流れ星

弱腰ペンギン

流れ星


「あ、流れ星!」

 マンションのバルコニーで、たばこを吸いながら彼女と二人で空を眺めていたら、そういってはしゃぎだした。

「どこ?」

「ほら、あそこ!」

 彼女が指す方向に赤く光る線が見えた。

「……え?」

 流れ星は急激に進路を変えると、こちらへ向かって落ちてきた。

「あ、やった! これで願いかなえ放題だね!」

 そう言ってお願いをつぶやき始める彼女。見る見るうちに大きくなっていく隕石。

 なぜか視界のはずれに『落下まで30秒』とカウントされている数字。

 なんだこれ。

「なんだこれ!」

 思わず声に出てしまった。

 え、どうしたらいいの俺。カウント減ってるけどコレ、どうにかできる奴なの?

 ゲームなの?

 バカなの?

 死ぬの?

 彼女はいつまでもお祈りしてるんだけど何なの!?

「宝くじ当たりますように宝くじ当たりますように……」

 いやもっとすげえの当たるんだよ!

 人生ごと吹っ飛ぶけどなぁ!

 カウントも減ってるし、残り15秒だし!

 その時、ピコンという音と共に視界の端に『リミットブレイク』の文字が。

 ホント何なのこれ!?

 押すのか?

 選択するのか?

 どうやって!!

 洗えばいいのか!?

 なんだかよくわからないのでとりあえず叫んでみた。

「リミットブレイク!」

 彼女にきょとんとされた。ですよね!

 カウントは10秒を切って、えぇぇ!?

 タバコがめっちゃでかくなってる。ナニコレ!

 構えろ!?

 え、なにこれ、指示が出てるんだけど。肩にかけて目標に向ける?

 で、スイッチを押す?

 ……ねーよスイッチ! どこにあるんだよ!

「あれ、ナニコレ?」

 彼女がいきなり俺の胸をつついた。ちょうど先端部分を。

 え、何してんのと思ったら『ポチ』っという音が鳴った。

「え」

 まさかと思ったらタバコが射出された。隕石目掛けて。

 射出されたタバコは隕石に当たる前に燃え尽きて消えたが。

「あー……」

 数秒後、隕石は俺たちに命中した。

 これが、今から約2万回前の俺。

 途中で数えるのをあきらめたので、正確な数字は覚えていない。

 彼女が『流れ星』とつぶやいてから隕石が落ちるまでの数秒。それを繰り返している。

 今回の目標は隠しスキルの『トランスフォーム』を出現させること。

 何回か前に出現したのだが、出現方法を特定する作業が難航していた。

 ようやく判明したのが『リミットブレイクが表示される前にたばこを半分まで吸い、彼女がお願いをつぶやいてる最中に胸を揉んでビンタを食らう。その後表示されたリミットブレイクボタンの表示にタバコを近づける』ことだった。

 するとスイッチが彼女の胸に出現するようになる。トランスフォームの掛け声とともにスイッチを押すとタバコが変形し、残りのタバコと共にロボットになる。

 前回は組みあがった直後に隕石を受けて砕けた。

 今回のタイミングなら間に合うはずだ。

 痛む頬をさすりながら彼女の胸のボタンを押す。

 もう一発ビンタを食らったが仕方がない。だって隕石が止められないんだもの。

 よし。ロボットが出来上がった。後は乗り込むか操作……するの?

 え、どうやんのこれ。ちょっと待って止められないアー!

「もうやだぁ!」

 どうして俺がこんな目に!

 と思ってたらロボットが勝手に動き出した。

 そして隕石を受け止めると、衝撃で地面がベコみ、あたりの建物を吹き飛ばし、その崩落に俺たちも巻き込まれた。

 そりゃそうだよね。あー。またやり直しか。

 薄れゆく意識の中、そろそろ誰か交代してくんね? とか思ってた。


 また、ダメだった。何度やっても彼を救えない。

 流れ星を見つけたと誘導するのは確定だけど、そっから先のパターンが判らない。

 正直胸を揉まれたりするのも正解かどうかすらわからない。

 何回目かに彼がロボット呼び出すのを見つけた時はイケルって思ったけど、ダメだった。

 この『協力プレイ禁止』って項目正直しんどいわ……。

 私も一緒に巻き戻ってること悟られてもアウトなんだもの。

 前にばれた時は8千回分くらい巻き戻っちゃったからなぁ。気を付けないと。

 うし。また最初から行きますか。

「あ、流れ星!」

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流れ星 弱腰ペンギン @kuwentorow

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