第4話 アズマ篇:追放されし破戒僧

「あなたの行いは神の目に余ります。よって破門とし、この法国から追放とします」


「ご、ご無体な!お待ちくだされ、聖女様!!」


 〈ワシ〉の悲痛な叫びもむなしく、聖女様の側近によって、ワシは大聖堂より追い出されてしまった。


 ゴロゴロと転がるワシを見て、周りの人々が騒然としている。


「……アズマさん、また聖女様を怒らせたのかい?」

「懲りないねえ。あんた、今度は誰にちょっかい出したのさ?」


「……覚えがないんだ。それが」


「そんだけの人を抱いたってことかい……」


 野次馬の老人がため息をつく。


〈ワシ〉ことアズマは、最近になって田舎から出てきた僧侶であった。

 好きなものは女。あと美少年。腹のくびれがあり、若干筋肉質だとなお良し。


 ワシは元々孤児で、生まれ故郷の孤児院を営む僧正様に拾われた。


 その人は根はいい人だったが、大の色狂いであった。何せ、村の女はみな僧正様と寝たことがあるともっぱらの噂だったからな。


 そんな人の下で育ち、ワシも人を愛することに関してはあの人に負けんくらいに成長した、と自負している。


 実際、ワシの説法で争いを治めたことも一度や二度ではない。恋人同士の喧嘩などは、両方と「話し合い」をして和解させたことなど、それこそ星の数。


 てっきり、そんなワシの実績をたたえて、聖女様はワシを大聖堂へと招いてくだすったと思っていたのだが。


「何がいかんかったのか。やはり、聖女様に毎日「求愛」していたのが悪かったのか?」


「そんなことしてたのかい!?」


 ワシの呟きに、ご婦人がツッコむ。このご婦人、年齢は60くらいだろうが、ワシはこの方も抱いたことがある。あの時は、確か引きこもりの息子の相談を受けた時だったな。

 息子も抱いてやり、今では立派に仕事をしている。確か武器屋だったな。


「……うーむ。しかし、破門となってしまった以上は仕方ないか。この国からも追放とされてしまったことだし」


「どうするんだい、アズマさん。これから」


「王国でも行こうかのう。共和国は貴族が横行しているらしいし、魔王と戦争中の勇者とやらでも労ってやろうじゃないか!」


「……いいの?それ。勇者ってうちの聖女様が任命した人だから、破門した人が勝手に手を出しちゃまずいんじゃ……」


「なに、友達になるのに信仰は関係ない!裸一貫でぶつかれば、みな友人よ!!」


「比喩じゃないんだよなあ、この人の場合……」


 ワシの言葉に、人々は呆れたような声を出す。だが、ワシはそんなことは特に気にもしなかった。


 とはいえ。いきなり放り出されてしまったし、王国に行くにも旅支度をせねばなるまい。


「王国に行くなら、なんか持ってくかい?装備があるよ」


 武器屋のおじさんが、ワシにそう言ってきた。


「いいのか?」


「いい従業員を紹介してもらったしね」

「それなら、うちで薬草買ってくと良いよ。安くしとくから」

「じゃあ、うちの弁当持っていきなよ!」


「みんな……」


 ワシは思わず涙ぐむ。


「でも、もう帰って来ないでくれよ!娘に手出されるのはさすがに……」

「俺の息子もイケメンだからよ、アンタに喰われないか心配なんだわ!!」

「アンタとしたことは忘れないよ!忘れたいけど!!」


「みんな……!!」


 違う意味で涙が出てきた。


 こうして、ワシは大聖堂のある町の人からも背中を押されて、王国へと旅立つこととなってしまったのだ。


***************************


 町の人からの支援もあり、旅立って1週間は特に問題もなく進むことができた。


 だが、問題はすぐに訪れた。


 路銀が尽きたのだ。


「うーーーーーーーーーむ……」


 ワシは安宿で、頭をひねりながら手持ちの金を数えていた。


「金貨1枚……これで、王国に行ったとて、それからどうするか……」


 最初に用意していた金は金貨20枚。それが1週間でどう使ってしまったのかと言うと、主に食費だった。


「金はあるからと豪勢に食ったのがまずかったか……勢いで店の女も買ってしまったしのう」


 それを1日3食分。金などいくらあっても足りなくなるわけだ。


「先は長いし、何らかの方法で稼ぐしかないか」


 ワシはそう言うと立ち上がり、旅先の町へと歩き出た。


 ちょうど夕方ごろで、冒険帰りの冒険者たちと、それを待ち構える娼婦たちが多い。ここは法国の外れにある歓楽街だった。


「一度は行ってみたいと思ってきてみたが、その前に路銀が尽きるとは……」


 ワシは溜息をつく。こうなれば、ワシも冒険者として金を稼ぐか?


