第7話

 テレビ局に着いた。お兄ちゃんが地味なパーカーと帽子を深く被って、お兄ちゃんはユウヤの“付き人”という事にするとらしい。

 “スパロウ”は、国民的アイドルだけど、その中でもお兄ちゃんは“スパロウ”の中で一番人気だし進学校にも通ってるから、“スパロウ”としてのマネージャーだけじゃなくて、相原さんが単独でマネージャーをしているんだって。


 テレビ局に入り、楽屋へ向かう。楽屋に着くと、“スパロウ”と、扉の前に張り紙が貼ってあって、その扉の中を相原さんが開けてくれて、楽屋の中にお兄ちゃんと、私は入った。そこには……当たり前かもしれないけれども、“スパロウ”のメンバーのリョウさん、ヒサタカさん、コウタさんがいた。

 ……すっごいキラキラしてる!これがオーラってものなんだろうな。


「おはよう。ユウヤ!」

「……?」


 コンッ


 お兄ちゃんに、こづかれた。

 ……あ。そうか!今は私が“ユウヤ”なんだ!


「おはようございます!」

「ユウヤ?敬語?!」

「あ。いや、おはよう!」

「?。おはよう。」

「なんか、今日挙動不審じゃね?」

「え?自信キャラから情緒不安定キャラにキャラ変ですか?」


 なんて返答したらいいのかわからないよ!

 まず、私はお兄ちゃんじゃないから変に話してバレちゃうの怖いし。そもそも小学生から引きこもってるから、、人との普通の会話なんてわからない。


 すると、お兄ちゃんが私の後ろにくっついてきた。そしてまるで腹話術の様にメンバーの皆と話しだした。……そうか!皆マスクしてるから、それなら違和感ない!流石、お兄ちゃん!

 

 メイクさんにメイクをじてもらって、衣装に着替えて、マイクを付けられた。すると、お兄ちゃんが携帯を見せてきて、そこには『毎回マイクの電源を確認して切ること。このままトイレ行くぞ。』と、打ち込まれていた。言われた通りにマイクの電源をオフにしてトイレへ向かう。お兄ちゃんがコソッと「男子トイレな。」と、言ってきた。……そうだよね。今、私は“ユウヤ”なんだもん。


 トイレに着くと、お兄ちゃんが先に歩いて、個室にふたりで入った。


「ここまでなんとかなったな。今日の曲は“ススメ!”。」

「あ、この曲すっごい好き!」

「バラード系だから、ダンスの振り付けはあるけど、立ち回りがそんなないから前にカラオケで練習して通りにやればいい。フリ覚えてるか?」

「うん。」

「多分、カメラワークチェックがこの後入るから。」

「カメラワーク?」

「リハーサルみたいなものかな。」

「リハーサル。」

「大丈夫!絶対上手くいく!」

「うん!」


 そのままトイレから出て、一度楽屋に戻り、メンバー全員でスタジオへ向かった。他の出演者の人達はまだ来ていなくて。

 するとお兄ちゃんが、コソッと話しかけてきた。

「俺達“スパロウ”は確かに人気だけど、業界じゃ年下だし、『初心を忘れるべからず』って、どの現場でも誰よりも早く入って、スタッフさんや出演者の人達全員へ挨拶をするって、メンバー全員で徹底してるんだ。」


 ……偉いなぁ。


「小さな気配りと、謙虚さが、この業界では本当に大切だから、な。」


 そして、カメラワークリハーサルが始まる。立ち方や、マイクの音声チェック。カメラ目線のポイント等をディレクターさんやスタッフさんに確認されている時だった。


「ユウヤさん?今日体調悪いですか?」


と、音声さんが私に声を掛けてきた。スタジオ内の人達が一斉に私を見る。


 大丈夫!絶対上手く行くんだもん!


「だ……大丈夫です。」

「すみません。今からちゃんとしますか。」

「?!」


 その時、私の声を遮ったのは……お兄ちゃんだった。


「ユウヤが……ふたり?!」


 スタジオ中がざわめく。


「お兄ちゃん?!……どうして?」

「俺だってプロだ。素人に歌わせるわけ無いだろ?証人がこれだけいる。もう、充分さ。」


 お兄ちゃんが、ニヤッと笑った。


ーーーーーー


 その後、とお兄ちゃんはそのままカメラワークチェックをして一発OK。楽屋に戻り、お兄ちゃんと私は衣装を交換して、私は本番中も相原さんにピッタリくっついていた。お兄ちゃんに言われたとおり、帽子と眼鏡をかけて現場で見学。生放送だから観に来ていたお客さんの中には、私に気づいている人か何人かいて、

「なんかあの人、ユウヤに似てない?」

「てか、ユウヤじゃない?」

「ユウヤって一人っ子だよね?え?ドッペルゲンガー?」

「そっくりさんじゃない?」

って、声がコソコソと聴こえてきた。


 胸が痛い。お兄ちゃん……どうして?

 上手くいくんじゃなかったの?

 本当に上手く行ってたの?

 確かに私は、“ユウヤ”じゃないし、素人。

『素人に歌わせるわけないだろ?』って、お兄ちゃんの言葉が頭の中でループする。

 じゃあ、なんで動画配信させてたの?

 やっぱり私、ファンの人達の事、騙して……嘘ついてたってこと?


 悶々としていると、“スパロウ”の歌が始まった。……圧巻だった。皆キラキラしているだけじゃない。歌が心に刺さる。これが、プロなんだって。本物なんだって伝わってくる。

 私は気は気がついたら泣いていた。

 スタジオ中も息を飲んで、他にも泣いている人が何人もいた。


ーーーーーーー


「マコトー。緊張しすぎ。」

「だって。」

「カンペあるんだから……リラックスー。」


 お兄ちゃんがカメラをセットしている。

 今日は、動画配信日。

 でも、今日は、お兄ちゃんの部屋じゃなくて、私の部屋。カーテンは開けられ部屋が明るい。小学生の時の部屋のまま。おじいちゃんとおばあちゃんからもらった時計も……時間は変わらないまま。


 あの収録の日。SNSで、やっぱり私の事が話題となり、三日後にお兄ちゃんと相原さんが記者会見をした。You Tubeでもテレビでも生放送された記者会見。再生回数も視聴率も凄くて。内容は、動画配信の入れ替わりの事や、私が双子ので小学生から引きこもりたったって事。そして……。


ーーーーーーー


「カメラ回すぞー。」


 カメラが回る。

 私は、カンペをチラッと見ながらも出来るだけカメラを見て話した。


「あらためまして。はじめまして。マコトです。」


 そう。今日から私の歌の動画配信が始まる。

 

 お兄ちゃんが、ピアスを見せてきてニカッと笑った。


『絶対、上手くいく。』

 

 カメラ越しに口パクで言ってきた。


 ずっと引きこもっていた。

 でも、私の部屋の中だけど、世界に出ている。

 これから、私の物語が始まるんだ。



ーーーFinーーー


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背中合わせの君へ あやえる @ayael

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