ノート2.3 コメント返信のパラドックス

(注意)本作で出てくるデータは、全て2021年1月10日までに取得されたものです。


 ――――――――――――――――


「今読んでるカクヨム小説に『タイムパラドックス』が登場するんだけど、難しすぎてよく分かんないわ。タケル君、こういうの好きだったわよね?」


 俺――研究所主任研究員マッドサイエンティスト草薙くさなぎタケルが計算機パソコンを前に作業をしているとき、幼馴染みで研究助手アシスタントとう景子けいこが泣きついてきた。


SFサイエンスフィクションを読んでいるのか?」

少しS不思議Fだと思ったのよっ!」

「カクヨムの曖昧さが招いた悲劇か……」

「それで、タイムパラドックスって何?」

「SFでは頻繁に扱われるテーマだ。あえて日本語に訳すと時間的逆説、かな。

 例えば、ケイコちゃんがタイムトラベルで過去に戻り、そこで子供のときの自分と出会う。しかし、大人のケイコちゃんが過去にやって来たことによって生じた事件によって、子供の頃のケイコちゃんが死んじゃったとしよう。

 さてこのとき、そこに存在している大人のケイコちゃんは一体何者だろう?」

「え、私は私だわ」

「でも、子供のケイコちゃんは死んじゃったよ。当然、成長したケイコちゃんも存在しないことになる」

「むむ……」

「このように、時間に関するイベントで矛盾が発生するような状況をタイムパラドックスと言うんだ」

「私が私じゃなくなって、私でない私がそこにいるけど、私は私だし――あぁ、なんだか目が回ってきたわ……」

「おい、しっかりしろ!」



「落ち着いた?」

「えぇ、もう大丈夫よ」

「良かった。初心者がSFを読むときのコツはね、深く考えないことだ。最終的な答えは作者が提示してくれる」

「なるほど、勉強になるわ」

「さて、俺は作業に戻らないと」

「作業? そう言えば、さっきから何やらキーボードを叩いていたわね」

「所長に代わって、作品に寄せられたコメントを代筆してるのさ。全く、データ収集だけでなくこんなことまでさせるなんて、所長は人使いが荒い」

「折角コメントを貰えたのに、嬉しくないのかしら。自分で返信すればいいのに」

「『私は別にやることがある』だってさ……。

 ところでケイコちゃん、応援コメントにきっちり返信することで星の評価が上がる『コメント返信ブースト』はあると思う?」

「当然あるわ! そんなの、統計を見なくたって分かる。全部のコメントに返信してる作品の方が良い評価を貰えるに決まってる」

「どうして?」

「ちゃんと返信されている作品は印象が良いからよ。返信されず放置されているコメントを見ると、『この書き手はテキトーなのかな?』と思ってしまうわ」

「なるほど、それはあるかもしれないな。

 と言うことで今回は『応援コメントにちゃんと返信することは、作品の評価に繋がるのか?』という疑問を解き明かしていこう」

「別に考えるまでもないと思うんだけどなー」

「ここで、ある作品の返信率 Rp を次のように定義するぞ」


 Rp =『書き手』が返信した総数 ÷ その作品についたコメントの総数 × 100 [%]


「これは以前の研究ノートで見たものと同じよね」

「そうだよ。ほら、これだ――」


『ノート1.6 214,219作品って、どれくらいコメント/返信されてるの?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055450204744/episodes/16816410413938202901


「確か、返信率が100%と0%に二極化してる話をした記憶があるわ」

「その通りだ。ここで注意点が2つある。

 1つ目、Rp は『書き手』の返信率ではなくあくまで作品単位になっていること。

 2つ目、作品に全くコメントがついていない場合も併せて Rp = 0%として扱っていること。これは、コメント欄が『書き手』によって閉じられている作品も同様だ」

「分かったわ」

「Rp が100%だと『書き手』は全てのコメントに返信していることを表す。逆に Rp が0%だと、『書き手』は全くコメントに返信していない、返信できるコメントが無い、もしくはコメント欄がそもそも閉じられていることを表しているぞ」

「はーい」

「今回は、表の見方を先に説明しておく。例えば、表題に『比較対象 (Rp > 99.0%) VS (RP ≦ 99.0%)』と書いてあり、下のようなデータがあったとしよう――」


 47PV以上:★16 > ★5 (30,707作品, 77,935作品)


「左側の『★16』は、Rp > 99.0%かつ47PV以上見られている作品群の中央値、右側の『★5』は、Rp ≦ 99.0%かつ47PV以上見られている作品群の中央値になっている。

 後ろの括弧は、それぞれの作品群に含まれる作品数だ」

「分かったわ」

「まずは、Rp = 99.0%で作品を2つのグループに分けた結果を示すぞ」

「流石に今回は常識を確かめるだけでしょ。時間のムダだわ――」



 ――――――――――――――――

 統計情報:★の中央値

 比較対象 (Rp > 99.0%) VS (RP ≦ 99.0%)

