土佐弁ニーター×美人女子高生!
ぐりもわーる
第1話 夢の国
GW中頃時間だけをもてあました僕【アマネ】は千葉のネッキーランドへ向かうモノレールに揺られていた。
「アマネ、お前来てよかっただろ、凄いだろ」
さっきから僕を呼んだ張本人であるエリート証券マンが話し続ける。
モノレールの中には早から頭にキャラクターの帽子をかぶった人や隣のバカのように浮かれて盛り上がる人達だっている。
その中でも高知県特有の大きな声と高校の頃から変わらず周りを気にしないたちが群を抜いて浮かれ騒ぎに拍車をかけている。
しかもこの騒ぎようはモノレールの前、地下鉄の時からずっとである。
「いやーたまたま仲良くなった人があのアベスさんとは俺もビビったわー」
彼の言うアベスさんとは安倍首相のモノマネで有名となった10万人の登録者数をもつYouTuberだ。
決めゼリフは「そんなに興奮しないでください」
今回のネッキーランドはアベスさんが用意した【あの女性YouTuberマルミンさんとアベスがコラボ!?ネッキーランドデートでアベス大興奮!?】という早くもタイトルの決まった企画の荷物持ちと雑用をこの証券マンが請け負ったのでそれの付き添いだ。
つまり付き添いの付き添いに当たる。
「あのアベスさんやぞ?お前わかってんのかあの凄さ」
ずっと1人で興奮している馬鹿をはためにスマホをつつく。
「アベスさんもマルミンさんも知っちゅうよ、マルミンさんの方はメイク系で伸びた人みたい」
「知っちゅうよ」は知ってるよと同じ意味。
「へー」と女性の方に興味無さそうに空返事とアベスさんをまた語りだした友達を聞き流し美人のメイク動画なんて伸びるんだな、嫉妬されそうなどと暗い想いを乗せたモノレールはネッキーランド最寄りの駅へと到着した。
もはや夢の国は目と鼻の先となっており興奮が抑えられないバカを追うように夢の国へと向かった。
ーーーーーーーー
「どーもーサキですー!こっちは友達のアマネです!今回はアベスさんありがとうございます!何でもするんで言ってくださいね!」
頭を下げるのだけは一丁前の証券マンが挨拶を済ませる。
僕も大人しく一礼しておく。
今回僕の立ち位置はたまたま同じ日にネッキーランドに入る事になった友達と言う設定なので大人しく影を潜める。
もう一つこのアベスさんは鼻が高いというか実力があるのは認めるがどうもいけ好かないオーラがあるのだ。
僕的にいえば嫌いな匂いがする感じだ。
「おーサキー荷物持ち任せたぞ!バッチリデート楽しんでくるから」
そんな僕を傍目にえらく大きな声でゲートのすぐ側で待っていた大柄な髪型だけ安倍首相のYouTuberとえらく腰の低くなった友達。
僕はと言え半ば空気とかして半年前に来た時から何個か変わったはずのアトラクションを受付で貰ったパンフレットの中から探していた。
すぐ出発しないのは今回の企画に必要な主人公の2人目を待っているからだ。
「アベスさんですかー?」
澄んだよく通る高い声と共に170cmほどの細身スレンダーのお姉さんが登場した。バッチリと化粧をしてベージュ色のコートと十分な身長をさらに盛ったハイヒールはYouTuberというよりモデルのようだと思った。
これでメイク前のすっぴんが綺麗なのだからずるい。
「おーマルミンちゃん?めっちゃ良いーじゃーん」
アベスさんもここまで全く興味を示さなかった証券マンですらすっかり魅了されたようで矢継ぎ早しに話しかける。
「こんにちはー」
マルミンさんのあとを追うように小柄な少女が現れた。
「あっこれうちの妹のイチカです」
紹介された少女は確かにお姉さんに似て美人だが学生だろうか150〜160cmほど小柄な体格、今後が期待といった感じだ。
まぁ僕が期待したところで何も意味は無いのだけれど
そんなことを考えつつ妹さんは楽しそうに笑いながらアベスさんや証券マンと話している。
今回ネッキーランドを回るメンバーが集合した所で動画撮影が始まった。
ジェットコースターなどの撮影が難しいものはアベスさんが手持ちのカメラと証券マンが下から撮影の2カメ体制で撮影をする事となった。
大役を任され余裕ですよと豪語する彼とオーバーリアクションで場を盛り上げるアベスさんとハキハキと喋りよく笑うマルミンさん。
