第30話 メリアドールとシーラ
「ちょっと何を考えているのよ!?」
「部屋に入ってきて、いきなり大声出すのはレディとして失格とまではいかないけどマナーはよくないわね。シーラ」
「だってよりにもよって、あのルークスと婚姻だなんて!何か弱みでも握られたの?」
「まず弱みを握られるほど一緒にはいなかったわよ。少なくともここ数年は、……具体的には私が学園を卒業してからは。ついでに会ってないのだから弱みで脅すのは不可能よ」
「……手紙というか脅迫状の可能性も」
「ないわよ。さすがにローラント地方領主兼総司令から手紙が来たら、話題になるわよ」
「……隠れてスパイとかが」
「直線私に渡したと……この家の家族と護衛を全てすり抜けて?……逆にそれができるほど有能ならルークスは十分婚姻する価値があるわよ」
「ぐっ!………いや、でも正妻ならまだしも側室だなんて………」
「ああ、それは彼も気にしていたわね。さすがに他国とはいえ王族を何の理由もなく側室にはできないわよ。しかも、先に婚約済み」
「うっ!」
「さすがに他国との関係悪化なんて外交問題になる行動は論外よ。しかも、それを個人的な感情でやるのは、……手を尽くした後に軋轢が生まれるならまだしも」
「………そんなにルークスのことが気になったの?」
「そうね。どちらかというとこの婚姻は私メリアドールは乗り気だけど彼は冷静だったわね」
「何か金品や貴重品を要求されたとかは?」
「………シーラあなた何も調べてないの?」
「えっ?」
「まず、彼は自分の所持品というか贅沢品をルビン商会に売ってからローラント地方に着任したわよ。二度に渡る防衛戦は有名だからいいとして。孤児院を助けたこと、鐙とリバーシの開発」
「リバーシって学園で流行っているあれ?」
「アトカーシャ家の紋章付きだったでしょう」
「………」
「それも知らなかったの?……まぁいいわ、鐙については女性の私達には詳しく教えてもらってないけど、鐙とリバーシの特許は彼が取得しているのよ」
「………」
「……シーラ。今までのことがあるからある程度は感情的になっても先入観が合っても仕方ない。でも今のままだとシーラの評価はルークスより下になるわよ」
「何で私がルークスに負けるのよ!?」
「だって、実際に彼は役に立ってる。軍事的にも経済的にも、……これでシルヴィア王女との婚姻がうまく行けば政治的にも」
「………でも学園での評判は……」
「それは学園での中だけのこと、これから彼に会う人は学園での評判は気にしない。……さすがに気にしないはないか過去を調べる場合もあるし。ただ、それでも過去の評価よりも実際の行動を重視するわよ」
「ぐぐ」
「唸っても何も変わらないわよ。後学園での評判というけど、そもそもいない人間がそんなに話題になるの?」
「……話題になるというか、防衛戦での活躍はみんな半信半疑というか……、実際はシドル将軍に手柄を譲ってもらっただけだろうとか」
「………シドル将軍は簡単に手柄を譲るような人ではないわ。そもそも今までローラント地方を見事にに支えてた優れた将軍よ。もし、あなたが言うようにルークスに手柄を譲ったのならシドル将軍はよほどルークスを認めているか、期待していることになるわ」
「そこはルークスが口八丁でなんとか………」
「ぷっ、あはははは」
「笑うところ?」
「いや、だって。……彼は口下手よ。もし、そこまで口が回るなら、そもそもラファと婚約破棄になってないわ。そこまで人を煽てるのが上手ならね」
「それは……」
「……以前と大分印象が違うから学園での性格はもはやあまり当てにならないけど。ルークスが人を褒め称えたことがあったかしら?」
「学園では乱暴者だったルークスが人を褒め称えるなんてありえない」
「だったら口先だけで手柄を貰うのは不可能ね」
「えっ、でも……」
「………ねえ、シーラ。あなたはルークスをどうしたいの?」
「どうって………」
「仮にあなたがルークスより実力があったとしても、もはやルークスを悪く言うのは少数派よ。………それに忘れていそうだけど、ローラント地方領主に任命したのは国王陛下よ。あなた国王陛下に反逆でもするつもり?」
「なっ!そんなわけ…」
「まぁ、そうよね。本当に反逆するつもりなら………もっと簡単な方法もあるし。ただね、『国の為に動いているルークスの悪口を言うなんて国王陛下への反逆に等しい』って言われたら、否定するのは難しいのよ」
「国王陛下は私よりルークスを優遇すると?」
「あなたね。そもそもあなたに戦争の指揮ができるの?」
「うっ!………それは……」
「領主としての領地経営は身内に相談すればなんとかなるとしても。総司令の任命も、領主としての任命も王命だから国王陛下の命令だからね。それを否定したら本当に国王を否定していることになるからね。それともルークスよりうまく行動できる人でも推薦できる?」
「……さすがに学生は推薦できないし、実際の実力はわからない」