 ――――――――――――――――

 0PV以上:★11 > ★0 (41,028作品, 174,562作品)

 47PV以上:★16 > ★5 (30,707作品, 77,935作品)

 100PV以上:★18 > ★6 (23,935作品, 56,680作品)

 1,000PV以上:★31 > ★23 (9,160作品, 19,050作品)

 2,000PV以上:★39 > ★35 (6,484作品, 13,403作品)

 3,000PV以上:★45 = ★45 (5,248作品, 10,901作品) (

 4,000PV以上:★51 < ★55 (4,483作品, 9,388作品)(


  ……


 99,000PV以上:★297 < ★531 (444作品, 1,780作品)

 100,000PV以上:★300 < ★537 (436作品, 1,759作品)

 101,000PV以上:★300 < ★539 (434作品, 1,750作品)


  ……


 998,000PV以上:★1,686 < ★2,220 (44作品, 367作品)

 999,000PV以上:★1,686 < ★2,232 (44作品, 366作品)

 1,000,000PV以上:★1,784 < ★2,232 (43作品, 364作品)

 ――――――――――――――――


「……え?」

「ご覧の通りだ。一生懸命応援コメントに返信する作品群と、そこまで返信にこだわらない作品群とを比較した場合、3,000PVを境に評価の大小関係が逆転するぞ」

「またまたー。タケル君、冗談きついよ? あれだ、作品を分ける境目が偏りすぎてるのがいけないのよ。この値をもっと低くすれば結果も変わるわ。絶対に」

「では、次に Rp = 50%でグループ分けした結果だ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:★の中央値

 比較対象 (Rp > 50.0%) VS (RP ≦ 50.0%)

 ――――――――――――――――

 0PV以上:★13 > ★0 (48,341作品, 167,249作品)

 47PV以上:★18 > ★4 (37,865作品, 70,777作品)

 100PV以上:★21 > ★6 (30,731作品, 49,884作品)


  ……


 18,000PV以上:★142 > ★138 (3,391作品, 2,668作品)

 19,000PV以上:★145 < ★147 (3,296作品, 2,568作品) (

 20,000PV以上:★150 = ★150 (3,201作品, 2,499作品) (

 21,000PV以上:★157 > ★155 (3,111作品, 2,430作品) (

 22,000PV以上:★163 > ★162 (3,029作品, 2,362作品)

 23,000PV以上:★168 > ★167 (2,950作品, 2,312作品) (

 24,000PV以上:★171 < ★171 (2,892作品, 2,268作品)


  ……


 998,000PV以上:★1,890 < ★2,417 (205作品, 206作品)

 999,000PV以上:★1,890 < ★2,429 (205作品, 205作品)

 1,000,000PV以上:★1,890 < ★2,430 (203作品, 204作品)

 ――――――――――――――――


「……あれ? あれあれあれー!?」

「3回符号が反転してるけど、最終的に返信しないグループの方が中央値は高くなる。さて、何か言いたいことはあるかな?」

「PV数は増えたけど、なんで不等号がひっくり返っちゃうの!? おかしいわ!!

 ……そ、そうね。スペースの都合で省略しているデータ部分は、きっと不等号がバラバラなのよ。そうに違いないわ」

「あぁ、そのことか。誤解されないように、表記を追加するとしよう。

 次は、返信しない作品群がかなり少なくなるであろう Rp = 1.00%でグループ分けした場合だ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:★の中央値

 比較対象 (Rp > 1.00%) VS (RP ≦ 1.00%)

 ――――――――――――――――

 0PV以上:★14 > ★0 (53,320作品, 162,270作品)

 47PV以上:★19 > ★3 (42,413作品, 66,229作品)

 100PV以上:★22 > ★5 (34,814作品, 45,801作品)


  ……(ずっと > )


 150,000PV以上:★621 > ★619 (1,386作品, 307作品)

 151,000PV以上:★623 < ★636 (1,380作品, 305作品) (

 152,000PV以上:★625 < ★637 (1,374作品, 303作品)


  ……(ずっと < )


 980,000PV以上:★2,020 < ★2,463 (349作品, 60作品)

 990,000PV以上:★2,024 < ★2,501 (345作品, 59作品)

 1,000,000PV以上:★2,041 < ★2,501 (341作品, 59作品)

 ――――――――――――――――


「……ずっと小なりなの?」

「もちろんだ」

SF少し不思議どろこじゃないわ。MFめっちゃ不思議よ、MF!」

「じゃぁダメ押しに、返信を全くしない作品群とそれ以外という極端な例を見せてあげるね」


 ――――――――――――――――

 統計情報:★の中央値

 比較対象 (Rp > 0.00%) VS (RP = 0.00%)

 ――――――――――――――――

 0PV以上:★14 > ★0 (53,340作品, 162,250作品)

