12件目 #天使が舞い降り花開く
「おう、来たか、錦」
「あ、にっしーおっはろ~」
「ああ、おはよう。それと、にっしー言うな」
集合場所に指定されたこの辺りでは有名な神社に着くと榊と美登のカップルは既に待っていた。
あまり早く着きすぎてしまっても2人に揶揄われるだけだと思って若干遅めに来たものの、まだ時間は10分くらいは余裕がある。だと言うのに見た所では2人共随分と早く来ていたようだった。
「随分と早いな……。流石に弐式戸はまだ来てないか」
弐式戸もまだ到着はしていないようであった。前回は早く着きすぎたから今回は学習したということだろうか? 集まっても結局動けないでいるというのも何とも気まずいものであったからそうなるのも当然だろう。もし今回がそうなっていたとしても榊の車で移動するため気まずくなるということは無いだろうが。
だとすると俺も今後のことを考えて車の免許位取って置いた方が良いのかもしれない。
「まだっぽいよ。てかさ、2人は一緒に来なかったの?」
「そりゃあ、まぁ……集合場所があるんだからそこで良いだろ」
「分かって無いよね、錦は」
分かってない? 今の話の中に分かってるも何もあったもんじゃないと思うのだが……。美登は一体何を言いたいのだろうか?
「つまり?」
「えー分かんないのー。もうちょい女心を理解してよ!」
「いや、そう言われても……」
そんなものが分かるのであれば中学の時も今もあれほど苦しんでいない。「当然でしょ?」みたいな目で見ないで欲しい。
こちとら遊び相手が居たがこうして本気で向き合おうとしてるのは初めてなのだ。いきなりそんなことを言われても無茶にも程がある。
いやはや、これだからリア充というものは……。まあ、お前だって十分そうだろと言われたらそれまでなのだが。
「つまり、美登はさ、ダブルデートとは言え付き合ってるなら待ち合わせは現地集合じゃなくて先に合流したいってことだよ」
「……? どうせ集まるなら一緒だろ?」
一体何を言っているんだこいつは。先に合流しても現地で合流しても何も変わらないじゃないか。
「僕も錦の言いたいことは分かるけどね……女の子からしたら最初に見るのが相手の男の顔だったり自分の彼氏が自分と会う前に他の女と話してたりするのが嫌ってことでしょ? というかそもそもな話、僕達と弐式戸ちゃんは初対面なんだから最初は錦が合流して案内してあげないと」
後者の方は今言われて確かにと思う。これは俺の気遣いが足りなかったかもしれない。
だが、問題は前者の方だ。分からんでもないが、正直な所面倒さが勝ってしまう。一度合流してからまた集まってでは二度手間ではないか。
しかし榊の視線を追って美登の方を向くと何度も首肯を繰り返していた。実際の所女性視点では榊の言う通りらしい。
えー、面倒臭い。女心ってマジで面倒。分かる訳ないじゃん、そんなの。同じとは言わずともそう変わらないと思うんだけどなぁ……。
というか何でこいつはこうにも女心を理解出来てるんだ? ちょっと、いや、かなり怖い。実はイケメンな女性でしたとか言わないよな?
「ちょっと、錦! 何よその嫌そうな顔!」
「いや、なんか、大変だなって思って」
「寧ろどうでも良いってなる方が分かんないんだけど。最初に顔を見るなら好きな相手が良いじゃん?」
「まぁ、それはそう、なのか……?」
正直そこまで考えたことないから分からん。恋愛童貞と言っても良い位の経験の無さな訳だし。
俺としてはあまり面倒なことは嫌なんだけれど……。それを差し引いても感情優先ということだろうか……? うん、分からん。
だが、まあ、貴重なサンプルにはなる。もし次があった時にでも参考にさせて貰おう。
それはそうとして。実際俺達ってそもそも……
「デートとか言ってるけど、付き合ってるだけじゃないんだけど」
「あーそれはさっき榊から聞いたよ。それで?」
「別に向こうからしたら好きも何もないでしょ」
「うわー、これは重症だねぇ……」
「これでこそ錦って感じだね」
この目の前のカップルは2人だけが理解したように何やら言っている。それを俺に分かるように言って欲しい。
重症とは一体何の話なんだ? 誰かが病気にでもなったのか? そんな話ここまでで一つも出てなかったと思うんだけど。
「それってどういう……」
「あ! 錦君居た!」
不意に名前を呼ばれて声のする方に顔を向けると天使が舞い降りた。
いや、実際は神社に天使が舞い降りるはずもなく弐式戸が駆け寄って来ていただけなのだが、そう見紛えてしまう程に見目麗しく、開いた顎が塞がらなくなる。
