11件目 #好きな人の水着は想像するだけでテンション上がるもの

 ヤバい、どうしよう。完全にやってしまった。


 榊と美登のカップルとダブルデートなんてするつもり無かったのに……。まさか美登と結衣さんが流れで勝手に決めてくるとは思ってもみなかった。


 俺としては普通に弐式戸と2人きりのデートをしようと思ってたのだ。


 しかもあの2人と弐式戸って面識が無かったはずだから気まずくならないか不安しかない。コミュ力がある2人がという訳ではなく弐式戸が臆するのではないかという意味で。2人に関しては心配する必要も理由もないからどうでも良いのだが、弐式戸は俺と似ている部分があるから……


 本当にこれは参った。はてさてどうしたものか。


 うん、ここは安定の榊に相談ということで。今回は榊も関係のある話だし別に良いよね?


 え? お前は榊に関係が無くてもいつも相談してるだろって?


 いやいや、そんな訳ないでしょ。誰が男にそんな相談を。そんなのをした暁には恥ずかしさで死んでしまえる。どこまでナイーブなんだよって……はいすみません。俺がやってました。勢いでちょっと調子に乗ってました。


 ふぅ……とりあえず一度話だけでもしてみるか。


 それまでずっとゴロゴロとしていたベッドから起き上がり、机の上にあったスマホを手にする。


 ――今日の昼に決まった話なんだけど……マジで言ってる?――


 メッセージアプリを起動して榊宛に送ると直ぐに既読が付く。流石は榊、いつも早い。一体どうしていたらこんなに早く確認出来るのだろうか? 常々疑問に思う。


 ――マジでしょ。もう行先だって海に決めたよ。美登だってノリノリだから今から断るなんて言わせない。嫌だったならあの時に言えば良かったのに――

 ――いや、あの時はなんか断れなくてさ。あのノリじゃぁ嫌って言えない――

 ――美登どころか姉さんまでノリノリだったからねwww。けど、そうなるのって昔の錦みたいだ。最近はそんな風に過剰気味に気を使うことも無かったのに。やっぱり噂の彼女の影響?――

 ――彼女ではないけどな。でも、再開の影響はあると思う。あの頃を思い出すっていうかなんていうか……――

 ――だろうと思った。そういう所あるよね、錦は。まぁともかく、姉さんは引き止めるから頑張りなよ。邪魔が入って錦が荒れたらこっちだって堪ったものじゃないからね。弐式戸ちゃんにもいつなら大丈夫か聞いといてね。こっちはいつでも大丈夫だから――


 最後に2頭身の真っ白な人間がポンポンを持って応援するスタンプが送られてくる。最後に了解したとのことをスタンプで伝え俺たちのやりとりは終了。


 俺達の間に余計な雑談も何もあったものじゃないのだ。普段から直接顔を合わせているしそんなに話すこともないから。それに、用も無いのにただの雑談でメッセージを送るってのもそれこそカップルのやり取りのようで気が引ける。そこは榊の方も感じているのか雑談めいた話だけを送ってくることはない。たまに脱線してしまうことも無きにしも非ずなのだが。


 ともかく、どうやら俺は覚悟を決めなくてはならないらしい。場所まで決まってノリノリなあいつらを知って今更変更しろなんて言えないし、許してくれないだろう。


 でも海ってダブルデートで行く場所じゃないような……初対面の弐式戸だって居るのに。今の盆の時期だと人混みの中で結局はぐれて普通のデートみたいな感じになりかねないような気がする。それってダブルデートとしてどうなのだろうか?


