第5話 サクラコ22歳。

サクラコ薬品店は定休日を作った。

週二日お休み。

そこでサクラコは薬草採取と仕込みをする。


今まで午後はユウキが店番をやってくれた。

けどユウキはお役所に通い出した。

サクラコが店番もやるしかない。

そうしたら薬草採取が出来ない。

薬草が無かったら薬が作れない。

薬が作れなかったら売れない。

どうしよう。

サクラコが無限ループにハマってると、

ユウキが考えてくれた。


一番売り上げの少ない曜日を計算したのだ。


「この二日思い切って休め。

 薬草採取だけじゃなくて調合の仕込みも進めて、

 夜寝るようにしろ。

 それで朝営業時間を作れ。

 朝買いたいと思ってる旅人は必ずいる」


サクラコは早朝2時間だけ営業するようにした。

そうして気付いた。

商店街も朝営業してる。

パン屋も早朝営業して、

長い休憩、昼からまた営業だ。

休憩時間にパンを又焼いてる。

そんな営業をしてる店は多かった。


そっか。

みんな色々工夫してるんだ。

感心するサクラコ。

サクラコは薬草を取ってくるのと、

薬を作る事に夢中で他の事は頭に無かった。

いや。

他の事はユウキがやってくれたのだ。



ユウキは朝早く出勤して、夜遅く帰ってくる。

疲れてるカンジ。


「最初のうちだけだ。

 慣れてきたらまた店を手伝う」


そんな事言ってる。

サクラコの事は心配すんな。

ユウキ自身の事をガンバレ。


いつの間にかサクラコは22歳。

ユウキは16歳。


サクラコはそろそろ嫁に行けるか心配になる年齢だ。

本人は心配してない。

お店も有るし、まあいいじゃんと思ってる。



でもちょっと気になってる。


ユウキに見合い話が持ち込まれてる。

ユウキはご近所さんの中で出世頭なのだ。


「ユウキちゃんは無理だとは言ったのよ。

 でもどうしてもっていうからね。

 写真だけでも見てあげて」


そんなこと言って奥さんたちが写真を持ってくる。


サクラコは店番しながら写真を眺める。

そうだ。

ユウキが嫁をもらうという手が有った。

薬品店の店番をお嫁さんにしてもらえばいい。


それでサクラコはまた薬草採取と薬品調合の日々に戻れる。


「だからもう受け取るな、

 って言ったろ」


見合い写真を見せるとユウキは怒る。


「何で~。

 この娘すごい可愛いよ。

 けっこういいお店のお嬢さん」


「サクラコ、

 本気で言ってんのか?」


ユウキが真面目な顔でこっちを見てる。

だっていつかはユウキも結婚するでしょ。

あれちょっと怒ってる?

真剣な目でサクラコに近づいてくる。


「サクラコは?」


うん?


「サクラコだって結婚する年齢だ」


「ダメだよ。

 サクラコには奥さんたちも何の話も持ってこないんだ」


ユウキには成人して一カ月で100件近く話が来てる。

サクラコだって……

一件くらい有ってもいいのに。

さすがにちょっと凹む。


「オレが断った」


うん? 


「だから!

 サクラコに来てた見合い話。

 オレが断ったの」


えっ!

ええええ!

 

「何で!

 いつそんな話有ったの?!」


「お前いつも薬草採取行ってたろ。

 店番してたオレのところに奥さんたちが持ってきた」


なんですと?


「一枚も見せてもらってないよ」


「当たり前だ。

 だから、

 断ったって言ったろ」


なんですと?


「何で、

 勝手に!」


「オレが困るの!」


うん?


