第11話『コネバス』
となりのトコロ・11『コネバス』
大橋むつお
時 現代
所 ある町
人物……女3
のり子
ユキ
よしみ
のり子: おやじさん……こんなにボロボロになっていたんだね。こんなにくたびれてしまって……見られたくなかったんだよ。見られるくらいなら、常呂の森の一本の木になったほうがましだと思ったんだよ……おやじさん、きっとユキの知らないところで苦労したり、傷ついたり……おやじさん、そういう自分を子どもには見せたくなかったんだよ。
ユキ: わたし、もうちょっとでトドロのこと殺すところだった。
のり子: ユキを人殺しの鬼にしたくないから、おやじさん、恥を忍んで開いてみせたんだよ……ほら、こんなに恥ずかしそうにしている。
間。
ユキ: ……
のり子: さ、もうたたんでやんな。
ユキ: うん……(やさしく、捧げ持つように、ゆっくりとたたむ)
のり子: あ、姉さん起きてるよ。
ユキ: また、目を覚ましたの……じゃあ、子守歌……
のり子: 顔つきが……優しくなってる
ユキ: 姉さん……そう、姉さんも、やり直す気になってくれたの……常呂にもどったら人にもどれるかって?
のり子: もどれるんだろ?
ユキ: さあ、姉さんの心がけ次第ね。今までが今までだったから。
のり子: あ、ブヒブヒ言ってる。
ユキ: ハハ、まあ時間をかけてゆっくりやろうよ。ブタのままでも面倒みてあげるからさ、ね、あせんないで。
のり子: あ、なんか来る。
ユキ: バスだ……
のり子: どっち?
ユキ: こっち?
のり子: あっち?
ユキ: むこう、わからない?
のり子: 音……聞こえる。
ユキ: フフ、よかった。
のり子: え?
ユキ: ふつうの人には見ることも聞くこともできないの。
のり子: じゃ、あたしも、お仲間ってわけ?
ユキ: うん、友だちだもの。
のり子: え、友だち?
ユキ: いけない?
のり子: いけない……池ならあるよ。
ユキ: え?
のり子: 目の前に、ユキとあたしの友情の池。あ、魚がはねた! 見えない? 友だち同士なら見えるよ。だろ? ふつうの人には見ることも聞くこともできない池あるよ。いけないなんてことないヨ……なんてね。
二人、あたたかく笑う。二人の前をバスが通り、停まる気配。
ユキ: ついた。
のり子: なに?
ユキ: ……コネバス。
のり子: え?
ユキ: トコロにコネをつけにいくバスだから、コネバス(目をこらしているのり子に)見えない?
のり子: うん、輪郭がぼやけちゃって……
ユキ: そのうち見えるようになるよ。
のり子: そうだね(振り返る。差し出されたユキの手に驚いて)ユキ……
ユキ: ありがとう。のり子のおかげで気持ちよく常呂に行ける(握手)
のり子: また、会える?
ユキ: たぶん、もう……
のり子: もう……?
ユキ: もう一度……会いたいね。
のり子: うん。
ユキ: 父さん、姉さん、行くよ……じゃあ!
退場。バスに乗る気配。
のり子: ユキ!
ユキ(声): さよならトドロ!(バスの発進音)
のり子: ユキ! さよなら、さよならユキ!
見送るのり子。下手から、よしみが駆けてくる。
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