第10話 いつものエピソード

 天空の城、ロココ調の上司の部屋。

 

 傾聴けいちょうにやや忍耐が足りないエミリーはお説教と復習の講義を受けたのち、ミルクティーとチロルチョコの組み合わせを上司から頂いていた。


 そして、冗談めかした口調でオカマ《オネエ》属性の上司は一人ごちる。

「エミリーとはかなり長い付き合いになるけど、あんたが母に憧れていたとは意外だったわと…」


 そういう上司はどうなんだというエミリーの心の声に、「そうね。あたしもお母さんに慣れるのならなりたかった」としんみりとした口調で上司は答える。


 もうエミリーはツッコミはしないと心に誓い、「あら?つまらない子ねぇ」という残念な上司の声を無視して、入道雲が大きく、親子を包む影となったその下で無言で抱きしめあって、お互いの素直になれない気持ちを伝えあっている田所親子を想像した。


 そして、あたしで良かったら、いつでもハグするわよとウィンクする上司には答えず、何かのぬいぐるみでも城下町で買ってかえって人のかわりにハグしょうとエミリーは決意を固めた。


 そんなエミリーに上司は、よってたときに人間界のUFOキャッチャーで、とった猫のぬいぐるみをどこから取り出し手渡す。


 上半身が埋まるもふもふとした感覚に癒されているうちに、エミリーの疲れも溶けてきた。


 「いつも、私の神通力で、自宅まで送っていると癖になるから、今日はこのぬいぐるみを持って自力で帰宅しなさい。はぃっ。もうおしまいっ」と上司は慈愛に満ちたエンジェルスマイルで答える。


 エミリーも素直に席を立ち、一礼をして、部屋を出た。抱いたぬいぐるみが少し恥ずかしいなぁと考えながら家路をめざす。


               おしまい

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死神が入道雲を抱きしめたい 紗里菜 @sarina03

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