ノート2.2 ♡がもらえる確率って、どれくらいなの?

(注意)本作のデータは全て2021年1月19日から20日にかけて取得されたものです。


 ――――――――――――――――


「やぁ、ケイコちゃん……って、どうしたの? なんか体調悪そうだけど」


 俺――研究所主任研究員マッドサイエンティスト草薙くさなぎタケルが研究室に入っていくと、幼馴染みのとう景子けいこが研究室に設置された簡易ベッドの上で横になっていた。


「どこか具合でも悪いのか?」

「別に、体はどこも悪くないわ。不貞寝ふてねよ!」

「一体何なんだ」

「……タケル君のせいじゃない」

「え? 俺のせい?」

「前回の話――えーっと、なんだっけ? リアクション率の推定だっけ? 確率とか分布とか、難しすぎて分かんなかったわ!」


 珍しく感情にまかせて勢いよくまくしたてるケイコちゃんに、俺はしどろもどろになった。


「ちょ、お、落ち着いて。俺が悪かったからさ。謝るよ」

「タケル君は暴走すると周りが見えなくなるのが困りものだわ」

「今日は分かりやすい話だからさ、機嫌直してよ」

「本当……? もう、しょうがないわね、つきあってあげるわよ」


 そう言うとケイコはベッドから起き上がった。俺たち2人は、いつもの研究スペースに腰を落ち着かせた。


「今回は、カクヨム全体における応援ボタンが押される確率――つまり、カクヨム全体のリアクション率がどれくらいなのか、実際に求めていくぞ」

「ん? カクヨム全体? どういうこと?」

「真のリアクション率は、であることを示す」

「ちょっと待って。それは変よ。普通に考えておかしいわ」

「ところがどっこい、そうでもないんだな。ビッグデータがそれを示してくれる」

「絶対に違う! リアクション率が全部の小説で同じって言うのはあり得ない!!」

「お、今回は食い下がるね。じゃぁ、2人の意見を真剣に検討しよう。簡単にまとめるとこうなるな」


『仮説1(タケル案):リアクション率は全ての小説で同じ』


『仮説2(ケイコ案):リアクション率は各々の小説で異なる』


「では、どうすればそれぞれの仮説が成り立っていることを示せるか、その方法を考えてみよう」

「そんなの簡単よ。すでに答えが出てるわ」

「ほぅ?」

「すでにリアクション率を計算したじゃない! 私が考えた普通のリアクション率と、タケル君が難しい方法で考えたリアクション率はそれぞれこんな感じの式だったわ――」


(ケイコ式)R = 応援数 / PV数 × 100 [%]

(タケル式)Rb = (応援数 + 1) / (PV数 + 2) × 100 [%]


「作品によって 応援数もPV数も全然違うんだから、リアクション率は各々の小説で異なる。はい、論破」

「なるほど、もっともな主張だ」

「さっさと降参しなさいよね」

「じゃぁ、反論させてもらう。そのPV数は、確率を求めるのに十分な試行回数だったと言えるだろうか?」

「え?」

「ケイコちゃん、前回の会話を思い出して欲しいんだ」


 ――前回のエピソードより


「もし答えを確率 P(X = 表) に近づけようと思ったらどうする?」

「コインを投げる回数を増やすわ」

「まぁ、普通はそういう答えになるよね。だけど、カクヨムの応援ボタンの場合は?」

「う……読者を増やすしか無いけど、そう簡単には読みに来てくれないわね。困ったわ」


 ここまで――


「確かにそんな会話をした記憶があるわ。さっきからやたらとを強調してたのは、そう言う理由だったのね」

「何が言いたいかというと、ほとんどの作品は真の確率 P(X = 押す) を求めるのに十分なPV数じゃないってことなんだ。だから、結果がバラバラなのは当たり前」

「う……。だ、だったら、PV数が多い作品に絞っていったらいいじゃない。そしたら、必ずバラバラの数字に集まっていくわ!」

「まさに俺が言おうとしてくれたことを先回りしてくれたな。と言う訳で、PV数を制約に加えた Rb 別作品数の分布をこれから見ていこう」

「絶対ぎゃふんって言わせてやるんだから!」

「まずは、PVが中央値である47以上の場合だ。Rb = 0は常に作品数 0 だから、表からは除外するぞ」

「分かったわ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:Rb による作品数分布(出現率, 累計)

