鬼滅の刃のやり方を見てみる

一話目でよくわかる炭治郎というキャラクター


3.主人公にとって都合の悪い人の存在が非常に重要

富岡義勇とは炭治郎にとってどんな存在だったのでしょう


4.セリフだけ抜き出して書いてみよう

キャラクターになりきって書く方法とは


5.まとめ

物語とは主人公の行動と動機によって形作られるのです







1.キャラクターには意思と動機が必要



 私が以前書いていた小説を例文に書き直してみると、こんな感じです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 魔法によって支配されているある世界。そこで魔王が世界征服を始めました。勇者の血を引く主人公は、使命によって魔王を倒しに行きます。そういう血筋に生まれたからです。


 主人公は修行し、魔王の討伐隊に入ります。勇者の血を引いているのでみんな歓迎してくれます。


 仲間が魔王の城を見つけたので、主人公も一緒に魔王を倒しに行きます。


 主人公はなんか勇者の血筋に代々伝わるすごい力で魔王を倒しました!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 まあだいたいこんな感じでしょうか。先述の通り、こういった小説を人に見せても評判は最悪でした。要するに主人公ほかキャラクターに魅力がないわけです。


 その大きな理由の一つは、私の小説には主人公に意思や動機がなかったからだと思います。



 例文を見ればわかる通り、主人公は自分の意思で行動しておらず、動機がないわけです。だからいつも行動が行き当たりばったりでブレブレ、なのにヒロインはなぜか主人公を好きになり、人々から賞賛される。読者からは理解不能です。


 当然ですが、こんな主人公を好きになってくれる読者はいません。メインキャラクターに魅力がない、読者を惹き付けられないというのは、キャラクター小説として致命的です。






2.鬼滅の刃のやり方を見てみる



 ではここから私の大好きな漫画、鬼滅の刃を見てみましょう。


(にわかなんて言わせませんよ。私は連載開始からずっとジャンプ本誌で追ってますからね! と、どうでもいいマウントはさておき)


 この漫画は魅力的なキャラクターがたくさん出てきますが、やはり一番は主人公の炭治郎ですよね。


 当然みなさん鬼滅の刃は読んだことあると思いますが(さりげないキメハラ)、第一話をおさらいしましょう。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 炭治郎は炭焼きを家業にしている家の長男です。父親が死んで暮らしがあまり楽ではないため、炭治郎は家族を養うため働き詰めです。


 ある日、炭治郎が家に帰ると家族が皆殺しにされていました。鬼に襲われたようです。妹の禰豆子だけがかろうじて息がありました。炭治郎は禰豆子を何とかして助けなければなりません。


 富岡義勇という鬼狩りの男が現れ、お前の妹は鬼になったから殺さなければならないと言われます。しかし炭治郎は拒否し、渾身の力で抵抗します。


 義勇は鱗滝という男の元へ向かえと炭治郎に告げます。禰豆子を人間に戻す方法はあるのでしょうか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 この一話だけで「炭治郎は家族思いの優しい子である」という性格と、「そんな炭治郎だからこそどうしても妹を助けたい」という動機(やりたいこと)の二つが読者にわかりやすく提示されていますね。


 炭治郎は一生懸命正しいことをしようとしているわけです。これだけでもう読者の私たちは彼のことを応援したくなっちゃうじゃないですか。


 もうひとつ重要なのは、設定の説明が非常に少ないこと。呼吸、鬼殺隊、鬼の詳細、炭治郎の血筋、義勇の詳細といった重要な設定は序盤は語られません。そもそも鱗滝が誰なのか、彼が何をしてくれるのかすら謎のままです。


 まず主人公の炭治郎がどんな人なのか、何のために行動するのか。炭治郎のキャラクターとその目的に情報を絞り、余計な雑味をすべて省くことで、より動機をわかりやすくしているのではないでしょうか。吾峠先生はやっぱりすごいや!





3.主人公にとって都合の悪い人の存在が非常に重要


 

 鬼滅一話で主人公・炭治郎の意思と動機をさらに明確にしてくれる人がいます。そう、みんな大好きなあの人です。


 それは富岡義勇という「主人公にとって都合の悪い人」です。


 なぜ私が都合の悪い人と言ったかというと……


 最初、義勇は炭治郎の妹、禰豆子を殺そうとします。禰豆子は人を食らう鬼になってしまったからです。元に戻す方法がないわけではないけど、すごく難しい。だから人を襲う前に殺すしかない!


 これって禰豆子を助けたい炭治郎にとってはとても都合が悪いじゃないですか。


 ですが、炭治郎はそれでも「禰豆子を助けたい」という自分の都合を優先します。彼にとっては他人を危険にさらすことよりも、自分の都合のほうが大事なのです。


 誰が何と言おうと自分の思いを押し通す。これこそまさに「主人公の意思と動機」なんじゃないでしょうか! それが義勇と相対することで明らかになっています。



 主人公側にとって都合の悪い人というのは、主人公の意思と動機を読者にはっきりと伝えるための重要なキャラクターなわけです。


 例えば義勇が問答無用で禰豆子を殺すような人だったら、それは炭治郎にとって鬼と同じただの敵です。


 あるいは義勇が鬼となった人間を戻すことができたり、炭治郎のかわりに無惨をやっつけてくれる「都合のいい人」なら? 炭治郎が強くならねばならない、戦わねばならない理由が薄れてしまいます。


