遮蔽

@mmznhmn

本編(本作は百合SS Advent Calendar 2020 12/23日分として描き下ろしたものです)

私と彼女は生まれた時から瓜二つ。

同じ形に、同じ色、同じ大きさをもつ彼女。

私は右で、彼女は左。

海辺に佇むお屋敷で、私たち、毎日のようにお互いを見つめ続けている。


昨晩は冷え込んだねと、私からは声をかける。

昨年よりは温かいよと、彼女が微笑みを返す。

お屋敷で起きた出来事や、細やかな気候の変化など。

些末で質素なやり取りに、満月だけがそっと聞き耳を立てている。


夜が明けて、あの老人がやってきた。

日の出と共に現れて、私たちの仲を引き破る。

日の入りと共に現れて、私たちの距離を近づける。

その白髪の老人は、私たちの関係すらも操作する。


彼女はもう嫌と、弱音を零す。

私だって嫌と、憤りを漏らす。

あの老人は、一体何がしたいのか。

何もできない無力さで、つくづく己に嫌気が指す。


いつも通りのある朝に、老人はふっと姿を消した。

月に聞かせたお喋りを、お天道様にも聞かせてあげた。

その次の日も、また次の日も、次の日も。

私たちは昼夜を問わず、同じ時間を共有できる喜びを、声に出さずとも噛み締めた。


だけれども、私と彼女はだんだんと。

互いの距離は近くとも、心は疎遠を感じている。

あれだけあった会話の種が、次第に底をつき始めた。

いつもこんなにも近くにいるのに、もう何を話せばいいのか分からない。


いや、何も心配には及ばない。

しばらく待てばあの老人が。またこの部屋にやって来る。

そうしたら私と彼女の関係を、一度ずたずたに引き裂くだろう。

歪んでしまった関係は、適度な遮蔽を挟むことで、再度良好に紡がれるはず。


明日には、きっと明日こそ。


*


日が沈んできたので、わたくしは隙間の無いよう、きっちりとカーテンを閉めさせて頂きました。本日を持って当お屋敷は差し押さえとなり、わたくしは長年勤めておりました執事長を解雇。明日からは貯金を切り崩し、息子夫婦の家で隠居生活となる予定でございます。


それにしても、二十年間毎朝毎晩欠かさずに開閉していたこのカーテンとも本日でお別れになります。このフランス製の最高級ベルベット製カーテンが次に開かれるのは何ヶ月、何年後かは想像できません。ですが新しいお屋敷の持ち主様がいらっしゃるまで、このカーテンがお屋敷の物品を日焼けからしっかり遮蔽してくれると信じております。

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