夜中

「で、なんで僕をストーカーしてたんですか?」


時刻は夜中の3時。家賃2万円の二階建てボロアパートの一室だけがポツリと電気を真っ暗な外に漏らしている。

部屋は遺品整理されやすいように整理整頓して出ていった。

リビングには小さなコタツ。その上に茶飲みとみかんが2つ。そして僕が書いた遺書だけが置いてある。

僕は小さなコタツで彼女と足を触れさせながら、恐る恐るそう聞いた。


「決まってるじゃないですか。私はあなたのことが大大大好きなんです。」


コタツの中の彼女の足が僕の足を絡めとるようにして、そう言った。ちなみにこの発言は僕の求めてた答えではない。


「足をベタベタ触るのは勝手だけど、理由になってないよ。……それじゃあなんで僕なんかのこと好きになったの?」


「えー……そうですね。内緒です!」


てへ!と言わんばかりに少し舌を出して、左手をグーにしてコツンと頭に当ててこちらを向いている。

さっきよりも答えになってない。


「内緒って……。まぁ、その。お礼を伝えなきゃね。助けてくれてありがとう。理由はなんとあれまだこれで僕は生きれるよ。」


「えへへ……んへへ……だーいすき……。」


頬を赤らめて目を隠すように手を顔に当てる。時折指を開けてチラチラとこちらを伺っているが僕は一切何もしてやらない。それでも彼女は同じように嬉しがっていた。

それを5分くらい眺めた後だった。


「私たちもうカップルなんですよ!どこか出かけませんか?今日の夜明けにでも!!いい喫茶店があるんですよ!」


「あっ……。そ、そうだったね。で、でもまだお互いよく知らないし……今度でもいいと思うんだ。」


しまったすっかり忘れていた。咄嗟にごまかしたが少なくとも彼女と居るとろくな目に合わない気がするのでさっさと縁を切ってしまいたい。


「ても……でも。私はあなたのこと。沢山知ってるんです。住所年齢大学人間関係家族関係バイト先……。こんなに愛してるんです。明日だけでもいいので一緒にいさせてください。」


ぎゅっと僕の手を握って涙を浮かべてそう言った。その顔はまっすぐ僕を向いていて、瞬きすらしない。


「……わかった。それじゃあ今から君のことを教えて欲しい。」


「うん……私のことしか見れないように沢山教えてあげますね。」


僕達は今日の夜は寝れそうにないらしい。

真夜中の静かなアパートの一室に笑い声が響く。

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ストーカーは命の恩人 一粒の角砂糖 @kasyuluta

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