第11話 ニートなお姉さんと確認

「さて、今回招集をかけたのは他でもない」

「…………招集って言っても私だけだよ?」


 ここは家のリビング。

 俺はこの前澪がしていたのと同じような姿勢で座り、神妙な顔を浮かべテーブルを挟み向かい合っていた。

 それなりに雰囲気を出そうと思ったのだが、澪は苦笑い。

 ふむ。これは失敗か。

 ちなみにこれは「ゲン〇ウポーズ」と言うらしい。


「雰囲気作りは大事だと書いてあったのだが、これは失敗のようだな」

「どんな本かは分からないけれど……間違ってると思うよ」


 くっ。

 さらに追い打ちをかけてくるとは。

 澪も中々遠慮が無くなってきたようだ。

 しかし、この程度でめげる俺ではない。

 俺は早速本題に入ることにした。


「少し聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと? いいよぉ。お姉さんに何でも聞いちゃいなさい!」


 えっへん、とそこそこに小さい胸を張り嬉しそうな顔をする。

 澪がそう言うのであれば、俺も遠慮はしない。


「澪の外出作戦についてだ」

「そんな大仰な作戦になっていたの………?」

「先日は服を用意した。なら次にすることは髪やメイクだと俺は考えた」

「そうなのかな……? でも、それくらいなら自分でできるよ?」

「な、何だって……?」


 衝撃的だった。

 いつもぼさぼさな髪のままでいるから、てっきりそういう方面にも疎いのだと思っていた。

 いや、女性であればそれくらいできて当然ではないのだろうか?

 俺の勝手な先入観が澪に対して働いてしまったのかっ?


「そ、そんなに驚くことかなぁ。私これでも長女だからねっ。妹たちの髪とか結んであげたりしてたんだからっ!」

「そ、そうだったのか。いや、確かに考えれば想像できることだったな。俺の早とちりだ」

「ま、まあ、家にいるときは結構ずぼらかもしれないけれど。これでもちゃんと女の子ですから。……ちなみに、さっちゃんは何をしようとしてくれたの? も、もしかして、さっちゃんが私のこと変身させてくれるの!?」


 テーブルに身を乗り出して何やらすごく期待の眼差しを向けてくる。

 一体俺に何を期待しているのだろうか。

 俺がそのようなことできるはずもないというのに。


「いや、同僚に頼んで澪のメイクアップをしてもらおうと。そのため、澪に俺の同僚と会ってくれるか確認するつもりだった。ニートというのは人と会うことを極端に嫌うと聞く。澪も同じなのではないかと思ってな」


 俺がそう言うと、なぜか不満そうな顔をする。

 一体なにが 不満だと言うのか。


「そのように頬を膨らませて……何か不満な事でもあっただろうか?」

「べっつにー? 私をそこらのニートさんと一緒にするなんて、とか思ってないからっ! それに、勝手に期待した私が馬鹿みたい、なんて思ってないからねっ! ねっ!!」


 なるほど。

 これがツンデレというものなのか?

 ハッカーがツンデレというものがどれほど素晴らしいかを数時間語っていたこともあったな。

 俺には分からんが、ただ、ツンデレの言葉は逆を意味すると聞く。

 つまり澪は、そこらのニートと一緒にするなと思っていると。

 そして、何かを期待していたことが馬鹿みたいだと思っている。

 そういうことだな。

 ふむ……では、俺のすることは――――。


「澪、俺に任せろ。数日で全てを学んでくる」

「え? 何の話?」


 キョトンとして首を傾げた澪を置いて、俺は立ち上がった。

 そしてスマホを取り出しある番号に電話を掛ける。

 するとワンコールで繋がり、高い声が耳に届く。


「ああ、俺だ。少々頼みたいことがある。時間をもらえるだろうか」


 待っていろ、澪。

 俺は必ず、お前の期待を越える働きをして見せる。

 必ずだ――――。





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殺し屋君はニートな年上お姉さんを養っている。 あげは @Ageha5472

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