第4話
相変わらず私は引きこもっている。
でも、お兄ちゃんが学校もお仕事もお休みの日だけコッソリとカラオケでの特訓。
実は、私の初恋の相手は、お兄ちゃんだった。双子だけど、性格は真逆で、いつもお兄ちゃんの後ろに隠れてた。
「マコト。今日俺、動画配信なんだよ。」
「うん。知ってる。」
人気アイドル“スパロウ”。毎週日曜日に、メンバーが交代で各自の得意分野ライブ配信を行っている。
例えば、リーダーのリョウさんは、アニメヲタク配信。
お洒落担当のヒサタカさんはファッション配信。
俳優業に力を入れているコウタさんは、撮影の裏側トーク配信。
お兄ちゃんのユウヤは、歌の配信。
いつも自分の部屋か、カラオケから配信していた。
「今はな、iPhoneひとつで編集も投稿も出来るんだ。」
「へぇ……。」
「マコト。今日は、俺の代わりに歌ってみろ!」
「は?!」
「大丈夫!俺達、双子だろ!確かに少しだけお前の方が、声も高いけど大丈夫!」
「でもそれって……ファンの人騙す事にならないかな?」
「俺のファンだ!それに……俺の天才的才能と同じ遺伝子!むしろ聴けた人はラッキーなくらいだぜ!」
お兄ちゃんがケタケタ笑った。
本当は、嫌だった。引きこもりだし……でも、お兄ちゃんの事、好きなんだもん。断れないよ。
こっそりとお兄ちゃんの部屋に行った。
……これが、男の部屋?そういえばお兄ちゃんの部屋も小学生の頃から入ってなかった。
「お洒落……だね。」
「え?」
「部屋。」
「シンプルでモノトーンにまとめてんだ。学校とアイドル活動でそもそも家にあんまり居られないし、動画配信でも使うからさ。」
「そうなんだ。」
なんでだろう。ちょっと……ドキドキする。
お兄ちゃんがカメラをガチャガチャと準備して、紙を渡してきた。
「この紙のセリフのと通りに喋って。歌は歌詞書いてあるから。」
「……わかった。」
「あっ……。」
「?」
お兄ちゃんが私の右耳に触れてきた。
……くすぐったい。
「……お守り。」
「え?」
お兄ちゃんはそういうと、右耳のピアスがわざと見える様に私の髪の毛を右耳に掛けてきた。
「俺、マコトの事見てるから。絶対、大丈夫だから。」
緊張……なのかな。それともお兄ちゃんに、こんなことされたからなのかな?
なんか、ドキドキする。
「マコト。じゃあ、行くぞ?」
「うん。」
カメラが回されて、動画配信が始まった。
ーーーーーー
動画が撮り終わった。
お兄ちゃんがカメラを止めて、私を見て微笑んできた。
「マコト?」
「?」
「控えめに言って……最高!」
「なにそれ?最高って……控えめじゃないじゃん。」
思わず笑ってしまった。すると、お兄ちゃんが、目を見開いて私を見つめて近付いてきた。
「やっと、笑ったな。」
「え?」
「マコト、小学生の時から同じ家の中に居るのに会えてなかったし。」
「……ごめんなさい。」
「いや。父さんも母さんも……あんな感じだっじゃん?仕方ないよ。」
「……。」
「クイズです!」
「クイズ?」
「そ!人気アイドルグループ“スパロウ”の“ユウヤ”は、実はノンスキャンダルでーす!匂わせもありませーん!」
「はあ。」
「なんでだと思う?」
「……アイドルだから?ファンの為に?忙しくて恋する時間もないとか?」
「……はずれー。」
「じゃあ、なんで?」
すると、お兄ちゃんが私の頬に触れてきて……キスをされた。
「正解は、俺がずっと……マコトの事、好きだったからだよ。」
「え?」
「ずっと側にいた。同じ顔、同じ声。いつもマコトは俺の後ろに居て、俺の事大好きでさ、可愛くて仕方なかった。……あと、お前のその声。同じ声なのにさ、やっぱりなんかお前の声って……心を掴むというか。」
「お兄ちゃん……。」
「なーんてな!」
「え?」
「んなわけないじゃん!兄妹だぜ?」
「……ちょ!」
じゃあ、なんで今キスとかしたの?
私は、お兄ちゃんの事好きなのに……。
「マコト。これ見てみ?」
私がモヤモヤしてると、人の気持ちも知らないで、お兄ちゃんが、iPhoneを開いて動画配信のコメント欄を見せてきた。
『なんか今日のユウヤ、いつも違う感じしたけど凄い良かった!』
『やっぱりユウヤは見た目も声も天使!神様からの地上へのプレゼントですね!』
『本当に最高!』
……これって。
「やっぱり。マコトは最高なんだよ。」
「でも……私はお兄ちゃんじゃない。」
「そうだな。でも、それが俺にはありがたいよ。」
「お兄ちゃん?」
「今はまだ、この事は俺達だけの秘密だぞ?」
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