もっと好きになりそうなコト

さて、僕は願い通りゆずきと同じ高校に入れたのだが、一つ問題がある。それは母さんがゆずきと僕を一緒に学校へ通わせようとしている、ということだ。いや一緒に通えた方が僕自身も願ったり叶ったりだが、よくよく考えてみるとゆずきは美人さんで人当たりもいいわけだから恋仲である人間の1人や2人いるんじゃないか?というか僕のことなんて忘れてるんじゃないか?!悶々と再び悩み出そうとした時だった。


ピーンポーン


あ、誰か来たのか。母さんは仕事でいないからこういうものは必然的に僕が出なければならない。母さんは

「紫陽は可愛いんだから変な人が来た時は明けなくて良いんだからねっ!?」

とかなんとか言ってるけど、僕のことがそういう意味で好きな人間なんてそんなにいないだろう。そう思い、扉に手をかけた。


がちゃり。


「やぁ、こんにちは」


そこにはにっこりと笑ったお巡りさんが立っていた。え。どうしたんだろう。何かあったのかな。それとも何かした?どくどく脈打つ心臓をおさえる。そんなに顔には出ていないとは思っていたが、安心させるためなのかお巡りさんはベラベラと喋り始めた。

「怖がらなくても大丈夫だよ、僕。実はここら辺で不審者が彷徨いてたらしくてね。で、この家に入っていったって言う通報があったんだよ。だから少し家の中に入ってもいいかな?」

にこにことした崩さない笑顔。不審者?そんな人家には来てないけど。第一、僕の家は鍵を使ったり、インターホンを鳴らしたりして入らないと警報が鳴るんだけど…。それに扉を開けたときのガチャっていう音は少しも聞こえなかったし。

「あ…、不審者なんてきてません、よ?」

「君が匿ってるかもしれないだろう?だから念のため家に入らせて?」

ええ…。不審者匿うことなんてある?そ、それとも僕のルックス不審者みたい?それはそれでショック…。てかこの人グイグイくるな。

「いやっ、ほんとに大丈夫ですから。仮に匿ってるんなら襲ったりして来ないでしょうし」

おお、確かに。自分で納得〜。

「いやいや、一応本当に家にいないか見せてくれないかなぁ?じゃないと心配で俺帰れないよ」


がしっ


「?!」

扉、掴まれた?


『…に、○×県で、警察官が女児を迷子と偽り連れ去ろうとした事件がありました…』


警察官だから疑ってなかったけど、この人が不審者かも…?!いつかのニュースでも警察官が悪いことしたとか言ってたし!!とりあえず追い返そう!うん、それが1番いいっ!

「あっ、あのっ!他の家とかにも聞いてきたらどうですか?うちの家以外にも怪しいとことかあ…」

「いや、ここが1番怪しいんだってば!!いいから入れろや!!」はっ


あ。本性でちゃってんじゃん。

とりあえず急いで扉閉めy…


ぐいっ


「ぅあっ…!?」


力強っ…?!


「危ないなあ、紫陽くん?お兄さんびっくりしちゃうよぉ?」

なんで名前知ってるの?やばいやばいやばいやばいやばいっ…!!

腕を引っ込めようとするとぎゅっと掴まれた。

「ひっ…!や、やめっ…」

情けない。でも、怖い…っ!

「ははは、怖くないよお?さあ、いーれーてー?」

お巡りさんという仮面を被った男がいよいよ僕ごと家の中に突っ込もうと力を込めたとき。


ドンっっ


鈍い音が響いた。


「……うぐぅ、」

何かで殴打されたらしい。男は、ぐらりと体勢を崩し、重さが僕にのしかかってくる。

「っ、おもっ…たっ…!」

扉の取っ手を掴もうと片手を伸ばす。が、手は空を切って掴めない。落ちる…っ!!


パシっ


誰かが腕を掴み、ぐいと引き寄せられる。その勢いに任せて僕は暖かい胸にすっぽりとおさまった。もちろん上にかぶさっていた男は振り落とされて。

「紫陽、大丈夫っ!?」


あ。

憧れであるその人は耳にスマートフォンを押し当てる。

「…もしもし、警察ですか?今、××通りで怪しい男が友達を襲ってたんです!!早く来てください」

ぴっ

電話を切って僕を抱きしめたまま遠くを見つめる。


え、え、え?


「ゆ、ゆずき…?」


恐る恐る声に出す。

ふわり。

微笑んで君は云う。

「久しぶり、紫陽」



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