ノート2.4 連載を止めるな!

(注意)本作のデータは全て2021年1月19日から20日にかけて取得されたものです。


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「ねぇ、タケル君。『カメラを止めるな!』って映画を見たことある?」


 俺――研究所主任研究員マッドサイエンティスト草薙くさなぎタケルが、自分で実装した並列アルゴリズムにおいてプロセスが発生する件で悩んでいると、いつものように空気を読まない研究助手アシスタントとう景子けいこが話しかけてきた。


「ゾンビの奴か。今1番聞きたくない単語だったんだが……」

「で、どうなの?」

「見たことはあるぞ。ゾンビものとかスプラッターな作品は苦手だから避けてたんだけど、地上波で放送されたときに見たんだ」

「感想は?」

「色んな意味で予想を裏切られたよ。最初はとにかくヘンテコで『なんてB級映画だ!』と思ったんだけど、その意味が明かされたときに思わず膝を打った」

「そうよねー。私は好き」

「見たことが無い人は『えっ?』って思うかも知れないけど、今の俺のようにちょっとした息抜きが必要な人が見ると丁度いいかもしれないな」

「ゾンビなのにねー」


「話は変わるんだけど、ケイコちゃんは長く続いている作品をどう思う? 言い方は悪いけど、それこそゾンビのように死なない作品」

「面白いからいいじゃない。『ワンピース』とかもっともっと続けて欲しいと思うわ。

 それに引き換え、『鬼滅の刃』とか『約束のネバーランド』は連載が終わってしまって残念ね。『ハイキュー!!』も好きだったんだけどなー」

「昔は『水戸黄門』や『大岡越前』のように、息の長い作品がとても多かった。しかし、これが時代の変化という奴なんだろう。例えばNetflixだと、人気だったシリーズでもちょっと数値が下がればすぐに打ち切られる。物語は『濃く短く』がスタンダードになりつつあるな。

 そこで今回は、カクヨム小説の事情はどうなっているかを見ていこうと思う」

「ふむ?」

「つまり、『長く続いている連載作品の方が評価されているのか、それともキッパリ完結した作品の方が良いのか』について検証するぞ」

「なるほど」

「今回の研究ノートのタイトルを見て、小説が『エタる』話だと思ったそこのあなた! それはまた別の機会に!」

「ごめんなさいねっ」


「さて、今回の評価方法について解説していくぞ。

 まず、作品を『連載中』と『完結済』の2グループに分ける。そこから文字数の下限を高くしていったときに、星の中央値がどう変化していくかで比較しようと思う」

「分かったわ」

「表の見方は『コメント返信のパラドックス』の研究ノートとほぼ同様だが、ここでもちゃんと説明しておこう」


 1,000文字以上:★2 < ★3 (80,141作品, 106,350作品)


「左側の『★2』は、連載中かつ1,000文字以上の作品群における中央値、右側の『★3』は、完結済かつ1,000文字以上の作品群における中央値だ。後ろの括弧は、それぞれの作品群に含まれる作品数ね」

「つまり、この場合は完結している作品の方が統計的に評価が高いと言える訳ね」

「その通りだ。では、まず0文字から1,000文字刻みで増やしていったデータを見ていくぞ」

「はーい」


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 統計情報:★の中央値

 比較対象:連載中 VS 完結済

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 0文字以上:★1 < ★3 (92,085作品, 123,505作品)

 1,000文字以上:★2 < ★3 (80,141作品, 106,350作品)

 2,000文字以上:★3 < ★4 (70,856作品, 88,353作品)

 3,000文字以上:★3 < ★5 (64,230作品, 74,888作品)

 4,000文字以上:★3 < ★5 (59,127作品, 63,183作品)

 5,000文字以上:★3 < ★5 (55,141作品, 56,831作品)

 6,000文字以上:★3 < ★5 (51,921作品, 51,488作品)

 7,000文字以上:★3 < ★5 (49,110作品, 48,052作品)

 8,000文字以上:★4 < ★6 (46,716作品, 44,717作品)

 9,000文字以上:★4 < ★6 (44,547作品, 41,798作品)


  ……


 ――――――――――――――――


「完結した作品の方が評価は高いわね」

「この辺は完結した短編が非常に多いからな。それらが評価されているんだろう。一方、連載中の作品はまだ物語の序盤だ。評価しろと言われてもなかなか難しい」

「確かに」

「とは言え、星の絶対値はそんなに高くないね」

「えぇ。もうちょっと評価されるのかと思ってたけど、結構渋い」


「次は、ちょっと刻むペースを上げて10,000文字刻みだ」

「了解」


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 統計情報:★の中央値

 比較対象:連載中 VS 完結済

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 10,000文字以上:★5 < ★6 (42,626作品, 37,967作品)

 20,000文字以上:★6 = ★6 (31,014作品, 26,905作品) (

 30,000文字以上:★8 > ★7 (25,007作品, 22,486作品) (

 40,000文字以上:★9 > ★8 (20,996作品, 19,874作品)

 50,000文字以上:★11 > ★9 (18,223作品, 18,206作品)

 60,000文字以上:★12 > ★9 (16,108作品, 16,866作品)

 70,000文字以上:★13 > ★9 (14,363作品, 15,752作品)

 80,000文字以上:★15 > ★9 (12,931作品, 14,621作品)

 90,000文字以上:★16 > ★10 (11,750作品, 13,281作品)