 ワシは29歳。仕事など探せば何とかなるはずだ。


 そう思い、歓楽街を歩く。


「おじさん、よかったらうちの店で遊んでかない?」

「お安くしておくわよぉ」


 などと、端々から声がするが、ワシはそれをあえて無視した。


 今からでは仕事を探そうにも、紹介所が空いていないだろう。


 となると、すぐに金を増やす方法は一つしかない。


 ワシは歓楽街で一番大きな賭場へと足を運んだ。


「お一人様ですか?」

「うむ。こいつをチップに変えてくれ」


 ワシはそう言い、金貨を受付に渡す。


「……かしこまりました」


 そしてチップを受け取る。その数は10枚。


「これっぽっちか?」

「当店のオッズではそのようになっております」


「ふーん。ま、ええわ」


 ワシは10枚のチップを片手に、揚々と賭場の中へと入っていった。


 そしてそれからものの半刻ほど。


 ワシは片手からこぼれんばかりのチップを手に、受付へと戻ってきた。


「換金を頼む」

「……か、かしこまりました」


 ワシがやったことはなんてことはない。小さく小さく、勝ちを重ねただけの事。


 賭場という商売は、大きく儲けようとする者ほど網に絡まるようになっている。


 網をすり抜けるほどの小魚など、意にも介さないのだ。


 単純に、その見極めがうまくいっただけの事である。


 換金されておおよそ10倍となった金貨を懐にしまい、ワシは腹をぽんと叩く。


「運がよかったの。また金がなくなったらやってみるか」


 そう言い、宿へと戻ろうとした時だった。


「……そこのおじさま、ちょっとよろしいかしら?」


 ワシを呼ぶ声がしたので振り向くと。


 そこには、大層美しい女がいるではないか。


 金髪で青い瞳、そしてドレスによって胸の谷間が強調されている、非常に豊満な身体。


「……なんじゃ?」

「とってもお強いのですね。私、感動してしまいましたわ」

「強いわけじゃない。ずる賢い、というのだ。こういうのは」


 女は一息にワシに駆け寄ると、腕に抱き着いてくる。


 柔らかい胸を押し当て、上目遣いで見つめてくるではないか。


「……あなたの運、おすそ分けしてほしいわ?」


 つまりは、そう言うことか。


「……なるほど、の」


 ワシは笑みを浮かべ、彼女の肩を抱いた。そしてそのまま、ワシの宿へと二人歩いていく。


***************************


 はっきり言って、侮っていた。


 若い娘であり、そうそう負けることはないと思っていたのだが。


 結果から言えば、ワシは負け越した。だが、それもまた最高であった。


 全裸で息を荒げながら、ワシは同じく裸の彼女を抱き寄せている。


「……随分と、経験があるようだな」

「こういうこと、好きなのよ。お姉ちゃんは嫌いなんだけど」

「姉が、おるのか?」


「ええ。お父さんに似て堅物なお姉ちゃん」


 彼女はワシから離れると、そのまま立ち上がった。その美しい身体を隠す様子もなく、椅子に座る。


「……おじさま、お名前は?」


「ワシか?ワシは……アズマという。ただの旅人よ。……お前は?」


「私?私はね、キュールっていうの」


 キュール、という女は自分の飲んだ水をワシに差し出した。ワシもそれを受け取り、口をつけて飲む。


「ねえ、アズマさんって、どこに向かっているの?」

「特に行く当てはない。だが、王国に行こうかと思っておるんだ」

「どうして?」


「王国にいるという勇者が美少年らしい。ぜひとも会ってみたくてな」


「……アズマさんって、そっちも行けるの?」

「……引いたか?」

「まさか。私も可愛い女の子は好きだもの。同じことでしょ?」


 そしてキュールは再びワシの上に乗る。


「……でね、もしよかったらなんだけど。私のところに来ない?」

「お前のところに?」


「私のパパがね、すっごく強い人を探しているの。アズマさん、もしかしなくても強いでしょ?」


 キュールがワシの胸を指で撫でながら、甘えるように言う。


「……そ・れ・に。一緒に来てくれたら、もっといっぱい「シて」あげるけど……どう?」


「行く」


 ワシはかつてない決め顔でそう言った。こんないい女を何度も抱けるなど、勇者を抱こうなどと考えている場合ではない。


「本当!?ありがとう!!アズマさん大好き!!」


 キュールはそう言って、ワシに抱き着いてくる。


「……それで、ワシは一体何をすればいいんだ?そこで」


 ワシの問いに、キュールは小悪魔のような笑みを浮かべた。


「それはね……【ある敵】と戦ってほしいの」


 その意味を考える前に、ワシは彼女の身体に溺れていった。

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鋼神ラグナー ~国を追放された俺たち3人は、巨大ロボで無双する!ロボが欲しいから戻ってこい?「「「もう遅え!」」」~ ヤマタケ @yamadakeitaro

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