 47PV以上:★19 > ★3 (42,433作品, 66,209作品)

 100PV以上:★22 > ★5 (34,834作品, 45,781作品)


  ……(ずっと > )


 191,000PV以上:★741 > ★735 (1,202作品, 237作品)

 192,000PV以上:★749 < ★757 (1,196作品, 235作品) (

 193,000PV以上:★752 < ★758 (1,194作品, 234作品)

 194,000PV以上:★752 < ★759 (1,191作品, 233作品)

 195,000PV以上:★755 < ★759 (1,187作品, 233作品)

 196,000PV以上:★756 < ★759 (1,185作品, 233作品)

 197,000PV以上:★757 < ★760 (1,184作品, 232作品)

 198,000PV以上:★759 < ★760 (1,179作品, 232作品)

 199,000PV以上:★761 > ★760 (1,175作品, 231作品) (

 200,000PV以上:★761 < ★780 (1,173作品, 228作品) (

 201,000PV以上:★761 < ★780 (1,171作品, 228作品)

 202,000PV以上:★765 > ★760 (1,168作品, 227作品) (

 203,000PV以上:★765 < ★780 (1,166作品, 224作品) (

 204,000PV以上:★771 < ★780 (1,161作品, 224作品)

 205,000PV以上:★772 < ★780 (1,159作品, 224作品)

 206,000PV以上:★773 < ★780 (1,157作品, 224作品)

 207,000PV以上:★773 > ★760 (1,155作品, 223作品) (

 208,000PV以上:★773 > ★760 (1,153作品, 223作品)

 209,000PV以上:★775 < ★780 (1,148作品, 222作品) (

 210,000PV以上:★775 < ★800 (1,148作品, 221作品)


  ……(ずっと < )


 998,000PV以上:★2,063 < ★2,504 (362作品, 49作品)

 999,000PV以上:★2,075 < ★2,504 (361作品, 49作品)

 1,000,000PV以上:★2,083 < ★2,504 (358作品, 49作品)

 ――――――――――――――――


「……信じられない」

「と言う訳で結論だ。

 応援コメントの返信をする作品群と返信しない作品群を比較した場合、どのような返信率で区切ったとしても、PV数が増えれば増えるほどことが判明したぞ」

「嘘よ……嘘よ……! どうしてこんなことに……!!」

「一般的に応援コメントの返信はした方が良いとされているが、実際の統計を見る限りそうはなっていない。俺はこの現象を『』と名付けることにした。

 考えられる原因としては、コメント返信に費やす時間の差だ」

「あー……」

「応援コメントに返信を書くのは楽しいけど、その分必ず時間を消費する。コメントが多ければ多いほど返信にかかる時間も長くなる。

 また、『書き手』によっては小説本文並に推敲して返事をするという人もいるくらいで、結構な労力を費やしている場合があるんだ。

 一方で、コメントに返信を書かない人やそもそもコメント欄を閉じている場合、返信に費やす時間は皆無だ。仮に、その時間を全て小説を書く時間に充てているとしたら?」

「クオリティは上がりそうね」

「その通り。つまり、自分の作品に自信があれば、カクコンなどの長編コンテストにおいて『応援コメントの欄を閉じて勝負に出る』のは有効な選択肢の1つだとうことだ」

「結構危ない橋のように思えるけどなー……」

「もちろん、前述の戦略を取る場合は、今まで返信コメントにかけてた時間を全て小説本文に注ぎ込むことが大前提だ。小説を書いたり推敲する時間を捻出する方法の1つと思って欲しい。

 なお、『本研究ノートを見てコメント欄を閉じる戦略を取ったのに公募に落選したじゃないか!』と言われても、俺は責任を負いかねるのでご了承を。自己責任でお願いする」

「それ相応のリスクは覚悟しなさいってことね」

「当然、応援コメントを通じて読者と交流を楽しみたい『書き手』もいっぱいいるだろう。その人のスタイルに合わせた選択をすればいいと思うぞ」

「私は断然『交流派』ね!」




「それにしてもタケル君。一体どうやったらこんなことに気がつくの?」

「常識を疑うことだ。俺は常にどんでん返しを狙ってるからな」

「今日の常識、明日の非常識かー……あ、今気がついたわ!」

「ん? どうした急に」

「コメント返信のパラドックスは時間に関係してるし、これもタイムパラドックスなのね!」

「いや、それとこれとは意味合いが――」

「なによタケル君。常識は壊すためにあるのよ!」

「いや、変わっちゃいけないこともあると思うけどなー!?」



 ――――――――――――――――

 今日の研究ノートまとめ

 ――――――――――――――――

 ・応援コメントに返信する作品群としない作品群に分けた場合、返信しない作品群の方が評価は高い傾向にある

 ・応援コメント返信ブーストはせいぜい3,000PVまで

 ・『評価』を取るか『交流』を取るかは『書き手』の選択次第!

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