 実際の義勇は炭治郎に次の目標を与えはするけれど、直接助けたりはしないので炭治郎は自分ですべてやらなきゃいけなくなった、という立場の人でしたよね。


 つまり義勇は物語を動かす「主人公にとっていい具合に都合が悪い人」なのです。義勇がそんな人だったからこそ、主人公の炭治郎が自分から動き出して鬼滅という物語が始まるわけじゃないですか。


 私はこの義勇というキャラクターは鬼滅という物語で多くの役目を担った、非常に重要な役どころだと考えています(私が義勇を好きなのでちょっとひいき目ですが……)。


 私の書いた例文で言うなら、魔王の部下の男女が恋人同士だったとします。主人公がその片方を殺したら、当然残されたほうは怒り狂って復讐しようとします。主人公は愛する者を失った復讐者という自分と同じ存在を生み出してしまいます。


 あるいは魔王の呪いによって生かされている少女(主人公にホレている)がいて、魔王が死んだらその少女も死んでしまうとしたら?


 こういった都合の悪い人たちと出会ったとき、主人公がどう対応するかによって、その意思と動機を読者に明確にしてくれるはずです。





4.セリフだけ抜き出して書いてみよう



 主人公には意思と動機が必要である、物語ではそれらを明確に読者に伝えなければならない、ということがわかりました。


 では具体的にはどういう方法で書けばいいのか?


 私が人のアドバイスなどを参考にした書き方は、「まずキャラクターのセリフだけ全部書いてみる」という方法です。


 そんな簡単な方法でいいの? と疑問に思われるかも知れませんが、私がやってみた限りではなかなか効果的なようです。


 私自身の過去作を読み直してみると、主人公の考えや動機が読者にわかりづらいのは、地の文で説明しすぎていたからというのが理由のひとつだったように思います。


 では先に出した私の例文のような、「勇者の血を引く少年が魔王討伐の旅に出る」という物語の始まりをセリフだけで書いてみましょう。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おはよう、母さん」


「あ、ユーシャ。起きた? お前ね、実は勇者の血を引く子孫だから。魔王を倒しに行ってきなさい」


「え?! 何で?! ちょっと待て! どういうことだよ」


「いいから行きなさい。ほら、お弁当とお金と」


「いや、学校に行かなきゃいけないしさあ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ユーシャくんはそこらへんにいる普通の少年なんだから、いきなり魔王を倒しに行けって言われても、こういう反応をするのが普通だよね……と、地の文を書いているときは気づかなかった、キャラクターの都合や感情といったものに作者の私自身が気付きます。


 それなら「冒険が大好きなヒロインがいて、勝手に魔王退治に行くことを決めてしまう。そのヒロインのことが好きな主人公は仕方なくついていく」とかなら?


 あるいは魔王の手先がヒロインをさらってしまうとか、殺してしまったら?


 と、こんな具合に会話の流れから主人公を動かすアイデアが自然と頭に浮かんでくるのです。


 地の文とセリフを一緒に書いて行くと、どうしても神視点というか、世界を俯瞰した感じで書いていかねばなりません。作者がキャラクターに感情移入して書きにくくなってしまいます。


 ですがセリフのみで書いてみると、そのキャラクターが何を考えているのか、どのような意思表示をしたいのかが作者自身の目ではっきりわかります。そのキャラクターになりきったものの考え方、喋り方ができるわけです。


 また、そうすることで「このキャラクターならこの相手にはこういう態度でこういう喋り方をするはずだ、こういう表情で、こんな感じにお菓子を食べながら……」と、その場のキャラクターの情景や関係、距離感なども頭に浮かんできます。


 キャラクターとそれを取り巻く状況を、よりはっきりと想像することができるんです。キャラクター自身の目から世界を見れるような感じです。


 あとはそれを補足するように、セリフの合間に地の文を書き加えていけばいいのです。


 まずセリフ(キャラクターの意思や感情など)があって、それから地の文です。






5.まとめ



・主人公の魅力とは動機と行動である!


・それをはっきりさせるのは「主人公にとって都合の悪い人が現れる」というイベントである!(もちろんそれだけではないけど、これが一番わかりやすい)


・まずセリフだけ抜き出して書いてみる! そのセリフの合間を地の文で埋めるようにして物語を作る!


・つまり物語とは主人公の行動と動機によって形作られるのである!


・吾峠呼世晴先生はすごい天才である!



 以上が鬼滅の刃を参考にした私なりの結論です。


(主題とズレるので省きましたが、もう一つ大きな助けになってくれたのがBL(ボーイズラブ)漫画でした。このことはまたいずれ別のエッセイで書きます)


 長々と続きましたが、ここまで読んでくれてありがとうございました。過去最高に執筆に時間がかかったエッセイとなってしまいましたが、あなたの創作活動に少しでもお役に立てたならば嬉しいです。



***



 最後にCMです! 小膳の新連載『ブロイラーマン』が開始しました!


 汚染された霧雨が降り続ける巨大工業都市を舞台に、ニワトリ頭のヒーロー・ブロイラーマンと限界オタク少女の戦士リップショットが戦いを繰り広げます。作者が大好きないろんな少年漫画をフィーチャーしまくったエンタメ小説になります。


 カクヨム『ブロイラーマン』で検索するか、下の『作者の他の作品』から飛んでね!



(小膳)

Twitter @kutokozen

note https://note.com/kutokozen

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼滅の刃に学ぶキャラクター小説の書き方。 小膳 @kutoukozen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