第9話 エピローグ〜手紙〜




老婆と入れ違いで、小太りの男と村人が数人やってくる。


「これは王宮兵士団の遅れが招いた。言わば、そちら側の不手際ですぞ。王宮騎士団長が魔女を逃したのですから、もちろん王宮の責任問題。そちらで魔女を殺していただかないと納得がいきませんな」


太々ふてぶてしく、村のおさなる者は語る。


「私達の到着を待たずして、ギルドに頼んで安く済まそうとしたのは、貴方の判断でしょう」


私も引くわけにはいかない。こんな、寒さ極まる晦の日に、わざわざ出向いているのだ。感謝されるならまだしも、王宮を侮辱までするとは言語道断。


「べレム候がとっくの昔から納税をちょろまかしてるのを見過ごしてきましたが、、、分かりました。そこまで、責任を取れとおっしゃるなら、村人全員を王宮で養いましょう。そうすれば、今年の冬は皆が食いつなげよう」


「ふざけるな。そんなの私に不利益しか残らんではないか!」


「農民の皆が助かる。これ以上の利益が何処にありましょうか」


「そんな下らん戯言を言っとらんで、調査のひとつでもしたらどうかね」


「戯言だと思うなら、やってみますかな」


鋭い眼光が村長むらおさを睨め付ける。


「ふん。今回の事は大目に見てやる。お前達、何を見ておる。そんな目で見れる身分では無かろう。早く働け、このクズどもが!」


現地調査を終え、村人が瓦礫の撤去を行っている。村長の言いつけで金目の物は持ち帰る寸法だろ。村長は金目の物がないと分かると、村人に仕事を投げつけ、言いたい放題喚いた挙句、さっさと切り上げていった。



夜が迫っていた、私も一度、引き上げようとすると村人に呼び止められ、一通の手紙を渡される。差出人は時の魔女。宛名には王宮騎士団長と記されている。焼け焦げて読めない箇所があるものの、不思議と私の目から涙が溢れてきた。


私はもう一度、手紙を読み直した。

夕焼けの綺麗な唐紅の空だった。


私は焼け焦げた紙の束をクシャッと握りつぶし、ポケットに無理やりねじ込み、森の方へと歩き出した。


そんな私に、村人は不安そうに異議を唱えた。


「騎士様、もうすぐ暮れるます。ウチの村さ救ってくださるのは嬉しいが、命を粗末にするもんじゃねぇ。魔女は逃げたばっかだ、気が立ってる。今日はやめといた方がいい」


私は村人を直視する。

「魔女なんて居ませんよ。私は大切な人に会いに行くのです。そう思って下さい。なぁに、交渉するだけです。一戦交えようなんて思ってもいませんよ。」


そう告げて、私は森の奥へと向かって歩いた。

気づけば、山が夜を招き入れる、そんな時刻だった。



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