「そっか。

 サクラコが嫁に行っちゃったら、

 ユウキ一人で生きていけないもんね。

 でもさ……

 相談してみたら、

 一人くらいムコに来てくれる人がいるかも」


「ち……違う……

 なんか違う」


「それにもうユウキも就職したし、

 大丈夫じゃん」


「ああああ、

 もう、

 分かれよ」


サクラコはなんだか全然分かんない。


「オレはサクラコが他の男と結婚されたら、

 困るの。

 許せないの」


ユウキがヒトコトずつ区切るみたいに言う。


「だからユウキもお嫁さん貰えば、

 サクラコの婿さんと合わせて、

 お店やったら、24時間営業できるかも」


それなら大通りの店にも勝てそう。

サクラコ、ナイスアイデア。


ユウキは頭を抱える。

疲れてるのかな。

働きすぎ?


「うう、

 この調子だといつまでかかるんだ。

 でももうハッキリさせないと……」


ユウキはもう一度真剣な目でサクラコを見つめる。


「あのな、

 オレ一年くらいこの街を離れるかもしれない」


なんですと?


「聞いてない。

 聞いてないよ。

 ユウキ」


「今、言ったろ」



役人の研修期間らしい。

別の街を見て回る。

辺境の状況とか。

その土地で仕事して見分を広げる。

そうしないとこの街で一人前の役人になれないらしいの。


「だからその前にちゃんと約束したい」


なんの?

 

「オレが嫁を貰っても、

 お前が結婚しても、

 この店は二人だけだ」


ユウキ結婚したら出てっちゃうって事?

ひどい。


「違う!」


なんだよ。

アタマのいいヤツはこれだから。

ユウキだけ分かってもサクラコはわかんない。


「オレの嫁はサクラコだ。

 お前が結婚していいのはオレだけだ」


なんですと?


ユウキは顔が真っ赤だ。

目が真剣だ。

目線の位置がサクラコより高い。

高い位置からサクラコを見つめてる。


いつからサクラコより高くなっちゃったんだっけ。


ユウキの手がサクラコの肩に置かれる。

サクラコより大きい手。

その手がサクラコを引き寄せる。


ちょっとちょっと、

ユウキくん。

なにをしようとしているんだい。


「サクラコを抱きしめる」


いやいや。

サクラコは弟を女性の了承も無く、

抱き寄せるような男に育てた覚えは無いよ。


「じゃあ、

 抱きしめていいか?」


ダメ!


……あっ。

反射的に言っちゃった。

うわ。

ユウキの目が潤んでる。

泣くな、泣くな。

ついユウキを抱きしめてしまった。

サクラコの方から。


「サクラコが相手の了承も無く、

 男に抱き着くような、

 ふしだらな女だったなんて……」


なんだよ。

ユウキが同じようなコト言ってる。


「了承もらったもん。

 嫁にするって言われたもん」


「よし。

 オレも了承もらったって事だな」


ユウキもサクラコを抱きしめてくる。

サクラコも抱きしめる。


ユウキ、いつから自分がサクラコと血が繋がってないと知ってたの?


「最初から」


なんですと?


「オレ覚えてる。

 一人で森に居て心細かった。

 サクラコが来て抱き上げてくれた。

 あれからずっとサクラコが好きだった」


なんですと?

早く言えよ。



結局ユウキは一年間研修に行くことになった。

終わったらこの街で役人になる。

上司に約束してもらったらしい。


帰ってきたら結婚する。

サクラコと。


一年出かける前に、ご近所さんには婚約を告げて回った。

そうしないと見合い写真が持ち込まれ続ける。


告げて回ったのはユウキだ。

ご近所さん付き合いはユウキの担当と決まってる。

昔から。

サクラコはお店の仕込みがあるもんね。


ユウキはブツブツ言ってた。


「ひでえ。オレだけ恥ずかしいだろ」

 

サクラコに見合いの話が来てたの隠してたバツだ。

だからサクラコは気にしない。


ユウキは一年いなくなっちゃう。

淋しい。

でももう13年も一緒に暮らしてきたんだから大丈夫だ。


帰ってきたらユウキはこの街で役人をする。

サクラコも仕事をする。

ユウキにも手伝わせる。

一緒に薬品店をやるのだ。

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サクラコ薬品店の姉弟 くろねこ教授 @watari9999

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