超絶美少女と過ごす2時間目
第4話 超絶美少女に詰め寄られあたふた
さて、僕は一般教室があるA棟の2階から渡り廊下で、B棟への道をたどった。
そのB棟に入った瞬間、僕は背中がぞおーっとした。異常にひんやりとした空気、それは冷気というより、何かおぞましいものの存在をにおわすような空気といったほうが正確か。
中学生時代、そのB棟には、お化けが出るという噂があった。その噂とは、昔、そのB棟で女子生徒が理由不明で自害し、その地縛霊がいるという…。
B棟に入ってすぐの階段を降り、1階へ。
廊下を歩くと、上履きの擦れる音だけがシュッシュ、シュッシュ、と響く。
誰も、いない。
このB棟4階建ては、特別教室棟だ。しかし、特別教室は3階4階に集中していて、1階2階には用途の分からない部屋がいっぱいあった。何教室という名称もないので、みな1階2階を幽霊教室と呼んでいた。
B棟1階の女子トイレは、その閑散とした場所にあった。
人の気配がまったくしないので
『あ、これはモエに一杯食わされたな?』
とか思いながら、女子トイレの中をひょいとのぞくと…。
「おっ!?」
そこに、なんとも可愛い、すでに着替えた後の半袖体操着と短パンの上に、紺色のトレーナーとジャージを着けた姿の、背の低い、しかし胸が大きく盛り上がっている女子が、たたずんでいた。
「あの…、僕に、何か、用?」
僕は、恐る恐る尋ねた。
モエが、怒り心頭な表情をしていたからだ。
『まさかカツアゲされる、とか?』
と思ったり。
モエは、超絶可愛い美少女だけど、ただの美少女ではなかった。めっぽう気が強くて、みなにちやほやされているのをいいことに女王様のようにふんぞり返って、同学年の女子たちや下級生の女子たちをパシリのように使っているという噂があった。さらに下級生への女子同士でのイジメ事件も頻発していたが、このモエがそのイジメの主犯格になっているという噂も、あった。
「ケイタくん…、中に入ってきて」
僕は、恐る恐る女子トイレの中に足を踏み入れた。
いや、前の人生、僕は、幼稚園児の娘のトイレの付き添いで女子トイレに入ったことが何度もある。普通、そういう場合、父親が男子トイレに娘を連れていき個室に入って用を足させるみたいなと思うだろう。しかし大人の男子が幼い女の子を連れて男子トイレに入るという光景は、ちょっとまずいかなと思い、女子トイレに行くのが常だった。
「すみません、娘の付き添いで」
と弁解すると、トイレに並ぶ女子たちは納得顔で許してくれていた。
だから女子トイレに入ることじたいはけっこう慣れていたのだが、このDC(童心中学生)に戻ってからは、当時の幼さというか、恥じらいというのがよみがえっていた。
「ケイタ、くんッ!あんな…、みんながいるところで、よくもあたしのこと、ガン見してくれたわね?しかも顔だけじゃなく、胸までじろじろと!」
女子トイレの個室が3室並ぶその前で、モエが、ヴァルハラヴォイスで激しくまくしたててきた。
「ご…、め…、ん」
僕は、モエの顔でなく、胸を見ながら素直に謝った。その胸だが、少し違和感を持った。制服を脱いで体操着姿という薄着になっているのだが、なんかこう大きいわりにあまり揺れない、というか…。
モエの表情が和らいだ。怒りの感情がその可愛い顔から消え、いつものしゅんとしたすまし顔に戻った。
ただ、その綺麗な両眼が、なんだかキラキラと輝いている。その目は、男子である僕に恋してるとか、好意を持っているとかいう、その目ではなかった。
<きみに、興味しんしん>
という、そういう目だ。
僕は、ちょっとがっくりしたが、考えたらこの学校のヒエラルキーの頂点にいるような女子に、何の取り柄もない平平凡凡な僕が興味を持たれてることじたいが奇跡のようなもので。
自分に都合よく事が進むので、一瞬ここはヴァーチャル世界では?と思ったりしたが、やっぱ、ここはリアルの過去なのかと思う。
「これはァ~♡前からァ~♡ケイタくんにィ~♡聞きたかったこと、なんだけどォ~♡」
モエが、なにやらおかしな口調になっている。語尾が、やたら甘ったるい。正直、この様子はふだんのモエの様子とは、ちょっと違う。ふだんのモエがこんなふうに他人に媚びるような口調で話しているのを、僕は見たことがない。
「ケイタくんってェ~♡引っかけた女子2人に、放置プレイをしてるねェ~?どうしてなのォ~?」
えっ?
女子2人を引っかけた???
ほうちぷれい???
この子、何を意味分からないことを言ってるんだ?という表情を、僕がしていると思うだろう?
しかし、僕はこのとき、全身の血の気が引いて、身体が固まり、顔は苦虫をかみつぶしたような表情になっていた。
そう、僕には身に覚えがあったのである。
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