 対象:47PV以上の108,642作品

 ――――――――――――――――

 0.00% < Rb ≦ 0.50%:10,743作品 (9.89%, 9.89%)

 0.50% < Rb ≦ 1.00%:9,083作品 (8.36%, 18.25%)

 1.00% < Rb ≦ 1.50%:8,644作品 (7.96%, 26.21%)

 1.50% < Rb ≦ 2.00%:7,759作品 (7.14%, 33.35%)

 2.00% < Rb ≦ 2.50%:4,943作品 (4.55%, 37.90%)

 2.50% < Rb ≦ 3.00%:4,173作品 (3.84%, 41.74%)

 3.00% < Rb ≦ 3.50%:3,682作品 (3.39%, 45.13%)

 3.50% < Rb ≦ 4.00%:3,550作品 (3.27%, 48.39%)

 4.00% < Rb ≦ 4.50%:2,750作品 (2.53%, 50.93%)

 4.50% < Rb ≦ 5.00%:2,582作品 (2.38%, 53.30%)


  ……


 45.00% < Rb ≦ 45.50%:43作品 (0.04%, 99.50%)

 45.50% < Rb ≦ 46.00%:39作品 (0.04%, 99.54%)

 46.00% < Rb ≦ 46.50%:42作品 (0.04%, 99.58%)

 46.50% < Rb ≦ 47.00%:40作品 (0.04%, 99.61%)

 47.00% < Rb ≦ 47.50%:26作品 (0.02%, 99.64%)

 47.50% < Rb ≦ 48.00%:32作品 (0.03%, 99.67%)

 48.00% < Rb ≦ 48.50%:31作品 (0.03%, 99.69%)

 48.50% < Rb ≦ 49.00%:25作品 (0.02%, 99.72%)

 49.00% < Rb ≦ 49.50%:28作品 (0.03%, 99.74%)

 49.50% < Rb ≦ 50.00%:29作品 (0.03%, 99.77%)


  ……


 77.00% < Rb ≦ 77.50%:0作品 (0.00%, 100.00%)

 77.50% < Rb ≦ 78.00%:1作品 (0.00%, 100.00%)

 78.00% < Rb ≦ 78.50%:0作品 (0.00%, 100.00%)

 78.50% < Rb ≦ 79.00%:1作品 (0.00%, 100.00%)

 79.00% < Rb ≦ 79.50%:1作品 (0.00%, 100.00%)

 以降、全て 0 作品

 ――――――――――――――――


「ほら見なさい、全然バラバラじゃない」

「まぁ待て。まだたったの47人より少ない試行――46PV以下の試行を取り除いただけだ。次は10,000PVだ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:Rb による作品数分布(出現率, 累計)

 対象:10,000PV以上の8,423作品

 ――――――――――――――――

 0.00% < Rb ≦ 0.50%:1,187作品 (14.09%, 14.09%)

 0.50% < Rb ≦ 1.00%:1,054作品 (12.51%, 26.61%)

 1.00% < Rb ≦ 1.50%:1,417作品 (16.82%, 43.43%)

 1.50% < Rb ≦ 2.00%:1,300作品 (15.43%, 58.86%)

 2.00% < Rb ≦ 2.50%:1,050作品 (12.47%, 71.33%)

 2.50% < Rb ≦ 3.00%:695作品 (8.25%, 79.58%)

 3.00% < Rb ≦ 3.50%:415作品 (4.93%, 84.51%)

 3.50% < Rb ≦ 4.00%:286作品 (3.40%, 87.90%)

 4.00% < Rb ≦ 4.50%:199作品 (2.36%, 90.26%)

 4.50% < Rb ≦ 5.00%:127作品 (1.51%, 91.77%)


