Epilogue.そしてまた聖誕祭がやってくる

 あの日──目を覚ましたロイからプロポーズされ、私がそれを受け入れた日から、早くも一年が過ぎました。


 美代子にもキチンと話して了解を得たうえで、春になる前に籍を入れ、私と美代子は久賀姓から日向姓になりました(ロジャーは、私との結婚を機に正式に日本に帰化したので、姓の表記も漢字に改めたのです)。


 結婚後も仕事は続けているので、娘と過ごす時間が劇的に増えたワケではないのですが、美代子はもう慣れっこのようで、「優しくて頼りがいのあるパパ」ができただけで、十分満足なようです。


 家に関しては、美代子が小学校を卒業するまでは今のままで、中学に入る際にロイの家(それなりの大きさのある一戸建てです)に引っ越すことになっています。

 それまでは、ロイは週末ごとに我が家に通う平安時代の妻問婚みたいな感じになっています──もっとも、実際は週の半分以上、ウチに入り浸っているのですけれど。


 さて、私については、あれ以来、少しだけ変化がありました。


 事実上、一生「美代子の母親の小夜子」としての立場で過ごすことを選択したわけですが、彼と“結ばれた”日の翌月から、その……“月のモノ”が訪れるようになったのです。


 私の身体自体は(少なくとも私自身の目で見る限りは)生物的には男性──のはずなのですが、アレ以来、男である象徴の部位は随分と委縮し、今ではタックを外しても“球”は体内に入ったままで、“棒”も親指の第一関節程の大きさしかありません。


 さらに、普通の成人女性と同様、月に一度、性器の付け根の会陰部(の特に孔もないはずの場所)から鈍い痛みとともに、血が滲み出るようになりました。


 おかげで月一で生理用品を買い揃える必要が出てきました。最初の頃はナプキンで済ませていたのですが、“夜の生活”の際にソコに彼のモノが入るのだから──と、試みにタンポンを当てがってみたところ、生理用品もアッサリ「入って」しまったのです。


 何もないはずの部位からタンポンの紐だけ出ているというのは、とてもシュールな光景でした──いえ、さりげなく確認してみたところ、夫にはソコに膣があるように見えるらしいのですが。


 そして、いざ生理用品が必要な身体になって気付いたのですが、おそらくコレは、来るべく美代子の初潮の日に、母として慌てず対処できるように、というサンタさんの気遣いなのでしょう。


 ──いえ、そう思っていたのですが……。


 「まさか、二度あることは三度あるとはのぅ」


 結婚後最初のクリスマスの夜、夫とベッドに入って愛し合った後、眠りに落ちたはずの私は、いつの間にか見覚えのある空間で、サンタクロースと対面していました。


 「もしかした、“また”、美代子が当選したんですか?」

 「うむ」


 まったく、あの子ったら……こんなことで一生分の運を使い果たしてなければいいのですけれけど。


 「それで、今年の願い事は何だったんですか?」


 ホレ、と渡された手紙には、美代子の筆跡でこう書かれていました。


 『そろそろ弟か妹が欲しいな☆』


 …………。


 「いやいやいや! さすがにソレは無理でしょう!?」

 「というワケでもないのじゃよ。お主も心あたりがあるのではないか?」


 え? た、確かに、夫とはそれなりのペースで「愛し合って」はいますけど……。


 「そして、お主の身体には、後孔とは異なる、夫のモノを受け入れる場所ができておるのではないか? いや~、お主らふたりとも、毎晩のようにおさかんで……」


 わーわーわー!!


 「こ、子供達の夢を守るべきサンタさんが、何ハレンチなこと言ってるんですか!」

 「いや、夫婦の愛の結晶として子供が生まれることは祝福すべきことじゃぞ。

 ともかく、そういうワケで、お主らの昨晩の“営み”で当たりを引き当てとるんで、10ヵ月後のコトを覚悟完了しておくようにな」


 は、ハハハハ……私が妊娠&出産、ですか。

 いえ、それは、「お腹を痛めて産んだ子」というフレーズに興味がなかったと言えば、嘘になりますけど。


 「アフターケアで、そのペタンコの胸も、授乳期までにはちっとは膨らむようにしておいてやるから、せいぜい旦那に揉んでもらうがエエ」


 余計なお世話です、この生臭サンタ!


 「なんじゃ、いらんのか?」

 「──すみません、ぜひお願いします。できればCカップか、せめてBカップくらいまで……!!」


 あっさりプライドを捨てて土下座をする私に、サンタさんも呆れ顔です。


 ともあれ、十月十日の後、“夢”での会話の通り私は、愛しい夫と娘に見守られつつ、玉のような男女の双子を無事出産することができたのでした。


<おしまい>


追記)サービスのつもりか、お腹が大きくなるのに連れて、グングン私の胸も大きくなり、最終的には、限りなく“E”に近い“D”にまで成長しました。むしろ、ここまでくると重くて邪魔かも……というのは、贅沢な愚痴なんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラスト・クリスマス・イヴ ~パパは新米ママ1年生~ 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