 こういうのって仲が良いグループでかカップルが2人切で行くものなのじゃないのか? よく分からんが、そんなイメージはある。これが偏見だとしても新顔を入れて行くことは確実に間違いだとは思う。


 だが、いつまでもそんなことをうじうじ言っていても仕方ない。スッパリと目的地が決まって良かったとポジティブに捕らえようではないか。そのおかげで悩むことも無くなったし、それに何より弐式戸の水着姿を拝むことが出来る。夢のようではないか。


 では早速弐式戸に連絡を入れるのが吉だろう。


 ――この間の罰ゲームの件なんだけど、海に行くけどいつ頃が良いかな?――


 今度はSNSのアプリを開いてアオさんのアカウントにDMを送る。既読が付く訳ではないから読まれてるか分からないがまだ夜の9時だ。今日中には確認されるだろう。


 風呂も食事も終わりやることもないからそれまでロムることにする。


 そうしてあちこちに♡を付けたり拡散したりして暫くの間SNSで時間を過ごしているとアオさんからDMに返信があった。


 ――海! 良いね。楽しみにしてるよ。日にちは今週の日曜にでもどうかな? それなら私はお盆の用事も終わってるし丁度良いかな――

 ――今週の日曜だね。了解! 俺も楽しみだ――


 よし! これで約束は取り付けた。これで弐式戸の水着姿を拝むことが出来る。


 こんなこと中学の頃の俺は想像すらしていなかった。あの頃はただただ弐式戸を目で追って付き合いたい一心で後のことなんて考えてすらいなかった。


 もし、今のこの状況を中学生の俺に教えたら一体どんな顔をするだろうか?


 多分だが信じやしないだろう。多分というか絶対そうだ。何せあの時の俺は弐式戸と付き合えるとは思っていなかった。だから目で追って付き合いたい、そう出来ればどれだけ幸せだろうと思いつつも行動に移せなかったのだ。


 だというのに今はどうだ? 再開して中学の時よりも話せるようになったどころかあまつさえデートまでして海に遊びに行く約束まで取り付けた。


 それでいていずれかは折を見て必ず告白して弐式戸と付き合おうと決心しているのだから成長したなんてもんじゃない。覚醒と言って良い。


 それだけで付き合えていない状況は何も変わってないだろなんて意見は受け入れない。気にするからほっといてくれ。


 それでもこの変化は俺にとっては奇跡同然の出来事なのだ。これは有り得ないはずの未来だったのだ。


 なのに今はこうして弐式戸と関係を持てている。


 だから、そう、俺は覚醒したのだ。


 今の俺なら弐式戸に告白さえ簡単に出来てしまえる気がする。そしてOKの返事を貰って今以上に遊んだりデートしたりして出来ればその先も……


 どんどん妄想が広がっていく。いつの間にかたくさんの子供や孫に囲まれて幸せに死ぬ所まで想像してしまっていた。


 そんなかつては想像も出来なかった未来に辿り着くために今を突き進むのだ。


 とりあえず当面は弐式戸に告白すること。なんかいけるような気もしてきたしなんなら日曜に良いムードにでもなったら告白してしまおうか。


 この今の俺達の関係性でそうならない訳がないと思う。これは絶対なるだろ。そしてそのまま彼女ゲットだ!


 もしそれで告白出来なかったら俺はどれだけ奥手なんだって話だ。度胸がないにも程がある。チキンだ。


 ここまで一気に進んだ俺がそんなはずはない。だから絶対成功させてやる。


 ああもう、今から日曜が楽しみでならない。あまり声を大にしては言えないが弐式戸の水着姿も拝めるしな。水着姿を拝めるのはこれが初めてなのだ。中学にはプールが無かったためプライベートで関りが無かったため必然的にそうなる。


 一体どんな水着を着るだろうか?


 黒の大人っぽいビキニか? それともそれとは真逆な白くて清楚なものなんてのもありだ。デザインが入ったものやラッシュガードを羽織ってるのも良いだろう。これは恥ずかしがってる感じがして凄い良い。他には形状を変えてワンピースとかだろうか? こういったものも絶対に似合うだろう。というか弐式戸は顔もスタイルも良さそうだから何を着ても似合うと思う。流石にスク水なんてものを着られたら笑ってしまうだろうが20歳にもなってそれは無いだろうな。見てみたい気もしなくはないが。


 おっと。ちょっと弐式戸のことを想像していたらテンションが上がり過ぎて色々と捗ってしまった。


 気づいたら0時を回ってしまっているではないか。今日は外に出かけに行ったりして疲れた。もう寝てしまおう。


 そしてそうこうしている内に数日が経過し約束の日曜の朝になった。

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