ノート2.5 小説タイトルの長い短いで、評価に差はあるの?
(注意)本作のデータは全て2021年1月19日から20日にかけて取得されたものです。
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「ねぇ、タケル君。新しいスカートを新調したんだけど、どう? 目立つでしょ?」
俺――
作業の手を止めて振り返ると、そこには自慢げな顔をしたケイコちゃんが立っていた。スカートはもうすぐやって来る春を意識したのか淡い桜色で、裾には白いレース生地が縫い付けてある。確かに、この装いで外を出歩けば目立つだろうが――
「ん? あー、ちょっと短すぎない……?」
スカート以上に
「もぅっ、ここは『似合ってるよ』とか、『カワイイね』と言うところでしょ? そんなんだから、タケル君はモテないんだよ」
「スカートは膝上3センチぐらいが俺のベストポジションだ」
「むー、タケル君の意地悪……」
「長さって重要だと思うんだよね。黄金比って知ってる? 1対1.618なんだけど、長方形の縦と横の長さが黄金比だと美しく見えるんだよ。つまりスカートにも黄金比を適用すると――」
「あー、分かった分かった。もうちょっと長い方がタケル君的には良かったのね。はぁ、ちょっとした長さの違いで評価が変わるなんて、本当に難しいわ……」
「長さの違いと言えば、小説のタイトルも長い方が良いと言う人もいれば、短くてスッキリしてなきゃダメという人もいるよな」
「最近は小説に限らず、長いタイトルが流行ってるわよね。私はあんまり好きじゃ無いんだけど」
「え、そうなの? ちょっと意外」
「1発でビシーッと決まってるのが格好いいと思わない? 『羅生門』とか『坊ちゃん』とか」
「チョイスが渋い……」
「でも、長いタイトルが多くなってるのには何か理由があるはずよね」
「そうだな。そこで今回、タイトルの文字数で作品群をグループ分けしたときに評価に差は出るのか? 具体的には、2つのグループにおけるおすすめレビュー――星の中央値に差が出るかどうかを調べたぞ」
「お、ついに『タイトルは長い方がいいのか』論争に切り込むのね」
「今日の研究ノートを見れば、これまで印象論で語られてきたことに全ての決着がつくこと請け合いだ。
ところでケイコちゃん、以前の研究ノートで紹介した星の統計量とか覚えてる?」
「うーん、なんだかもう忘れちゃったわ。★の中央値はなんとなく覚えてるけど」
「分かった。なら、まずは基本的な統計量をおさらいしておこう。タイトルの文字数と星のデータをそれぞれ研究ノートから再掲するぞ」
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統計情報:おすすめレビュー(★)
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最大値:★20,897
最小値:★0
中央値:★3
最頻値:★0
(平均値:★20.46)
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『ノート1.2 215,590作品って、どれくらい★が輝いているの?』より
https://kakuyomu.jp/works/1177354055450204744/episodes/1177354055642269352
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統計情報:タイトル文字数(2021年1月20日)
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合計:2,722,806文字
最大値:100文字
最小値:1文字
中央値:10文字
最頻値:6文字
(平均値:12.63文字)
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『ノート1.10 215,590作品って、小説のタイトルはどれくらいの長さなの?』より
https://kakuyomu.jp/works/1177354055450204744/episodes/16816452218332651175
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「そうそう、★の中央値は3だったわ。1人の『読み手』が★3をつけてくれるだけで上位50%になれるって話ね。思い出した」
「復習が終わったところで本題に入ろう。まずは、作品を2つのグループに分けたときの結果を紹介する。
文字数の中央値が10文字だから、ここを
「なるほど」
「それじゃぁ、結果を見てみよう」
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統計情報:★中央値
比較:タイトル文字数
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1 文字以上 10 文字未満:★2(103,333作品)
10 文字以上 100 文字以下:★3(112,257作品)
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合計:215,590作品 (100.00%)
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「ん? 差が1かしかないわね。ほとんど変わらないじゃん」
「一応、統計的に差があるかどうかをちゃんと調べよう。今回使用する技は、ウィルコクソンの順位和検定だ」
「ビールゴックンの順番決定?」
「アルコールを飲みながらデータ処理したら大変なことになりそうだな……。
それはともかく、ウィルコクソンの順位和検定――マン・ホイットニーのU検定とも呼ばれる――は統計的仮説検定の1手法で、2つのグループの中央値に差があるかどうかを調べることが出来るぞ」
「難しすぎる……」
「ここでは数学的な説明は一切省いて、結果だけ言おう。ずばり、有意水準1%で2つの母集団で中央値が等しいという帰無仮説は棄却された――つまり、2つのグループには差が無いとは言えない、となった」
「ねぇ、タケル君。なんでそんな回りくどい言い方なの? ズバッと『2つのグループには差がある』と言えばいいじゃない」
