レンタル彼氏が元カレだった件⑫
梨生奈を家まで送り届けた颯人は、一人家路に就いていた。 おもむろに携帯を取り出し男友達に連絡をする。
「あぁ、貴斗(キト)。 教えてくれてありがとな。 梨生奈がレンタル彼氏に申し込んだって」
『いいって。 今日がデートだったよな? どうだった?』
「俺はレンタル彼氏になりきって初対面のフリをして過ごしたから、すっげぇ楽しかった」
『うわぁー。 そんなに酷いことをして、梨生奈ちゃんに呆れられるなよー?』
「それは平気。 もう復縁したからさ」
貴斗が興奮気味に質問攻めしてくるのを聞き流しながら、颯人は三日前の出来事を思い出していた。 貴斗というのは、レンタル彼氏を実際にやっている友達だ。
颯人がレンタル彼氏で梨生奈のところへ行ったのは、仕事としてではない。
三日前、颯人は別れた梨生奈のことを思い出していた。
―――梨生奈がアイドルを辞めて一般人に戻った、か・・・。
―――一般人の梨生奈には興味がない。
―――だから俺は別れることを決意した。
―――・・・だけど何なんだよ、このもどかしい気持ちは。
梨生奈には『マスコミや知らない男から大量の手紙が届いて耐えられない』という理由で別れている。 だけどそれは表向きで、本当の理由は違った。
スキャンダルを撮られ、梨生奈がアイドルから一般人に戻ったため別れることにしたのだ。 梨生奈のことが好きだったわけではない。 アイドルとして活躍している女性が好きだった。
だがそう思っていたのは自分だけで、実際に別れてから自分はこんなにも彼女のことが好きだったのだとようやく気付く。
ぽっかりと空いた心を埋めるものはそう簡単に見つからず、梨生奈と復縁したいと思うようになった。
―――でもただ復縁だけするのはつまらない。
―――一般人のままの梨生奈と付き合っても、意味がないんだ。
―――だとしたらまた、梨生奈を有名にさせればいい。
―――でもどうやって?
―――梨生奈をもう一度、人気者にさせる方法はあるか?
そう考えた結果、自分の父が経営する音楽会社に入れればいいという結論が出た。
―――よし、道が見えたな。
―――あとは梨生奈をどうやって会社に誘うのか・・・。
悩んでいると丁度貴斗から連絡が来た。
「貴斗じゃん、久しぶり。 どうした?」
『久々だな、颯人。 ・・・あー、言いにくいんだけど、もう颯人って梨生奈ちゃんと別れていたりするか?』
「・・・あぁ、まぁな。 まだ諦めてはいないけど」
『あ、本当に? なら颯人には話しておくよ。 実はさ、梨生奈ちゃんが俺が働いているレンタル彼氏の会社に申し込んできたんだ』
「・・・へぇ」
『いや、100%梨生奈ちゃんかどうかは分からないんだけど。 呼んでほしいあだ名とか誕生日とか、年代も全て梨生奈ちゃんに一致しているんだ。
他にも色々情報はあるけど、俺が知っている限り梨生奈ちゃんのことで』
「・・・マジか」
―――梨生奈がレンタル彼氏を申し込んだ?
―――一体どうして・・・。
『そして、決定的なのはこれ。 “好きな男性のタイプ”の欄が、颯人そのままなんだよ』
その言葉は素直に嬉しかった。 だけど改めて今の状況を考えると少しモヤモヤする。
「・・・で? その話を俺にしてどうすんだよ。 嫉妬でもさせる気?」
『あぁいや、そうじゃなくてさ。 流石に梨生奈ちゃんは颯人のものだし、気が引けて仕事は引き受けられないなと思って』
「・・・」
『・・・さっき、梨生奈ちゃんの好きな男性のタイプが俺に近いからっていう理由で、上から仕事が回ってきたんだ。 だけど今回だけ、颯人にその役目を譲ろうかなって』
「俺に? いいのか?」
『あぁ。 仕事が終わったら俺に連絡をしてくれればいい。 あとは何とか誤魔化す』
貴斗にそう言われ、一日だけレンタル彼氏をすることを承諾したのだ。
そして現在、興奮がおさまった貴斗が口を開く。
『そうだ。 今日稼いだ金は全て颯人にやるから。 俺は何もやっていないし』
「いや、返すよ。 梨生奈から取った金なんて、もらっても嬉しくないからさ」
『・・・あ、そう』
貴斗と少し話し、最後に礼を言ったところで電話を切った。
「・・・まぁ、梨生奈の家に貴斗の会社のレンタル彼氏のチラシを入れたのは俺なんだけどな」
そう呟いて夜空を見上げる。
―――俺は将来、親父の後を継ぐ。
―――これで梨生奈と一緒に働けて、梨生奈を独占できる。
―――もちろんこれは人気歌手と付き合うことに意味があるんだ。
―――一般人に戻ったら何の意味もない。
―――一般人の梨生奈を独り占めだなんてつまらない。
―――俺は一生優越感に浸っていたいから、大物の梨生奈と付き合うんだよ。
-END-
レンタル彼氏が元カレだった件 ゆーり。 @koigokoro
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