僕と言えば一発目にみんなで乗った何とかの海賊から予定通り1人ネッキーランドを徘徊する事にした。
あくまで予定通りなので悲しくない。
「なんであんなに叫べるものかね」
先程のみんなで乗った何とかの海賊は骸骨のキャラクターが暗がりから出てきたり煙が出たりと確かに驚かせる部分はあったがゆっくり進むアトラクションで叫ぶには少し刺激が足りないような気がした。
土佐弁で言えばたっすい乗り物だった。
僕的にはみんなが叫ぶ声の方が驚いた。
「あのアトラクションはそういう雰囲気だったじゃないですか」
いつの間にやら横にマルミンさんの妹の…ニノ…シノ…いや、イチカさんだったはずの少女がいた。
「まぁ確かに…」
「社交辞令ってやつですよ」
「…大人だなイチカさんは」
体格に似合わないリュックを背負い直すイチカさんを傍目にこの位の背丈の時、社交辞令何てものを知らなかったはずだ。さすが都会っ子。
都会と田舎の育ちの違いと顔立ちや姿、教育の違いに舌を巻いているとイチカさんが笑いながら
「イチカさんって私高校生ですよ?FJKですよ?」
FJK?BT〇みたいな韓国のグループか?などと思いつつ
「歳はあんまり関係ないよ、態度が大人だなと…」
ふと初対面は苦手でありタイプによっては一切喋れなくなったりする僕は言葉につまる。
態度を褒めるなんて上から過ぎるだろうかなどの思いが過ったからだ。
「でもさん付けは他人行儀すぎませんか」
僕の心配を他所に余程面白かったのか表情を更に崩し笑う彼女に合わせ歩を遅くし隣に立つ、余計に小柄さが引き立った。
「イチカちゃん…でいい…かな?」
「はい!あー名前なんて言うんですか?」
またリュックの場所を直しながら偉くご機嫌な様子で話を続ける。
「アマネ、天に音でアマネ。荷物持つよ」
「アマネさんですか、じゃーアマネンなんでどうですか!」
「何でも」
アマネン…Amaz〇nと1文字違いだなとか自分に合わないえらくテンションの高いあだ名だななどお思いつつリュックを受け取る。
ずっしりと何か機材だろうかそれなりの重さをもっていた。
小柄な少女が持つにしては重すぎるかなと少し思った。少なくとも僕がその背丈の時に持ちたくないなとも思った。
「アマネンは何してるんですかお仕事」
「…ニートとフリーターの間って感じ、仕事したりやめたりしゆう感じだね」
「しゆう」とはしていると同じ意味。
平日60分待ちのジェットコースターに並ぶ。
まだ短いなと思いつつのんびりと話を続ける。
「ニーターってやつですか」
笑ってはいるが悪意の匂いはしない。
特に僕も気分を悪くしたりはしなかったし、それどころかイチカちゃんとは話しやすいなと思った。
「そうニーター、イチカちゃんは高校何年生?」
「1年です。16歳、アマネンは?」
「20歳」
「20歳ニーターですか…出身はー」
「高知県のド田舎、ネットはあるよ」
「高知…高知…九州?あれ?東北?」
ネットのところにツッコミが入ると思いきやまさかの忘れ去られた高知県、県外の人と話すと結構あるので別に気にしない。
かすりもしてないのはびっくりしたけど
「四国」
「四国!?あー愛媛とかの所ですよね」
「そ、イチカちゃんの出身は?」
「生まれも育ちも神奈川県!」
「都会だね、神奈川と言えば横浜中華街、回る中華料理、桃のあんまんは覚えてる」
上京して住居を構えるのにまず行ったのが神奈川だったが仕事の都合上千葉に定住しているが神奈川はいい所だと思った、都会だし。
上京したての僕は神奈川、千葉の間が数キロしか違わない気がしていた。
「私の家中華街のすぐ近くですよ5分くらいで着きます!」
「めっちゃ都会だね」
「いやー私の所はそれなりに都会ですけどちょっと行ったら全然都会じゃなくなりますよ横浜なんて」
「へー千葉の田舎だからちょっと行ったら都会はわかんないや、アパートの前に小さな田んぼあるし」
「横浜にも田んぼくらいあるはずですよ…多分」
僕達はダラダラと話を続けジェットコースターに乗りこんだ。
カップルと言うより仲の良い兄妹だと思われる2人の恋路は長い。
土佐弁ニーター×美人女子高生! ぐりもわーる @grimoaaa
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