第14話 修学旅行と朝ご飯と市場

宴を終えて部屋に戻った俺たちは、布団を敷いて寝る用意をした。女子の方は、もうさっさと寝てしまったらしい。声がしなくなった。

「俺たちも寝るか。」

そう言って一也が布団に入る。

俺と竜二も布団に潜り込んだ。

「結構と床硬いな。」

一也が笑う。

「だな〜。もうちょい何か敷きたいよ。」

竜二は少し不満げだった。

「ちょっと修学旅行感あるよな。」

俺が言うと、2人とも「分かる」と笑った。

実際は、修学旅行なんて楽しいものではないんだけど。

「そういえば、修学旅行も行きはぐったよなぁ。」

竜二が言う。

確かに、本当なら11月に修学旅行のはずだった。

「戻れたら、みんなでどこか行こうぜ。」

一也が言った。

「『戻れたら』じゃなくて『戻ったら』だな。必ず戻らないと。」

俺が訂正すると、一也は「だな」と言って目を閉じた。

俺もゆっくりと目を閉じ眠りについた。


翌朝、目覚めると朱莉の顔が目の前にあった。

「うわ!」

「おはよ〜。」

びっくりしたなあ。

「おはよ。何でこっちにいるんだよ。」

「いや〜。一也が入っていいって言うから〜。」

俺はじとっとした目で一也を見た。

一也は目をそらすこともなく、にやにや笑っている。

何だってんだ全く。

「零斗、今日はみんなで街を見に行くよ。早く着替えて〜。」

朱莉が「早く早く」と急かす。

「俺、今起きたとこなんだけど。もう街に連れ出されるのかよ。」

俺が不満げに言うと、朱莉ははっきり言い切った。

「それは、零斗が寝坊するのが悪い!」

そもそも何時に起きるとか決まってなかったんだから寝坊も何も無いだろ。

まぁ、何言っても無駄か。

朱莉の笑顔を前にするとそう思えてくる。

そして、それがなぜか嫌じゃないのが不思議だ。

「分かったよ。着替えるよ。」

すると、朱莉は親指を立てて「うん」と頷いた。

そしてその場から動かない。

「いや、向こう行けよ!着替えるから!」

俺が言うと、朱莉は笑いながら間仕切りの向こうに行く。

「ナイスツッコミ!」だの、「あ〜面白かった」だの言いながら。

本当にもう、何なんだよ。


街に出た俺たち一行は、朝ご飯を食べにカフェのような店へやって来た。

「さて、何にするか…。」

メニューを広げて俺は固まる。

ルーウィンにポリーチャ、クロッカルにレピリア。

どんな料理か全く分からない…。

「想像がつかないな…。」

一也が呟いた。

「店の人にどんな料理か聞いてみるか?」

竜二が提案するが、

「それ時間かかり過ぎるよ。もうお腹ぺこぺこなんだし。」

と柚杏に却下された。

「これはこれで楽しいじゃん。どんなのが出てくるかお楽しみで頼んでみようよ。」

朱莉が言う。まぁ、それしかないか。

店の人を呼んで一通り注文する。

俺はチガルスという料理を頼んだ。

頼んだ時、店の人がかなり驚いた顔をしていたので少し不安だ。

「何が出てくるかな。」

美怜がわくわくした顔で言う。

「カフェだからなぁ。朝だしパンケーキとか理想なんだけど。」

俺が言うと、みんな「それな」と同意した。

「私は、シンプルにバターとはちみつかなぁ。」

朱莉が言うと、

「私はベリー系かな。」

と柚杏。

「私は生クリーム多めのやつ。」

美怜も流れに乗った。

おい、まだパンケーキ出てくると決まったわけじゃないぞ。


10分ほどして、全員の料理が一気に運ばれてきた。

朱莉の前には、バターとはちみつのパンケーキ。

柚杏の前には、ベリーソースがかかったパンケーキ。

美怜の前には、生クリームたっぷりのパンケーキ。

まじか。理想通りじゃんか。

本人たちも少し驚いた様子だが、「やったー」などと声を上げて食べ始めた。

一也の前には、ホットサンドウィッチ。

竜二の前には、パンとスクランブルエッグとソーセージのセットが置かれた。

こちらも、中々に朝食として理想的だ。

そして俺のチガリスは…。

俺の前に置かれたのはサーロインステーキ。

お茶を飲んでいた朱莉が笑ってむせる。

「ステーキ、ステーキって。」

コップを置くと盛大に笑いだした。

そのほかのみんなも爆笑している。

美怜だけが、「大丈夫?食べれる?」と心配してくれた。

「まぁ、食べてみるよ。」

俺は苦笑いで返した。


朝食を終えた俺たちは、シアンさんの言っていた街の東にある市場に来た。

シアンさんが用意してくれた服を着ているので、街を歩いても最初のように注目されることは無い。

「まずは一旦奥まで見ながら行って、そこから引き返してきつつ買うか。」

一也の言葉に俺たちは頷く。

本来なら、〈エクタデオ〉の通貨である「フィリン」を持っていない俺たちは買い物ができないのだが、シアンさんが感謝のしるしにと1人あたり1500フィリンずつ渡してくれた。

1500フィリンあれば、普通の店で6食、安い店なら10食ぐらいは食事が出来るらしい。

さっきのステーキで、俺は既に200フィリン使っている。

もちろん、俺たちは申し訳ないと遠慮したが押し切られてしまった。

「どっかのタイミングでお返ししないとな。」

俺が言うと、

「ま、そのためにはここのために戦うのが一番だろ。」

と竜二が答えた。

歩いてみると、色々な品物がある。

肉や野菜、スパイスといった食料品や、服、工芸品やアクセサリーなど見ていて楽しいものばかりだ。

「お、もう奥か。」

気付けば俺たちは市場の最奥まで来ていた。

「やっぱり無いな。」

竜二が呟く。

「何か探してたのか?」

俺が聞くと、竜二は答えた。

「ほら、昨日の晩飯の時も海産物が無かっただろ。市場ならあるかと思ったけど、無いんだよな。この辺にはやっぱり海とか無いのかな。」

確かに、俺も海産物は見なかったな。

「どっかの店で聞いてみるか。」

そう言って、俺は一番近い店へ歩き出す。

14,5歳の男の子が店頭に立っていた。

「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」

「はい!いらっしゃい!」

俺が声をかけると、男の子は威勢よく答えた。

「この市場には、魚とか海藻とかそういう海のものは無いのかな?」

言ってしまってから、俺はしまったと気付く。

魚や海藻にも別の呼び方があるかもしれない。

伝わらなかったら説明するのは大変だ。

しかし、そんな俺の心配は杞憂に終わった。

「魚ですか。多分、この市場には無いです。」

良かった。伝わった。

ただ、男の子の顔は心なしか暗い。

始めの威勢の良さは消えていた。

「この辺には海がないとか?」

俺は重ねて質問した。

「ご存知ないんですか?あ、もしかしてこの間来られた旅人の方たちですか?」

俺たちは頷く。

シアンさんがちゃんと説明してくれていたようだ。

男の子は言った。

「海はあります。魚もいます。」

そして、男の子はさらに暗い顔をして続けた。

「でも今、海は悪政の街〈ゲラル〉の首領のせいで近づけなくなっているんです。」

男の子の顔には新たに怒りの感情が浮かぶ。

そして言った。

「その首領、ドニク・ヤンセンが海も僕の街も全部壊してしまったんです。」

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「「戦線」シリーズ:第1部〈処刑戦線エクタデオ〉」 メルメア @Merumea7

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