第9話 不安とためらい
運ばれたコーヒーが完全に冷えきる頃、唐突に、
「
不安で黒目が小さくなる瞳を優しく見つめながら「どうしたのでしょうか?とはなんでしょうか?」とオウム返しに返す。
「良子のことは精神不安定になって、沢山傷つけました。夫としては駄目なところもございますが、あの人の方が、佳子のことを理解してると思います」と不安で瞬く瞳は答える。
それでも会いたがっているんですと告げることすら守秘事項に反してしまうから、エミリーは信頼できるようなぱりっとした表情を作り、田所さんを見つめる。
そうして、田所さんは自己と対峙して「それでも会いたいです」という答えを自ら導きだす。
「それでも会いたいですよね。気を悪くしたら申し訳ありませんが、その気持ちこそ大切だと思います」とエミリーは笑顔を作り答える。
勿論、上司からはその発言が、傾聴失敗のあんたの欠点なのよという
反省しているエミリーに気づかず、田所さんは「あの、エミリーさんも私と同じ
「はい。います」とエミリーは答える。
親のすすめた政略結婚で、嫁ぎ先で愛されなかった責任と自殺した責任、しかもエミリーが
ともかく姑も傷つけた汚れた肉体で、悲劇のヒロイン演じて自死したエミリーの罪が嫁ぎ先の没落をうみ、更に不幸にし、実家の両親にも迷惑をかけてしまった。
それでも、エミリーは両親に愛されていたかった--。許されたかった。
複雑な表情がエミリーの瞳によぎるのをみて、田所さんもなにかを感じとったようだ。
そして、冷えきったコーヒーをみて、時間経過に気づき、不安になったようで慌てる。
エミリーは落ち着いた笑顔を作り、「多めに時間はとってあるので、大丈夫ですよ。もし、まだ心の準備ができてないようでしたら、もう少しお時間とれますよ?」と返す。
なにかを決意した田所さんは「もう行きます」と凛とした瞳で答える。
決意が揺るがないうちに「了解しました」とエミリーは席を立ち、店主には前もって会計は上司が払うと打ち合わせしてあったので、席を立ち、店を出る。
一口しか口をつけなかったけど、ご馳走さまでしたの言葉を添え。
そして、田所さんの素直に娘さん《よしこ》には言えないであろう愛おしい気持ちを聴きながら天空城をめざし、3Dルームの天使に引き渡す。
あとは、エミリーより器用なエンジュルスマイルが田所さんの気持ちを和ませてくれるから大丈夫とエミリーは思った。
ともかく、入道雲が久しぶりに東京で見えた夏の日から止まったままの娘さん《よしこ》の時計が夢で会うことで少しは動くようになることをエミリーは祈った。
お互いに意地をはらず、夢のなかで、言葉はなくってもいいから抱きしめていてくれることを心から願った。
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