  ……


 45.00% < Rb ≦ 45.50%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 45.50% < Rb ≦ 46.00%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 46.00% < Rb ≦ 46.50%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 46.50% < Rb ≦ 47.00%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 47.00% < Rb ≦ 47.50%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 47.50% < Rb ≦ 48.00%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 48.00% < Rb ≦ 48.50%:0作品 (0.00%, 99.98%)

 48.50% < Rb ≦ 49.00%:1作品 (0.01%, 99.99%)

 49.00% < Rb ≦ 49.50%:1作品 (0.01%, 100.00%)

 以降、全て 0 作品

 ――――――――――――――――


「あ、あれ? リアクション率50%付近の作品がごっそりとなくなったわ」

「加えて、50%より大きい作品はになった。どんどん行くぞ。次はちょっと数が大きくなって100,000PVだ」


 ――――――――――――――――

 統計情報:Rb による作品数分布(出現率, 累計)

 対象:100,000PV以上の2,195作品

 ――――――――――――――――

 0.00% < Rb ≦ 0.50%:209作品 (9.52%, 9.52%)

 0.50% < Rb ≦ 1.00%:296作品 (13.49%, 23.01%)

 1.00% < Rb ≦ 1.50%:522作品 (23.78%, 46.79%)

 1.50% < Rb ≦ 2.00%:531作品 (24.19%, 70.98%)

 2.00% < Rb ≦ 2.50%:318作品 (14.49%, 85.47%)

 2.50% < Rb ≦ 3.00%:176作品 (8.02%, 93.49%)

 3.00% < Rb ≦ 3.50%:64作品 (2.92%, 96.40%)

 3.50% < Rb ≦ 4.00%:42作品 (1.91%, 98.31%)

 4.00% < Rb ≦ 4.50%:19作品 (0.87%, 99.18%)

 4.50% < Rb ≦ 5.00%:6作品 (0.27%, 99.45%)

 5.00% < Rb ≦ 5.50%:7作品 (0.32%, 99.77%)

 5.50% < Rb ≦ 6.00%:2作品 (0.09%, 99.86%)

 6.00% < Rb ≦ 6.50%:1作品 (0.05%, 99.91%)

 6.50% < Rb ≦ 7.00%:1作品 (0.05%, 99.95%)

 7.00% < Rb ≦ 7.50%:0作品 (0.00%, 99.95%)

 7.50% < Rb ≦ 8.00%:1作品 (0.05%, 100.00%)

 以降、全て 0 作品

 ――――――――――――――――


「……あのー、タケル君?」

「なんだい」

「8%より大きい作品は……?」

「無い」

「まじで!?」

「もう一丁、さらに桁を1つ増やして1,000,000PV以上だ」

「雲の上の存在!」


 ――――――――――――――――

 統計情報:Rb による作品数分布(出現率, 累計)

 対象:1,000,000PV以上の407作品

 ――――――――――――――――

 0.00% < Rb ≦ 0.50%:26作品 (6.39%, 6.39%)

 0.50% < Rb ≦ 1.00%:59作品 (14.50%, 20.88%)

 1.00% < Rb ≦ 1.50%:163作品 (40.05%, 60.93%)

 1.50% < Rb ≦ 2.00%:111作品 (27.27%, 88.21%)

 2.00% < Rb ≦ 2.50%:35作品 (8.60%, 96.81%)

 2.50% < Rb ≦ 3.00%:11作品 (2.70%, 99.51%)

 3.00% < Rb ≦ 3.50%:2作品 (0.49%, 100.00%)

 以降、全て 0 作品

 ――――――――――――――――


「……」

「もう1桁。10,000,000PV、いってみよう」


 ――――――――――――――――

 統計情報:Rb による作品数分布(出現率, 累計)

 対象:10,000,000PV以上の29作品

 ――――――――――――――――

 0.00% < Rb ≦ 0.50%:3作品 (10.34%, 10.34%)

 0.50% < Rb ≦ 1.00%:7作品 (24.14%, 34.48%)