こちらに近づいてくる弐式戸は夏らしい白のノースリーブワンピースを身に付け、頭に乗せられた麦わら帽子を手で押さえながら海らしくビーチバッグを持っていた。ただ、ビーチバッグとは言ってもその辺の買い物に持って行っても可笑しくないようなものであることが自分とのお洒落力の違いを実感させられる。
そんな楚々とした彼女の動きとリンクして揺れる衣服は極上な、それこそ天使の纏う羽衣のように幻想的ですらあった。
清楚×弐式戸=最高
証明なんてありもしないが自明の理。まさにこの世の心理とも言える程に弐式戸と清楚との相性が良すぎて俺は発狂寸前だ。
「おはよう。この人達が……って、どうしたの?」
キョトンと首を傾げる行為でさえ尊く見えてしまう。この姿ではちょっとした動きでさえ破壊力抜群だ。
「ん、ああ……いや、ちょっと……」
「ちょっと……?」
「いや、こいつらが今日一緒に行く……」
「初めまして。僕が今泉榊で」
「私が笠原美登でぇ~す。よっろしくぅ!」
爽やかな笑顔と敬礼のポーズをビシッと決めて二人は挨拶をする。
「は、はいッ! わ、私は弐式戸葵という者で……」
緊張からかワタワタし始め、声も裏返り意味もなく手をパタパタと円を描くように動かし始めた。
遂には目もグルグルと回り始め発する言葉がただの呻き声になってしまっていた。
人に言えたことじゃないがこれは酷い。昔の自分を見ているみたいだ。
「弐式戸ちゃんね。錦から話は聞いてるよ。そんなに緊張しなくて良いよ。これから一緒に遊ぶ訳だし。もっと、こう肩の力を抜いてさ」
「うんうん、そうだよ! リラックスリラックス~。ぜっっったいそっちの方が楽しいから!」
「は、はい。ありがとうございます」
そういう弐式戸はまだまだ固く緊張が解けていないようであった。まぁ、リラックスしろと言われて直ぐに出来るのなら最初からそんなことにはならないであろうから仕方ない。
ここは一つ、俺からもアドバイスをしておくか。こうして少しは良い所も見せないとな訳だし。
「別に敬語なんて大丈夫だぞ。もっと砕けて話して構わないよ。こいつらもそう言ってたろ?」
「「え? 錦がそれ言うの!?」」
流石仲良しカップル見事にハモった。ていうか……
「え!? ダメなの!?」
「別にダメとかではないんだけど……」
「錦に言われると釈然としないんだよねぇ」
何だよ、それ……。
こういう所で出来る男ぶって俺にも少しは恰好を付けさせて欲しいのだが。だというのにこいつらは釈然としないってだけで邪魔するのか? なんと理不尽な。
そもそもお前らばっかり弐式戸と話してずるいんだよ。少しは話をさせてくれ。
「てか、俺の紹介で来てる訳だからここは俺が誘導する場面なんだろ?」
「そう言われればそうなんだけど……」
「嫌だよね~」
マジかこいつら。この理不尽カップルをどうして殺ろうか……。
「くっくくっ……ふふふっ、あははははは」
色々と真剣に考えていたら弐式戸が笑いを堪えるように腹を抱えて笑っていた。
一体どうしたというのだろうか……? 普通に話していただけだったと思うんだけど。
何か可笑しいことでもあったのか?
「弐式戸……?」
「ん、いやあ、ごめんごめん。何か、話してるの聞いてたら面白くなっちゃって。それにしても、錦君。お友達と話すときはあんな感じなんだね。ちょっとびっくりしちゃった」
「びっくり?」
「うん、びっくり。ああいう顔もするんだなぁって」
そう言いながらも弐式戸は未だクスクスと笑っている。正直な所、何が面白かったのかは分からないが弐式戸が楽しいのなら良かった。あの緊張ぶりを見て不安になってしまっていたから。
「それじゃあ、弐式戸ちゃんの緊張も解れてきたみたいだし、そろそろ出発しようか」
榊が弐式戸の様子を見ながらそう言う。
そういえば、笑ったからか先ほどまでの強張った表情は消え失せ代わりに花が咲いたような笑顔が現れていた。真夏、そして麦わら帽子が合わさって、まるで向日葵のように感じる。
「そうだな。榊の運転で行くから早く車に乗ろう」
「葵! こっちこっち!」
「僕の運転任せなのになんでそうグイグイと進めていっちゃうかな……」
「ふふっ。宜しくね」
「レッツゴーーー」
弐式戸は美登に手を引かれ車に向かって行く。そうする2人は新たな出会いとワクワク感で笑顔に溢れている。こうしてみていて実に微笑ましい。
「まぁ、良いんだけどさ」
「じゃあ、俺達も行くか」
「そうだね、錦」
俺達も2人の後を追いかけて車に乗り込み、目的地の海に向かって進むこと二時間半。
俺達は海に到着した。
Search Nestle Sugar ~#SNSでフォロワーと遊ぶ約束を取り付けたら中学時代の初恋相手が遊びに来た件~ 沢田真 @swtmkt
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