「1%未満の確率ではあるが、中央値が同じだという可能性もあるからさ……。これが統計学というものだ」
「私はいつまで経っても慣れそうにないわね」
「次に、10文字未満のグループと10文字以上のグループをそれぞれ2分割して、作品を4つのグループに分けてみた。このとき、各グループの作品数が大体同じになるようにタイトル文字数の
「より詳細にデータを見てみるのね」
「その通りだ。結果はこうなった――」
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統計情報:★中央値
比較:タイトル文字数
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1 文字以上 7 文字未満:★1(59,632作品)
7 文字以上 10 文字未満:★2(43,701作品)
10 文字以上 16 文字未満:★3(58,168作品)
16 文字以上 100 文字以下:★4(54,089作品)
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合計:215,590作品 (100.00%)
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「綺麗に数字が並んだわ」
「もちろんたまたまだけど、非常に分かりやすい結果となった。タイトルの文字数が長いほど星の中央値が上がっていく様子が観察できる。
念のため、このデータにもウィルコクソンの順位和検定を行った。そして、全てのグループ間において1%の有意水準で差が無いとは言えないということが分かった」
「つまり、統計的には差があると言えるのね?」
「……そうだ」
「あ、タケル君が諦めた」
「さて、大体傾向が分かってきたので、タイトルの文字数が短いグループについてはこの辺で終わりにしよう。長い方だけに注目して、文字数が16文字以上のグループだけ更に2分割してみたぞ」
「★は更に上がるのか、それとも横ばいなのか。果たして……?」
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統計情報:★中央値
比較:タイトル文字数
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16 文字以上 23 文字未満:★3(27,294作品)
23 文字以上 100 文字以下:★6(26,795作品)
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「うわっ、さっきより差が広がっちゃった」
「扱う作品数が少なくなってきたとは言え、まだ両グループとも20,000作品以上ある。統計的には十分な標本を確保しているし、この傾向は確からしい」
「ここまではカクヨムの全作品について傾向を見てきたけど、次は長編だけに対象を絞って星の中央値を見ていくことにしよう」
「カクヨムの基準だと、長編は80,000文字以上の作品なのよね」
「うん。『ノート2.4 連載を止めるな!』では、短・中編と比較して長編の方がより多くの星を獲得する傾向にあることを明らかにしたけど、それに加えてタイトル文字数という基準で作品群に分けたらどうなるのか、詳細なデータを見ていくぞ」
「私の印象だと、タイトルの文字数が長い作品ほどたくさんの★を貰っている感じだけど、実際はどうなってるんだろうね」
「今回、それを統計的に確かめよう。
先ほどと同じように、作品を2分割するところから始める。両グループで作品数が同じくらいになるような
「どんな結果になったのかしら。楽しみ」
「これがそのデータだ」
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統計情報:★中央値
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 15 文字未満:★8(14,415作品)
15 文字以上 100 文字以下:★18(13,137作品)
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「うわぁ、ハッキリ差が出ちゃったね」
「これは最早検定をするまでもないな。中央値に差があるのは疑いようもない。次は4分割だ。やはり、4つのグループで作品数が出来るだけ同じになるよう調整した。これがその結果だ! ドーン!」
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統計情報:★中央値
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 10 文字未満:★7(7,904作品)
10 文字以上 15 文字未満:★10(6,511作品)
15 文字以上 25 文字未満:★13(6,569作品)
25 文字以上 100 文字以下:★24(6,568作品)
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「ち、ちょっと、この差は尋常じゃないわ!」
「どんどん差が開いていくね。もうこの流れは止められないな。
最後は、25文字以上のグループを更に2分割した結果だ。参考までに、タイトルの文字数が1文字から25文字までを1つのグループとしてまとめて表示しているぞ」
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統計情報:★中央値
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 25 文字未満:★9(20,984作品)
25 文字以上 35 文字未満:★19(3,423作品)
35 文字以上 100 文字以下:★32(3,145作品)
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「……最早言葉が出てこない」
「作品数が2,000を割ってくると統計的にバラツキがきつくなってくるので、この辺が分割の限界かなと思う。まぁ、タイトル文字数35文字なら十分長いと言えるだろうし、比較としては十分かなと思う。
ついでと言ってはなんだが、タイトルの文字数でグループ分けしたときにおける星以外の中央値を全部見せよう。面白いものが見られるよ」
