Ep.V 最終話「異宇宙人」

 爆誕したヒロイン妹ロボMk.IIスナイパー改試験型の力は凄まじく、中世アンドロメダ風の宇宙を火の海と化した。流れ弾が遠方で待機していた魔黒穴軍の宇宙艦隊の火薬に引火して大爆発が起きて、その爆圧により強烈なエネルギーの圧縮が起こり、原子核同士がくっつき合って核融合が発生。そこを中心に半径1光年という巨大な核魔法陣が展開して、その中から新しい女神太陽が生まれた。


 その眩い愛陽光に照らされた宇宙は白く染まった。真っ白い背景の中でタカーシ達とターロウは最期の決着を着けようとしている。


 ヒロイン妹ロボMkII-SKPの全火器解放魔法オールウェポンマジックファイアを、ターロウがその凄まじい機動力で回避する。白い背景の中にビームの雨が降り注ぐ。そのせいでターロウは最期の切り札、反物質メッキレーザー剣を出す暇がなかった。そして、H妹ロボMk.II-SKPの窓から身を乗り出したタカーシが、反陽子重力ダブルレーザー銃でターロウの胸を撃ち抜いた。


「がはっ」


「紫…のタレの様な体液、青っぽい…」

「お前も…フーツ星人…青タレ野郎だったのか!」


「そうだ…私も実はこの世界に転生してきたフーツ星人なんだ。そしてお前と同じマカ親を持つマカ兄弟だ。小さい頃はフーツ星で楽しく暮らしていたよ。フーツ神社の境内で執り行われるフーツ祭りで、フーツ音頭を踊るのが楽しみだった。フーツ焼きそばの味は今でも忘れない。でもフーツわたあめは嫌いだった…あれはベタベタするにも程がある。あまりにベタベタするもので泣いた。青タレわたあめ嫌い野郎、と罵られた私は強く願った。どうか、青タレでも許される宇宙に行かせてください、と…宇宙横断歩道の真ん中で泣いていた私は宇宙トラックに轢かれ、この異宇宙へとやってきた。私の本名はタローウだ。魔黒穴王に出会いサイボーグにされた私は…あ、どうも。いや少し弟と話してるもんで。ああタカーシ、こちらが魔黒穴王だ。お前を吸収すると魔黒穴神へとステップアップできるらしい。大変だなお前も。や、まだ途中なんです。…あ!ちょ!だめですって!それは絵的にまずいですよ!ああ、触手でそんなことを!そこは違います!そこは違います!それは入りません!おお!?タカーシ!なんという事を思い付いたんだ!釣った!魔ブラックホール王が釣れた!すごいぞタカーシ!でもバラした!釣れなかった!惜しいな!ところでそろそろ私の命は尽きる。さらばだ…弟よ」


 白い闇の中、タローウの亡骸の頬は濡れていた。


――――――――――

 

 魔黒穴王は重力をすごく使って、聖アンドロメダ王国星(聖ア星)をぐるっぐる回し、通常の自転周期、200時間のところをなんと2秒にしてしまった。そのせいで遠心力が途轍もない事になり、地殻ごと大地は宇宙に吹き飛び、聖ア星の民たちも次々と宇宙に放り出されていく。聖ア星はあまりの遠心力でピザ状になっていた。


 もう時間もじすうがない。そう思ったタカーシ達は最期の賭けに出た。


「やめろ!」と叫び、魔ブラックホール王の懐に飛び込むタカーシとHIR2-SKP。そのあとに続く女性騎士達。皆の力が一つになっても、魔黒穴王には敵わなかった。そしてタカーシとHIR2-SKPは、魔黒穴王のシュバルツシルト半径の中に取り込まれ、事象地平線イベントホライゾンを越えたのである。魔黒穴王は魔黒穴神へとなってしまった。


 事象の地平線の中で、タカーシは、魔黒穴神の本体、と出会った。そして…

頭部の脳に収納されていた


5cm

を取り出して、彼の急所に刺した。


 タカーシは、ついに魔黒穴神を斃したのである。


 全てが収束して、再び広がり始めた。



―――――――――――――――――






 いずれM104-NGC/4594-ソンブレロ銀河、おとめ座と呼ばれる事になる

恒星たちの狭間で、タカーシは目を開けた。


 先程までの喧噪が嘘の様に、静かな宇宙が広がっている。

宇宙特有の宇宙風音も、宇宙鳥のピーギャスという鳴き声も聴こえない。


 タカーシの明晰な肘脳が、この状況を理解した。

事象の地平線を越えた自分は、また新たな異宇宙へと飛ばされたのだ。


 隣を見る。ヒロイン霊が消えかかっていた。

 

 手を伸ばす。ヒロイン霊は笑っていた。


「…名前、知らないままだ」タカーシが呟く。


 ヒロイン霊は微笑みを湛えたまま、すうっ…と消えていった。


 ヒロイン妹ロボの操縦席の計器類の輝きが消えていく。

 

 そうか、この宇宙にはもう、魔法はないんだ。

 そして、たぶん、誰も…居ない宇宙なんだ。


 あんな宇宙でも、人が居た。仲間が居た。物語があった。

 でも、それはもう閉じられてしまった。

 物語の無い宇宙とは、なんて寂しいものなんだろう。



「誰か…いませんか。誰か」



全ての照明が落ちて、暗くなった操縦席に座ったまま、タカーシは呟き続けた。



「誰か」



――――――――………






 遥か広がる黒空に瞬く星霜の内の一つが、ゆっくりと

タカーシ達の元に近づいていく。





 どんな異宇宙にも、物語を紡ぐ謎の生き物は居るのだ。

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宇宙人がスペーストラックに衝突されて異宇宙転生 Shiromfly @Shiromfly2

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