  ……


 ――――――――――――――――


「あ、ここで評価が逆転した!」

「カクヨム的には短編と中編の境目である20,000文字で連載中と完結済の評価が拮抗、そしてそれ以上になると明らかに連載中の評価が高くなっていくぞ」

「この後の展開が想像出来るわ……」

「さらに刻むペースを上げよう。次は100,000文字刻みで900,000文字以上までのデータを見てみよう」


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 統計情報:★の中央値

 比較対象:連載中 VS 完結済

 ――――――――――――――――

 100,000文字以上:★17 > ★11 (10,757作品, 12,218作品)

 200,000文字以上:★30 > ★20 (4,646作品, 2,993作品)

 300,000文字以上:★40 > ★25 (2,756作品, 1,561作品)

 400,000文字以上:★48 > ★32 (1,841作品, 961作品)

 500,000文字以上:★57 > ★35 (1,295作品, 644作品)

 600,000文字以上:★72 > ★37 (949作品, 452作品)

 700,000文字以上:★81 > ★37 (710作品, 345作品)

 800,000文字以上:★89 > ★41 (543作品, 256作品)

 900,000文字以上:★90 > ★41 (434作品, 197作品)


  ……


 ――――――――――――――――


「うわぁ、どんどん差が開いていくよ」

「ここで結論を述べておこう。

 全体的に見て――連載中か完結済かに関係なく――長く続ければ続けるほど評価は高くなる。そして、連載中であれば更に評価は高い傾向にあるぞ」

「短編マスターの所長がこのデータを見たら、きっと悔しがるに違いないわ」


「最後に1,000,000文字以上のデータも見ておこう。ただし、ここからは作品数が少なくなるから統計的なバラツキが大きくなるため、あまり信用は出来ない」

「分かったわ」


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 統計情報:★の中央値

 比較対象:連載中 VS 完結済

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 1,000,000文字以上:★93 > ★42 (359作品, 168作品)

 2,000,000文字以上:★113 > ★44 (70作品, 34作品)

 3,000,000文字以上:★122 > ★44 (17作品, 13作品)

 4,000,000文字以上:★166 > ★31 (10作品, 7作品)

 5,000,000文字以上:★166 < ★189 (10作品, 5作品)

 6,000,000文字以上:★168 < ★191 (8作品, 4作品)

 7,000,000文字以上:★241 > ★191 (7作品, 4作品)

 8,000,000文字以上:★168 < ★189 (6作品, 3作品)

 9,000,000文字以上:★95 < ★189 (5作品, 3作品)

 10,000,000文字以上:★95 < ★189 (5作品, 3作品)

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「バラツキの意味がちょっと分かったわ。流石に20作品を切ってくるといろいろ問題がありそうね」

「最後の表は、あくまで参考として捉えるといいだろう。

 ここで気を付けて欲しいのは、これはあくまで長く連載を続けていることと星の評価に相関関係があると言うことであって、因果関係までは言えないと言うことだ」

「ん? どういうこと?」

「つまり、『長く続いているから評価が高い』とか『評価が高いから長く続いている』といった結論は、このような統計データから言うことは出来ないんだ。あくまで両者に関係がありそうだ、ということしか言っちゃダメなの」

「『鶏が先か、卵が先か』みたいな話になるってこと?」

「その通り。もしも因果関係を推定しようと思ったら統計的因果探索といった機械学習の手法を使わなければならない」

「時計的インがたくさん?」

「……いや、忘れてくれ」

「でも、折角だしちょっとくらい原因を考察しようよ」

「そうだなぁ。完結した作品は、手を入れると言っても誤字を修正したり場面の描写を加筆するくらいで、物語の筋を変えるような大きな変更は出来ないよね」

「えぇ、多分そうだと思うわ」

「一方で、連載中の作品はどんどん新しい話を追加できる。これは既存の『読み手』を楽しませることが出来るだけでなく、新規の『読み手』を呼び込むことも可能にする。

 恐らく、そう言った『自由度の差』が評価の差に繋がっているんじゃないかな」

「確かに、読み続けてくれている『読み手』はすでに評価してくれていることが多いだろうし、ご新規様は重要ね!」




「と言う訳で、カクヨムでも長く続ければ続けるほど評価が高いという結果になったど、ケイコちゃんはどう思う?」

「意外のような、そうでもないような」

「まぁ、現実の商業作品で色んな例が知られてるからね。カクヨムは星という評価だけど、これがお金となれば出版側としては長く続けて欲しいと思うのは当然だろう」

「私達はこのデータをどう利用すればいいのかしら?」

「まず、長く続ければ評価してくれると信じて小説を書き続けること。もしも思ったように評価が伸びなければ、その小説はスパッと諦めて別の小説を書き始めると良いかもしれないね。

 もちろん、『小説は完結させてなんぼ!』という考え方の人も大勢いるだろう。続けるか続けないかは『書き手』の裁量次第。好きなようにすればいい」

「あ、投げた! 結論を『書き手』にぶん投げた!」

「まぁ、初心者に向けたアドバイスとしては、なかなか評価されなくても諦めずに『連載を止めるな!』ってことだな」

「お後がよろしいようで」



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 今日の研究ノートまとめ

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 ・長い連載ほど評価される傾向にある

 ・連載中であれば評価はさらに高い傾向にある

 ・続ける? 終わらせる? 『書き手』は大いに悩もう!

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