「まぁ、優等生と言われていても卒業後はパッとしなかったり、逆に在学中は低迷しても卒業したら活躍する人もいるからね。ルークスは後者だったわね。厳密には卒業じゃないけど………それとローラント地方領主と地方軍の総司令への任命は別に優遇ではないわ」
「……優遇じゃない?」
「話だけ聞いていて戦争には楽勝で、簡単に見えるかもしれないけど、最前線への赴任だからね。シーラあなたも最前線で暮らしたいかしら?」
「………でも、このままじゃラファが……」
「……?……ラファがどうかしたの?」
「学園で陰口を叩かれているのよ。ルークスの婚約者だったのに、ルークスを見限るなんて情けないやつだとか」
「シーラ、学園でのルークスの行動は誉められたものじゃない、ことまでは同意するわね」
「えっ?」
「ただし、現状のラファがいじめにあっている状況は悪いのはいじめを行う人であってルークスではないわ」
「でもルークスが何もしなければラファがいじめに合うことはなかったはず」
「それは断言できないわ。もしかしたらその可能性はあったかもしれない。けどなかったはず、と言いきるのは無理よ」
「どうして!」
「いじめを行う人たちは大抵、自分よりも弱い人を見つけたらやるだけよ。ルークスの行動を理由にしていても、それは単なる後付けよ。ルークスの行動があったからラファをいじめているのではなく、いじめに都合がいいからルークスの行動を理由にしているのよ」
「じゃあ、どうすればいいのよ?!」
「まずね。ルークスの行動でルークスが責められるならともかく、ラファが責められること自体がおかしいと思いなさい」
「じゃあ、ルークスを責めれば……」
「あのね、防衛戦の成功と経済的な成功をどうやって責めるの?」
「そこじゃなくて、ルークスの学園での行動を非難すれば」
「………それはすでにしたでしょう?」
「……えっ?」
「それがあったからラファとルークスは婚約を解消して、ルークスはローラント地方に左遷して、ラファとの接触禁止でしょう?」
「そうだけど」
「ルークスは学園での行動の刑罰はすでに受けている。それをもう一度理由にするのはできないわ。まぁルークスは自分の実力で左遷を栄転に変えてしまったけどね」
「でも乱暴者だったのは事実」
「………シーラ、あなた前に私のドレスを不注意で駄目にしたわよね。もう一度賠償金を請求してもいいかしら」
「何で?ちゃんと弁償したじゃない?!」
「今あなた同じことをやろうとしているのよ。解決済みのことを持ち出して、同じ理由を使おうとしているのだから」
「でも、今のままじゃラファが………」
「シーラ、一つ質問があるわ。シーラの目的はラファを助けること?」
「そうよ!」
「………シーラの発言を聞いているとルークスを責めることが目的に聞こえるわよ?」
「………え?」
「これからの話の内容は私の推測になるけど、もしルークスが失脚すればラファがさらにいじめられるわよ」
「何でよ!?」
「今度はその程度の人が婚約者だったという理由で」
「じゃあ、どうしようもないじゃない?!」
「……さっきも言ったけど、いじめの理由は後付けよ。無理矢理都合のいい理由を後から探して来るだけよ。それとルークスの評価とラファを助けることは別々に考えなさい。……それともルークスの援助がなければラファを助けられないほど、ルークスを頼りにするの?」
「ラファを助けるのにルークスを頼るわけにはいかないわよ!」
「………なおさら、ルークスを話題に出すのは止めるべきね。ラファはルークスと関係なく助けるべきよ」
「どうすればいいの?」
「そんなにしょんぼりしなくても………。ただ私は相談相手としては不適切ね」
「………何で?」
「今の私はルークスと婚約者になったばかりよ。その私がその問題を解決したらルークスの助言でラファが助かったと世間は見るわよ」
「何で!?ルークスは何もしてないのに?」
「私は今の学園の様子を知らないわ。少なくともルークスの方が詳しい。その私が的確な助言なんてできるわけないじゃない。教師とか学園長に相談する話よそれは」
「学園長は頼りがいが……」
「まぁ、それは同意するけど……理事長とか副学園長とかもいるでしょう?」
「あ!」
「という会話をシーラとしたのよ」
「学園長は確かに、連れ戻そうとしてたからな」
「………?誰を?」
「いや、まさか追放されたのにすぐに学園に戻ったら意味がないだろ」
「ルークスが戻る、ということ?」
「そうだよ。まぁ総司令兼領主に任命されたばかりで学園に戻るなんてのは無理な話だけどな」
「いや、問題はそこじゃなくて追放から即連れ戻しではそもそも追放という判決に意味がなくなるじゃないですか?」
「そうだよな。二重の意味で無理がある。という話だ」
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