好きな人は。
あのあと警察がきて不審者みたいなお巡りは連れて行かれた。僕は警察に色々聞かれたけど、ゆずきが何故か付き添ってくれていたから安心して全て話せた。後日、男を連れて行った警官から電話があり、
「近所の交番勤めで、君に一目惚れして、ストーカーまがいのことをしてたらしいよ。今は反省してるけど、念のため違う場所に移ってもらうから安心してね。でも君もこういう前科ができたんだから、少しは危機感持ってね?それから…」
なんか後半はお説教食らったけど、心配はしてくれていた。
男が連れて行かれて、すぐに母さんもやってきた。忙しい忙しいと言いながらやっている仕事を放り出し、着いた途端に大事な書類が詰まったバッグを投げ出して走り寄ってきた。びぇびぇと泣きながら
「しーぢゃんが無事でよがっだよぉお…」
幼い頃の呼び名で呼び、抱きしめながらずっと頭を撫でていた。正直恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。その間もゆずきはふわふわと笑い、時折くしゃみをしてまで待っていてくれた。その時の笑顔は最高にきれいだった。
母さんが落ち着いた頃、もう外は夕闇に暮れ始めていた。烏がきゃあきゃあと喋りながら家に帰り始めていた。
「ゔぅ…ぐすっ……。ゆずっち、紫陽のこと助けてくれて本当にありがとう。今度お礼させてね。あと…こんな時に言うのはあれだと思うんだけど、紫陽と一緒に学校へ通ってくれないかしら…?今日のこともあるし本当に心配で…」
このタイミングで言う…?
確かに母さんは心配性だからそうした方が喜ぶだろう。でもこんなタイミングで言われたら誰も断れないのでは…?
半ば母さんのやり方に強引さを感じたが、ゆずきは嫌な顔ひとつせず、
「もちろんです。それに僕も今は一人で通っているので、賑やかになりそうで嬉しいです」
電車乗ってる間暇なんだよなあ、と誰に言うわけでもなく零す。
「嬉しいわ〜!本当にありがとうね、ゆずっち」
母さんが安心して胸を撫で下ろした時。
トゥルルルル…トゥルルルル…
「あらら?」
『久本さんっ!?仕事ほっぽり出してどこ行ってるのっ!大事な書類、あなたの鞄の中にあるんでしょうっ!?とっとと戻ってきてくださいな?!それからっ…、ちょっとっ、聞いてるんですか?!」
ヒステリックな甲高い女の人の声がする。母さんの上司かな…?
「ゔー、はいはい、わかりましたよぉ。今から会社向かいますってば。え?10分で戻ってこい?あはは、無理ですよぉ。……、もー、頑張って早く行きますっ。今度奢ってくださいね〜」
声音がワントーン明るくなる。面倒くさそうに、でも楽しそうに。母さん30代だしな。結構若々しいからちょっと自慢。
ぴっ。
電話が切られた音。
「ごめんね、二人とも。私、仕事に戻らないといけなくって…。紫陽、はいこれ。これで2人でご飯でも買って食べて。あ、ゆずっちは、ふみちゃんがご飯作ってるのかな」
普段母さんが遅くなる時渡されるよりも明らかに多いお札を押しつけられる。
「いえ、僕の母、今日は友達と同窓会をするそうでいないので、ちょうどよかったです。ここにきたのも夕飯にそこのハンバーガーショップのを食べようと思ってきてたので」
はにかみながら母さんの目を真っ直ぐ見つめて云う。
「そう、ならよかった。紫陽にお金渡したから2人で食べてね。また、ふみちゃんによろしく言っといてね!じゃっ、行ってきます」
「気をつけてねーっ」
一応、叫んでおく。
母さんはコートをくるくるとはためかせながら地面に落とされたバッグをすくい上げて走り去っていった。2人で母さんの背中を見つめていたが、ふと、俺はゆずきに御礼を言っていないことに気づいた。
「あ…、ゆずき、その……」
「ん?」
ゆずきの目を見たはいいが、少し照れ臭くて吃っているのをゆずきはわかってくれているようで、
「なあに?」
と柔和な表情をうかべた。
「…た、助けてくれて、ありがと。」
真っ直ぐ目を見ては言えなかったが、ちゃんと言えた。
「…ふへへ、紫陽、顔真っ赤」
白く漂う互いの息に視界が霞むが、わかる。
ゆずきは、とても、いい顔をしている。
そして僕も、りんご色に染まった、だがとても、いい顔をしている、と思う。
あたたかな沈黙が奏でられる。
ぐぅ〜…
お腹の虫が喋る。僕ではない。
「あ…っ。え、えへへ、お、お腹空いたね」
「…ハンバーガーショップ、行こうよ」
「うん。」
そのあとはジャンクな味のハンバーガーとポテトをいつもよりたくさん食べ、ゆっくりと帰路についた。なんとその時にゆずきとメールアドレスを交換できた。(僕の携帯はガラケーなのだ。だからLINEはできない。でも艶やかな黒のボディでとても気に入っている。)最後に一緒に遊んだのが小学生くらいだから、こんなことできないと思っていた。
なんだか今日は色々あったけど、とてもよかった気がする。
数ヶ月後、僕は定期を買って、ゆずきと一緒に学校へ通っていた。
僕の好きな人の好きな人は僕が好き?! かなた @osabutokanata
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕の好きな人の好きな人は僕が好き?!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
隣のささきと、斜めのささき。/かなた
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます