第3話 この世界は本当に僕のリアル過去なのだろうか?
授業が終わり、教室から生徒がどっと出てきた。僕が廊下に立っていた時間は、ほんの数分だった。
さて、どっと出てきたクラスの生徒たち、男子は無視し、女子たちの可愛い姿を僕は、さささっと眺めた。
そのなかに、明らかに他の女子とは違うオーラを発し、輝いている女子がいた。
背は低いが、まるでアイドルみたいな顔をしているクラスでいちばん可愛い女子、モエである。
『うっひょー、可愛いなあ!可愛すぎる!』
僕は思わず見惚れ、モエの顔をすごい見た。
すると。
モエは、なんだか急に怒りを顔に見せ、額に青筋を立て、僕をやたら
しかし
『いやあ…、怒った顔も、超可愛い!』
と僕は、ご満悦。
僕は、そして男子中学生としては当然の関心…、いや40歳代の僕も実はこの年代の女子に秘かに関心を寄せていたわけであるが、モエの首から下に視線を移した。
どーん!
『うおおおお…!?すげえ…ッ!いやあ、眼福、眼福。これがいわゆる、アンバランスというやつか…』
とモエの小学生みたいな身長とは裏腹の、発達した部分に僕は完全に目を奪われていた。
「ケイタくん…」
とつぜん、その目の前の超絶美少女の口から発せられたのは、紛れもなく、僕の下の名前だった。
『え?』
この、音量を落としてささやいてくるような声は、確かにこのモエの口から発せられていた。耳をくすぐる、涼やかなヴァルハラヴォイスだ。
僕がえ?と思ったのは、本来の人生での中学生時代、僕はモエと接点ゼロで、もちろん声をかけられたことは1度もなかったからだ。
「うん?何?」
と思わず答える、僕。
するとモエが、ポケットからメモ用紙みたいなのを取り出し、ペンでささっと走り書きして
「これ」
と言って、僕の手に渡してきた。
「え?これ、何?」
すると、モエは自分の口に人差し指を当て、黙れ!と合図し走るように去っていった。
僕は、わけがわからず渡されたものを握りしめ、立ち去るモエのちっちゃな後ろ姿を見ていた。
人が少なくなったのを見計らって、その渡された紙をそっと開くと
<次の体育の時間、始まる前にB棟1階の女子トイレ>
とあった。
教室の掲示板の時間割表を見るが、今日は何曜日で、今何時なのかさっぱり分からない。
ふと壁に丸い形の針で動く時計が掛かっているのが、見えた。
9時30分…。
ということは、次は2限?時間割表を見ると、月曜日だと分かった。
前の黒板の端に、その日の日直生徒の名前を書く学校が多いだろう。しかし僕の出身中学には、そうした習慣がない。
僕の出身中学は変わっていて、日直ではなく、クラス委員長が起立、礼の号令をかけ、クラス委員長が日直の仕事をしていた。つまり委員長に選ばれると、毎日朝1番に登校し、黒板をきれいにしという作業をしなくちゃいけなくなる。そんな面倒くさい役職に誰もなりたがらないと思ったら、みんな、自分から立候補するという意欲的な現象が各クラスで発生する。
じつは僕も中学3年間、毎年立候補したのだが、票がまったく集まらなくて、当然なったことがない。
さて、体操着に着替えようと思うんだが、僕の机のわきにはカバンが無い…。
死んで、天の声の主によってここに送られたわけだから、当然カバンは持っていないわけだ。
しかし、これ、僕の中学2年時の過去の身体に、僕が憑依しているという原理なんだろう?それなら、過去の自分が登校時にカバンを持っていないはずがないし…。
机の中を覗き込んだが、何も入ってない。これも、おかしい。僕は、中学生時代、全教科の教科書を学校の自分の机の中に置きっぱにしていた。過去の自分が置きっぱにしていた教科書がそこに無いと、おかしいのである。
「うーん、ここは、本当に自分のリアル人生の過去なんだろうか?」
そんな疑問が、湧いてくる。
ひょっとすると、ここは、あの天の声の主が作った、僕に過去を思い出させ反省させるための、仮想ヴァーチャル空間なのではないか?
過去の記憶を参考に巧妙に構築された仮想空間という話は、よく聞く。
話もしたことのなかった超絶美少女が話しかけてきて、しかもどこそこで待っていることを匂わせるようなメモを渡されて。何か、僕にとって都合が良すぎる展開のような気がした。
僕は、なんだかわけわからないが、とにかく今は、そのB棟1階女子トイレに行ってみることにした。
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