第8話 諄々《じゅんじゅん》と説く

 

 緊張感をほぐすために、その翌日の午後、田所佳子たどころけいこさんと面会するため、天空の城の城下町にあるカフェへエミリーは急いだ。


 ちなみに、天界には夜がないので、人間界の日本時間を上司が計算して、エミリーと話したり、3Dルームの担当天使が、最終確認&注意事項を確認する時間を逆算したこの時間が便宜上べんぎじょう午後と言われている。


 とりあえず、待ち合わせの10分前にエミリーはつくように行動していたが、既に目線が泳いでて、キョロキョロおちつきがない地味なスーツを着こんだ女性が待つていた。


 何回かエミリーが引率した経験だと、前向きに参加しょうとする場合は、お洒落をしたり、ドキドキやウキウキの上の空系の落ち着きのなさに繋がるので、田所さんの不安な様子は伝わってきた。


 エミリーは口角をあげて作り笑顔と深呼吸をひとつして、なるべく低い落ち着いた声で、安心してもらえるように話しかける。


「恐れ入りますが、田所佳子さんで間違いありませんか?」と。


 やはり、相手は緊張しているのかうわずる声で「はいっ」とうなづく。


 まずは店内に入りましょうか?と声をかけてお店に入る。


 コーヒーを二人分頼んで、スーツのスカートをつまんで、俯いている田所さんが話し出す機会を待つ。


 その間に、想定済みの上司に向かっても、傾聴けいちょうがうまくいかなかった場合のヘルプをテレパシーで、やや早口なペースで、頼み、私こそ落ち着こうとエミリーは考える。


 何しろ沈黙は相手が自己対話して、自分を見つめている時間なので、けっして声をかけずエミリーは待っていることしかできない。


 とりあえず目の前の覚めてくコーヒーも諦めつつ、相手が話しかけやすい柔らかな笑顔で、観察し続けないといけない。


 時間も田所さんには絶対に教えないけど、3Dルームの天使には時間を巻き戻す能力があるから多少なら大丈夫だし、ずっと田所さんが意地をはって会わない場合、損するのは田所さんと娘さんだから、エミリーは焦るつもりはない。


 可哀想だと思うけど、ここはビジネステイクに徹して、お給料だけ貰わないと仕事で自分エミリーの方がつぶれてしまう。


 見た目は娘さんより子供っぽいエミリーでも死神時間は田所さんより勝っているので、気持ちだけでも諄々じゅんじゅんと説く、いや耳と目と心で傾聴けいちょうさせて貰うつもりでいる。


 まずはエミリーと同じ自死を選んだ田所さんに興味を持つこと、母親という立場だからかお互いに傷つけあった関係なのに、しのごを言わず会いたがっている娘さん(これは守秘事項だから本人には告げない。)のことに興味を持とうと優しい雰囲気を維持しながらエミリーは考える。



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