異世界に召喚される主人公といえば、聖女だったり勇者だったり、もしくは役立たずスキルと言われて追放されるなどバリエーションパターンがありますが、こちら、音楽を趣味にしている凡人が、その凡人のまんまで魔王の元に召喚されております。そして、そのままの自分で良いという。
主人公の詫歌志(たかし)はDTMを趣味にする普通の男子。徹夜で作曲にいそしんでいたところ、気付いたら魔王の前に引き立てられ、国歌を作れと命じられるという形で物語は始まるのですが……。
この作品、ダークな出来事をとにかくライトに読ませて来る。
主人公が魔王サイドになるためか、読者としても考えが魔王軍の方に寄ってしまって、討伐に来る人間よりモンスターの方に愛着がわいてきてしまい。というか、モンスターが可愛くてコミカル。ハロウィン感。
物語のシナリオだけをなぞると、結構重い設定で混沌とした闇の世界観、魔王のやってる事は凄惨極まりないのですが、もうそんなの欠片も感じさせないぐらい、コメディ。
コメディには風刺や毒がスパイスとして効いて来る事がありますが、この作品では魔王軍らしい闇の部分、残虐な部分がその毒の役割を果たしている感じかも。
勢いと、ノリと、絶妙な言葉選びで、笑ってしまうシーンが随所に。外出先で読むのは控えた方が良いかと思います!
DTMが趣味の青年・荒上原が、異世界に召喚されて大魔王イアレウスを讃える国歌を作れと命じられた! 期日は次の新月まで。満足のいく曲を完成させなければ死刑! 命を賭けてラスボスのための戦闘曲作りに挑む異世界音楽ファンタジー。
RPGのラスボスの戦闘BGMといえば暗く、重く、そして荘厳で最終決戦を最高潮に盛り上げる名曲揃い。
そんなカッコいい戦闘曲を作れと命じられたものの、肝心の作曲するための機材がない。楽器はあれども弾き手がいない!
仕方なしにモンスターたちを指導してオーケストラを築いていく荒上原の苦悩ぶりが可笑しいです。
最初は冷酷非道で恐ろしげに思えていた大魔王が意外と部下に甘かったり、強面なモンスターたちもノリがよかったりと、コミカルな悪役キャラと、テンポの良さが読みやすいです。
果たして大魔王の望み通りの国歌は完成するのか。最後までこの勢いで書き切ってほしい。
(音楽を題材にした作品特集/文=愛咲 優詩)