第5話

バンッ!


 お兄ちゃんが嬉しそうに部屋に入ってきた。


「マコト!遂に来たぞ!」

「遂に?」

「マコトの……デビューだよ!」

「え?!」


 私が……デビュー?なんの?

 

「ずっと動画配信をマコトがしてただろ?」

「うん。」

「……実はさ、俺ずっと作戦してたんだ。」

「作戦?」

「そ!ヒントは……ピアス。」


 お兄ちゃんがニカッと笑って、自分の左耳のお揃いのピアスを見せてきた。


「SNSでもわざと匂わせたんだ。」

「匂わせ?」

「同じ顔。似た声。で、動画だとピアスの位置が逆。つまり、この“ユウヤ”は、“ユウヤ”じゃないのかもしれないって!」

「そんな事して大丈夫だったの?!」

「まあ……良くはないと思うよ。でも国民的アイドルは、実は双子で、小学生の頃からの引きこもりの妹がいて……。歌の才能のある兄以上の歌の才能がある……なんてさ!映画とかみたいな話でワクワクしないか?話題性充分!」

「……お兄ちゃんは、そんな事してどうしたいの?」

「もっと……有名じゃなくて、なんか伝説というか……そういうのになりたい!単なる時の人物で、俺は終わりたくない。」

「そのお兄ちゃんの願望の為に……私は利用されてる?」


 お兄ちゃんは、私を見て肩を掴んできた。

 

「利用?馬鹿!そんなんじゃない!俺は……生まれて物心ついた時から、ずっと。」

「ずっと?」


 お兄ちゃんは、私を苦しい位の力で、抱き締めてきた。


「なんでもない。」

「……お兄ちゃん?」

「でも、まだ面白くしたいんだ。」

「面白く?」

「そう。世間は今、俺達に気が付いてきている。だから……明日から、マコト。お前は俺とたまに入れ替わって“ユウヤ”になるんだ!」

「む……無理だよ!」

「無理じゃない!今まで、カラオケで“スパロウ”の歌やダンスも練習したろ?」

「まさか……この為に?!」

「その……まさかさ!明日、音楽番組の生放送がある。実は、マネージャーにだけこの事は話してあるんだ。味方やサポートもバッチリ!」

「マネージャーさん怒らなかったの?」

「怒れないだろ?自分の商品管理出来てなかったんだから。仕事失いたく無いなら協力しろって話してある。」

「それ、脅しというか脅迫じゃん!……なんか、マネージャーさん可哀想。」

「でも、これが成功したらそれこそマネージャーも伝説だぜ?」

「……いいのかな?」

「絶対……大丈夫。俺を信じて。」

「信じる?」

「俺のマコトへの想いも……。俺達が入れ替わる事も。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る