 1.00% < Rb ≦ 1.50%:11作品 (37.93%, 72.41%)

 1.50% < Rb ≦ 2.00%:8作品 (27.59%, 100.00%)

 以降、全て 0 作品

 ――――――――――――――――


「ダメ押し!」


 ――――――――――――――――

 統計情報:Rb による作品数分布

 対象:60,000,000PV以上の1作品

 ――――――――――――――――

 Rb = 1.08%

 ――――――――――――――――


「さて、ケイコちゃん。この結果を見てどう思う?」

「……私が間違ってました。ごめんなさい」

「もし作品によって応援ボタンの押す確率が違っていれば、もう少し幅のある作品数分布になっているはずだ。しかし、実際はこの様に近い範囲に値が収束していくことから、『応援ボタンを押す確率はどの小説でもだいたい同じ』という結論がもっともらしい」

「なんか狐につままれたような気分だけど、これが現実なのね……」

「実はね、ケイコちゃん。こんな回りくどいことをしなくたって、答えは俺たちのすぐ目の前にあったんだ」

「え? どういうこと?」

「PV数と応援数の総数を思い出して欲しい」


 ――――――――――――――――

 統計情報:2021年1月20日

 ――――――――――――――――

 PV総数:2,448,768,634PV

 ♡総数:♡38,903,293


 R = 38,903,293 / 2,448,768,634 × 100 ≒ 1.59 [%]

 Rb = (38,903,293 + 1) / (2,448,768,634 + 2) × 100 ≒ 1.59 [%]

 ――――――――――――――――


 ――――――――――――――――

 統計情報:2020年3月28日

 ――――――――――――――――

 PV総数:1,379,321,294 PV

 ♡総数:♡20,404,779


 R = 20,404,779 / 1,379,321,294 × 100 ≒ 1.48 [%]

 Rb = (20,404,779 + 1) / (1,379,321,294 + 2) × 100 ≒ 1.48 [%]

 ――――――――――――――――


「なんとまぁ……」

「そんなわけで、PV数が増えれば増えるほどリアクション率は1%~2%に収束していくことが分かったぞ。カクヨムは壮大なコイントスの実験場だった訳だ」

「タケル君、言い方!」

「最後に補足しておくと、今回はあくまで全体について議論したことに注意して欲しい。もし、小説のジャンル毎に区切ったりして標本集団を限定すると、違った結果が得られる可能性がある。これについては、今後の検討課題だ」

「分かったわ。今回は総論ってことね」



「今日はデータを見ていくだけだったから、簡単だったでしょ?」

「そうね。その中身は衝撃的だったけど。ところで、各作品のリアクション率はどう解釈すればいいのかしら?」

「リアクション率の高さはを表している。ただ、その解釈には注意が必要だ。

 その作品にとても興味を持って読んでくれていることを示しているかも知れないし、その小説を書いた『書き手』の知り合いばかりが読んでいるかもしれない。だから、リアクション率が高いことが一概に良いこととは言えないんじゃないかな。

 俺はこの現象を『リアクション率のジレンマ』と呼びたいね」

「なるほど」

「いずれにせよ、PV数が増えれば増えるほどリアクション率は1%~2%に収束していくんだから、リアクション率が増えた! 減った! と一喜一憂することはナンセンスだ」

「身も蓋もない……」

「逆に、多種多様な人に読んで貰えるようになった! とポジティブな気持ちになろうぜ!」

「おぉ、何という発想の転換! これぞまさしくや~」

「なぜに大阪弁……?」



 ――――――――――――――――

 今日の研究ノートまとめ

 ――――――――――――――――

 ・リアクション率 Rb は、PV数が増えれば増えるほど1%~2%の間に収束していくことを定量的に示した(R でやっても結果は同じ)

 ・リアクション率が下がっても『書き手』の皆さんは落ち込まない!

 ・しかし、応援ボタンを押すことによって『書き手』のモチベーションが上がることに変わりはないから、読んだら積極的に応援ボタンを押そう!

 ――――――――――――――――


 ↓↓↓この下にあるよ(笑)

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