「え、どういうこと……?」
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統計情報:フォロー数中央値
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 25 文字未満:10フォロー(20,984作品)
25 文字以上 35 文字未満:32フォロー(3,423作品)
35 文字以上 100 文字以下:67フォロー(3,145作品)
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統計情報:PV数中央値
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 25 文字未満:1,193 PV(20,984作品)
25 文字以上 35 文字未満:3,894 PV(3,423作品)
35 文字以上 100 文字以下:8,340 PV(3,145作品)
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統計情報:
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 25 文字未満:♡45(20,984作品)
25 文字以上 35 文字未満:♡140(3,423作品)
35 文字以上 100 文字以下:♡266(3,145作品)
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統計情報:コメント数中央値
比較:タイトル文字数
対象:長編(本文80,000文字以上)
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1 文字以上 25 文字未満:1コメント(20,984作品)
25 文字以上 35 文字未満:2コメント(3,423作品)
35 文字以上 100 文字以下:4コメント(3,145作品)
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「あまりの差に愕然としてる」
「ここまで来ると笑うしかない。いかにタイトルの長い作品に人が吸い寄せられているかが、このデータを見れば一目瞭然だ。
さて、ここからはこの様な結果になった原因について考察していこう。ところで、ケイコちゃんは書店で本を選ぶときはいつもどうしてる?」
「うーん、そうね。もちろんタイトルは見るし、作家の名前もチェックするわ。やっぱり有名な作家かどうかは気になるところ。後はどのレーベルから出てるかとか、後書きなんかも読んだり――」
「ありがとう。つまり、タイトル以外にも様々な情報を入手して、読む本を選んでいるわけだ」
「そう言うことになるわね」
「一方、ウェブ小説は?」
「うーん、そう言えばほとんどタイトルしか見てないかも」
「だよね。何故なら、ウェブ小説においてはタイトル以外に意味のある補足情報がほとんど無いからだ。特に、トップページなどの小さいスペースでは。
そこに表示されているのは、作品のタイトル、『書き手』の名前、後は星やジャンルくらい。『書き手』は大体初見で、そこから判断出来る情報は皆無。ジャンルは大区分すぎて情報が薄い。となると頼りになるのは星かタイトルくらいだけど、星は評価を表しているだけで小説の中身については何も語ってくれない。
従って、『読み手』が中身で読む小説を決めようと思ったとき、より多くの情報が埋め込まれている長いタイトルから判断するようになるのは当然の流れなんだ」
「確かに、本だと作家や出版社、レーベルなどによってある程度中身も質も担保されてるけど、ウェブ小説にはそれが無いもんね」
「その通りだ。つまり、今どきのウェブ小説は『読み手』を引き込む唯一の導線であるタイトルに、相当な訴求力がないとダメなんだ」
『短いタイトルは訴求力が弱い。だから読まれにくく、評価される機会が少ない』
『長いタイトルは訴求力が強い。だから読まれやすい、評価される機会が多い』
「今回の結果は、これが原因だと俺は思ってる」
「なるほど、確かに短いタイトルだと内容をイメージ出来ずにスルーすることがあるわ」
「もちろん、短くても訴求力のあるタイトルは存在する。しかしそれを考えるのは至難の業で、経験を積んだベテランでもそう簡単には思いつかないものだ」
「でしょうね……。私なんか、メールのタイトルですら四苦八苦するのに」
「なので、初心者の方はとりあえず長めのタイトルにして情報を沢山埋め込んだ方が無難だと思われる。是非、参考にして欲しい」
「ここまではっきり結果が分かれちゃうと、『書き手』の人は新しい作品のタイトルを考えるときにこのことを意識せざるを得ないわね」
「蛇足かも知れないが、これから小説を公開しようと思っている初心者はどうすればいいのかについて、もう少しだけ語ろうと思う」
「うわっ、にわかで創作論を語ると火傷するよ?」
「たまにはいいじゃないか。俺が思うに、小説のタイトルはこんな感じで決めればいいんじゃないかな――」
そのタイトルを見て主人公が何をしたいのかが分かるか?
どんな『読み手』が対象で、どんな話が展開されるのかイメージ出来るか?
「確かに、これをタイトルに反映させようと思ったら長くなりそうね」
「主人公が物語の中で実際にすることじゃなく、したいこと――願望を書くことがポイントね。ここ、テストに出るよ」
「タケル君の言うことは当てにならないから、初心者の方は真に受けないでね。参考にしない方がいいわよ!」
「ちょっと、せっかく頑張って考えたのにーっ!!」
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今日の研究ノートまとめ
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・タイトルの文字数によって評価に違いがあるのかを調査
・その結果、長いタイトルほどフォローされ、読まれ、応援され、コメントが付き、なおかつ星を貰っているということが判明
・カクヨムで短いタイトルは統計的に見て不利! 長いタイトルに抵抗がある『書き手』の方も、1度チャレンジしてみては?
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