第31話 マダリア平原で防衛

「シドル将軍」


「ネイザルかどうした?」


「いや、ルークス殿無しで防衛戦をやるのも久しぶりだなと」


「そうだな。しかし、ルークスの結婚式なのだから本人は王都にいる必要があるからな」


「さすがに他国の王女との結婚式が最前線ではまずいでしょうし」


「その王女本人といつまでも単なる同居者では政治的にもまずいだろう」


「まぁ、すでに1年以上の同居でしたし」


「ルークスの伴侶になれば王女ではなく夫人と呼ばれるだろうが」


「それはともかく、マダリア平原で迎撃するので?」


「………今まで、クレートの街付近だったが、さすがに2度も大敗した場所は相手も通らんだろ」


「兵数では負けているのでクレート付近かはともかく、できれば平野は戦場に選びたくないですな」


「とはいえ毎回同じパターンではいつか裏をかかれるぞ。それに今なら平原で仕掛けられるのはゴルゴダルダ軍も予想してないだろう」


「………ここ最近はルークス殿が指揮をしていましたが、このタイミングでの侵攻は本人が留守を狙ったものだと考えられますか?」


「おそらくな。ルークス殿の結婚式に合わせて侵攻を開始したのだろう」


「それならなぜクレート付近ではなくマダリア平原ルートという遠回りを………」


「10万人以上の軍が問題なく移動できるルートは限られる。人数以上の衣食住を確保しなければならないからな。だからといって2連敗しているクレート付近は選びにくい。勿論遠回りをすればルートは増える。しかし、今回はルークス殿の留守を攻めるという作戦だろう。結婚式が終わってローラント地方の体制が整ってしまえばルークス殿の留守を狙うという作戦の意味がない。マダリア平原は遠回りとはいってもクレート付近のルートが使えないなら比較的だが短いルートだ。消去法でマダリア平原になる」


「他のルートに変更の可能性は?」


「戦争中に決めつけは危険だから絶対無いとは言わんが可能性は低い。それと10万人以上の移動だ、さすがに気づくし戦闘前に余計な移動をして疲労

を蓄積させてくれるのなら好都合」



 数日後


 早朝で


「シドル将軍、マダリア平原から斥候が戻りました」


「よし、様子を聞こう」




 斥候「敵陣は酒の匂いが充満しております」


 シドル「なんだと?」


「様子を見るに数を頼りに既に勝った気分でおります。昨晩は宴会のように盛り上がっていました」


「ならば、今すぐに強襲だ」


 シドル将軍は騎兵300を指揮して強襲した。


「なるほど確かに宴会の後のようだ」斥候の情報が正しいのを確認すると突撃を開始した。


 10万の兵と言っても互いに連携が取れないならそれは単なる烏合の衆になる。しかも昨日は深酒をして二日酔いの兵も多い。


 ゴルゴダルダ軍はまさか10万の軍に300人で強襲されるとは思ってなかった。その為一部とはいえ同士討ちする場所さえあった。


 そんな状態ではまともな戦闘にならずゴルゴダルダ軍の死者は増える一方であった。ゴルゴダルダ軍がどのような徴兵をしたのかはわからない。しかし、末端の兵には忠誠心なんてものは無い。味方の死体が増えれば恐怖心から逃げる兵も増える。褒美目当てで徴兵に応じた兵も敗北が決定的になれば逃げ出す。例え決定的にならなくても敗北濃厚になれば逃げ出す。


 二日酔いの兵、寝ぼけている兵、逃げ出す兵、同士討ちをしている兵、もはや収集がつかなくなっている。一応真面目に戦う兵もいる。他の部隊との連携どころか同じ部隊でさえ足並みも方針も揃って無い。そしてこの状況は実は全員で逃げ出すより悪い。全員で後退するなら進行方向は同じだ、しかし前進する兵と後退する兵が同じ部隊にいる場合混乱が生じる。同じ部隊同士でぶつかり合いどこに行けばいいのかわからない。


 10万の兵はまとめるだけでも大変だ。連携するとなったらその苦労は数倍になる。まして今回は昨日のアルコールが抜けてなく、早朝の確認もないまま強襲された。何人かの将兵は自分の馬すら見つけられない始末だった。


 とはいえいつまでも混乱しているままではなかった。早朝から始めた戦闘だが流石に昼過ぎになると、徐々に体制を整え始めた。


「シドル将軍」


「・・・さすがに体制を整えられたら、300の兵ではな。今なら体制を整えるのに夢中で追撃はなかろう。全員引き上げだ」


「はっ」


 シドル将軍は怪我人はでたものの、一人の兵も失わずに引き上げた。






 ゴルゴダルダ軍では


「敵がっ撤退していきます」


「なんだと」


「すぐに追撃を」


 しかし、混乱中の軍がすぐに追撃になど移れるわけが無い。


「まて、慌てるな。いくら何でも300の兵だけのはずがない。途中で兵を伏せてあるのだろう」


 混乱中の兵を強引にまとめて追撃したら、間違いなく待ち伏せに引っかかる。


「むー、追撃は中止だ。陣をしいて体制を立て直す」



 数日後


「陣内に病気が蔓延しております」


 軍は共同生活だ。病気が広まるのが早い。おそらく大敗による精神的なものがきっかけだろう。兵士の大半は戦いたくないとおもっていそうだが。仮病の人間もいるかもしれない。どちらにせよ士気は上がらない。


「半病人のような兵士をむけて戦果が上がるとも思えん。引き上げよう」


 元々この戦争自体ルークスの留守中に終わらせる必要があったのだ。少なくともそういう作戦だったので長期戦の準備はしていない。これ以上最戦前にとどまれば脱走兵も増えるだろう。結果、両軍とも撤退して今回の戦闘は終わった。

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学園を追放されたけど総司令官になりました? 柊谷 @larryniven

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