とても素敵な作品でした。
おすすめです!
雪かきボランティアをする高校生たちの物語。
美術部の史乃は、意地を張ってしまったおかげで漕艇部のメンバーたちと一緒に雪かきボランティアをすることに。
最初は意地で参加していた史乃だったが、ボランティアを通じて、美術部の活動では得られないものを得てゆく、という内容です。
この作品のユニークなところは、「庄内弁ver.」と「標準語ver.」があるところ。
どちらも一万文字に満たない短いエピソードですが、短いからこそじっくり読み比べてみたくなるのです。
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作品の魅力をいくつかご紹介します。
まず、雪の描写がものすごくリアル。
雪の影響で冬の間に何度も電車が止まったり、夏と冬の通学路の様子がまるで違っていたり、年寄りたちの住む地域に若者たちが集まって雪かきをしたり。そんな雪国の暮らしぶりがひとつひとつ丁寧に描かれています。
また、高校生という難しい年頃の心情も巧みに描かれています。
「自分が高校でやりでがったごどって、こんだもんだったんがなって。」というセリフに胸が締め付けられる思いでした。
自分が高校生だった頃の、将来への不安や、このままでいいのかという迷いや、他人から見たらちっぽけな悩みなど、そういったものを思い出しました。
そして、この作品の最大の特徴は「方言」。
とてもリアルで、まさしく「生きた方言」という感じがします。
しかも標準語ver.もついているから、内容の把握もバッチリ!
ひとつの方言をここまでリアルに描いて、しかも標準語ver.までついてるのってお得じゃないですか!?
ちなみに私は「庄内弁ver.」⇒「標準語ver.」の順で挑戦してみました。
庄内弁ver.から読むのは少し大変でしたが、「この言葉はどういう意味なのだろう?」と想像しながら読むのが楽しかったです。
私が気になった庄内弁はこの3つ! ぜひ本編の標準語ver.で意味をチェックしてみてくださいね!
・「まぐまぐでゅうなて」
・「もっけだごど」
・「あれはしょしなだ」
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作中に登場する雪解けの描写は、とても見事で美しく印象的。
春を待ち望む雪国の人たちの心情までもが伝わってきます。
でも、春が来て雪がとければ、雪かきのボランティアは終わりを迎えます。雪かきボランティアを通じて仲良くなった人たちも、会う機会はぐっと減ってしまうのでしょう。それがわかっているからこそ、読み進めるうちに切なくなってきます。
この「期限付き」という点が、この作品の大きなポイントでもあると思います。
ちょっぴり切なくて、それ以上に暖かくて、とても美しい物語。
読後感も素敵なので、みなさんもぜひこの雪国の情景を味わってみてください。
冬の山形県酒田市。負けん気が祟って漕艇部の雪かきボランティアへ参加することになってしまった美術部の史乃は、その中で次第に意識するようになる。この苦行へ自分を陥れた原因で、普段は脳天気でありながら真摯に作業へ向かうタカ——高田哲治を。
こんなヤツだと思っていた男子が、それとは違う一面を持っていて。ふとしたきっかけで気づいた史乃さんは彼のギャップに惹かれていくわけですね。このあたりの機微が実に何気なく、それでいて印象的に描かれているのですよ。日本中で演じられているのだろう、でも当人にとっては唯一無二な出逢いの有り様、実にドラマチック!
しかもこの作品、標準語バージョンと庄内弁バージョンのふたつが同時掲載されているのです! 言葉はキャラクターに力を与えるものですが、方言によって醸し出される心情の色濃い鮮やかさ、これはたまりませんね。
なんでもなく、でもかけがえない出逢いの物語、標準語→庄内弁バージョンで読み進めるのがおすすめです。
(「地方発ドラマ!」4選/文=高橋 剛)