第12話『トドロオオオオオオ!』
となりのトコロ・12『トドロオオオオオオ!』
大橋むつお
時 現代
所 ある町
人物 のり子 ユキ よしみ
よしみ: トドロオオオオオオ! トドロ……トドロよかった。間にあった!
のり子: よしみ!
よしみ: ほんとに間にあってよかった。
のり子: どうしたの?
よしみ: 先生がもどってきてほしいって!
のり子: 先生が?
よしみ: さっき帰ったら「トドロに会ってきたんだろう」って。先生みんな知ってんのよね。そいで先生「もういっぺんタバコ買ってこい」って。この期におよんで、まだタバコが大事なのか! あたし腹たっちゃって、聞こえないふりしてベタ塗りしてたの。そして、やっと気づいたの。「もういっぺんタバコ買ってこい」って、トドロを呼びもどしてこいってことだったのよね。「タバコ買ってきま~す!」って叫んで、ドアを開けようとしたら「タバコ屋にこれ渡してこい」って……(大型の封筒を渡す)ん……だれかいた?
のり子: え……ううん。
よしみ: そっか。早く開けてごらんよ。
のり子: うん……再来年の劇場用アニメの企画書……
よしみ: 「トコロの森」
のり子: え?
よしみ: 原案、轟のり子。
のり子: ……
よしみ: トドロのアイデア半分もらったって。常呂の森が人の心を癒すところが、とてもいいって。
のり子: 先生……こないだの先生の旅行先……北海道だったよね?
よしみ: うん、先生言わないけど、たぶん常呂の森のロケハン。トドロ……帰ってきてくれるんでしょ?
のり子: ……(上手に数歩ふみだし、心の中の彼方を走っているコネバスを思う。そして、ふっきるように振り返り、企画書をよしみに返す)
よしみ: トドロ……
のり子: 先生のタバコは、あたしが買ってくる……何年さきになるかわからないけどね。
よしみ: トドロ……
のり子: そんな顔すんなよ。あたし、もう先生のことなんとも思ってない。もとどおり……ううん、尊敬してるよ。あんなバラバラなパッチワークみたいなアイデアを一つに縫いあげてしまうんだもん。
よしみ: だったら、戻ってくりゃいいじゃないよ。いつも隣同士で仕事してたから……となりのトドロがいなくなっちゃったら、ハンチクなあたしは、なにもできないよ。
のり子: 大丈夫だよ。よしみは十分にアシスタント……ううん、ピンのマンガ家にだってなれるよ……「トコロの森」お願いしますって……先生によろしく。
よしみ: どうしても……どうしても……行くんだよね……
のり子: 行く! 轟のり子はだんぜん行く!
よしみ: ……うん。
のり子: あ、バスが来た。
よしみ: トドロ……(バスの接近音)
のり子: よしみも元気で……じゃあね! あれ、バスがまがった。
よしみ: あ、上郷のトンネルが開通したんで、昨日からバス停は、下の道に移ったんだ。ほら、あそこでバスが停まっている。
のり子: そ、そんな。おーい、そのバス! 乗るよ、乗ります! ちょっと待ってぇ!
できれば花道を、なければ下手に駆け去る。テーマ曲FI。懸命に手を振るよしみ。
よしみ: トドロ! 元気で! 元気でねぇ! トドロ! トドロ!(バスの発進音。よしみの目線と手の振りようで、のり子がバスに間に合ったことが暗示される。テーマ曲FU)トドロォー……!
幕
となりのトコロ 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018
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