第6話
日曜日。お兄ちゃんはアイドルだけれども、現役高校生。進学校だし!出来るだけ学業を優先させる為に、お仕事は土日にビッシリと埋まっていた。
……本当にお兄ちゃんは凄いなぁ。ハードスケジュールだし、全部笑顔でこなしてるし。私なんてずっと引きこもってるから、お兄ちゃんの動画配信だけでただ歌ってるだけなのに心身共にクタクタになっちゃうのに。
そんな私が、今日からお兄ちゃんと入れ替わって“ユウヤ”になる。
本当に大丈夫なのかな?
ーーーーーー
家の前に車が止まった。
私は、お兄ちゃんはお揃いの服を着ていた。これはお兄ちゃんの作戦で、現場で何かあったら直ぐに入れ替わってフォロー出来る様にする為……らしい。そんな漫画やスパイ映画みたいな事、うまく行くのかな?
お兄ちゃんに指示されたとおり、私はお兄ちゃんより先に家の裏口から車に向かった。車をノックすると、若くて少し色黒の彫りの深い整った顔立ちの背の高いスーツの男の人が出てきた。あれ?もしかして“スパロウ”レベル……むしろそれ以上にカッコイイのでは?
「君がマコトちゃん?本当にユウヤ、そのまんまじゃないか!」
「双子ですから……。は、はじめまして。」
「私はマネージャーの相原と申します。」
「相原さん。」
「話は、ユウヤから聞いてるよ。」
「相原さん!本当にごめんなさい!」
「え?」
「本当は、こんな事、駄目なんです!ファンの人達の事、騙してるし……。
わかってるんです。私なんてずっといてもいなくて変わらない存在というか、むしろ家族からも隠されて、私自身も隠れてて……私は、何も考えてなかつたけど、自分の意思でお兄ちゃんに協力してました。
でも、相原さん。相原さんは、お兄ちゃんに脅迫されてるんですよね?」
すると相原さんは吹き出した。
「はははっ。双子なのに性格は本当に真逆なんですね。マコトさん、安心して下さい。僕も最初は驚いたし、勘弁してくれ、と悩みましたよ。でもね、これこそエンターテインメント。逆に本当に面白いかもなって。」
「相原さん。」
「一度乗りかけた船……。いや、思いっきり乗った船です。行ける所まで冒険してみようじゃないですか!」
相原さんも凄い人だなぁ。
お兄ちゃんの周りの人も凄い人ばかりなんだ。
家の玄関が開き、「隠れて。」と、相原さんに言われて、私は車の後部座席に隠れた。車の外からお母さんとお兄ちゃんの話し声が聴こえて、車の窓が開けられて、相原さんとお母さんが軽く挨拶をしている。
本当にスパイ映画みたい……。
「じゃあ、いってきまーす。」
「いってらっしゃーい。」
お兄ちゃんが、助手席に乗って車は動き出した。暫く車が進んでから、お兄ちゃんが助手席から後部座席に身を乗り出して私の頭わワシャワシャと撫でてきた。
「マコト!相原さん!上手く行ったな!」
お兄ちゃんは相原さんと片手同士でハイタッチしてふたりで声を出して笑っていた。
「まさか、本当にユウヤが双子で……でも全然マコトちゃんの方が常識的で可愛いですね。」
「マコトは可愛いんだよ。なんせ俺達双子だし、さらに俺の妹だからな。」
「ユウヤはかなり強引な所がありますからね。マコトさんも苦労したんじゃないんですか?」
「いえ。私は引きこもりだったので。」
すると、お兄ちゃんがクスッと笑った。
「引きこもり……“だった”。」
「あ……今もメンタル的にも物理的にも引きこもりです。」
「じゃあ……出てこいよ。小学生の頃から引きこもってたんだ。今から世の中を驚かしてやろうぜ。」
相原さんが吹き出して笑った。
「本当にユウヤは、強引だけど面白い。マコトさん。私もマコトさんの歌を聴きました。本当にユウヤより声が少し高いくらいなのに、何故か心を掴む声。僕は素人ですが、素人の僕でもわかる。貴方の声は……正しく神様からのプレゼントだと思いますよ。」
また、人からほめられた。
でも、今は“ユウヤ”としてじゃなくて、“マコト”としてほめて……私、認められたんだ!なんだか、何でも上手くいく。今なら何でも出来そうな感じがした。
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