第5話

 お隣さんはどうやら平日の朝七時四十五分に家を出ている。仕事は夕方の六時くらい迄らしくて、土日祝日は休みらしい。

 だから俺は一限の授業のある金曜日にわざと同じ時間に家を出て、ファミレスかハンバーガーショップのどっちで待ち合わせるか声を掛けて、夕方にそこでお隣さんと待ち合わせる様になった。と言っても、同じ席に座って、黙々とお隣さんが小説を書いているのを待っていて、夜九時に投稿されてからお隣さんと何気ない会話をして夜十一時までには帰宅してる。話す内容は、俺はバイトとか、みのりとか、友達の普通の話だし、お隣さんは相変わらず妄想話だし。

 でもこないだは違った。いつも小説の話をすると「秘密です。」て、流されるのに、こないだの小説の展開が昔観た映画に似てるって話をたら、珍しく興奮気味に

「本当ですか?!実は……意識してたんです!あの映画の転回や演出は本当に斬新でした!

 私は、子供の頃、絵本作家になりたかったんです。でも絵を描くよりも物語の方が先に生まれて走って行ってしまって。それでいつからか小説を書く様になりました。でも、本当に映画の事、気付いてもらえて……嬉しいなぁ。えへへへ。」


 また、そうやってふにゃっと笑うんだよなぁ。その笑顔……なんかズルイ。俺はわざとお隣さんから目線を外した。


「賢さんは……みのりさんの事、本当に大好きなんですね。」


 ん?なんか気のせいかな?ちょっと切なそう?


「まあ、彼女ですから。」

「そう、ですよね。」


 え?まさか……お隣さん?


「お隣さんは、彼氏とかいないんすか?」

「いっ……いるわけないじゃないですか?!」


 え?やっぱりその……処女?

 で……でしょうね。本当に男性と接点すら無さそうだもん。


「好きな人とかは?」

「い……いません。」


 なんで、ちょっとスネてるトーン?

 ……これってもしかして?

 ちなみに俺はこないだ遂にみのりと卒業したぞ!むしろ、しあわせ過ぎて、卒業と言う名の“入学”だと賢者タイムで悟ったぞ!


 でも、俺は……最低かもしれない。

 みのりという可愛い彼女がいるのに。

 世界的文豪“KEN”のお隣さん。 

 きっと俺、実は、何処かで気になっていたんだお隣さんの事。

 それは、俺だけが知っている秘密だからなのか。それとも、純粋に……お隣さんの事が気になっていて……その、好きになってしまったのか。

 じゃなきゃ俺、毎週金曜日の朝、わざと同じ時間に家出たり、こうやって待ち合わせるしたりしないよな。

 

 可愛い彼女のみのり。

 でも、一緒にいて落ち着いて、話とかしていて楽しいのはお隣さん。


 

 いつも通り、話ながら家まで辿り着く。

 家のドアの前。


「それじゃあ。おやすみなさい。」


 お隣さんが鍵を開けようとした瞬間、俺は無意識にお隣の鍵を持つ手を掴んでいた。


「け……賢さん?」

「明日、土曜日ですよね。」 

「はい。」

「明日、仕事休みでしょ?」

「……はい。」


 俺は無言でお隣さんを抱き締めていた。


「賢さん……?!」


 素直に好きって言えたらいいのに。

 あわよくばって、でもお隣さんならコロッとイケそうだな……なんて最低な俺がいて。


 俺は、お隣さんにキスしようと顔を近付けた。……え?しかもお隣さん逃げないの?!

 本当に……するよ?むしろそのまま。


「キス……初めて?」

「いえ。」


 ……いえ?え?


「え?」

「キスくらいした事あります。」

「……え?」

「ちなみに……経験もあります。ほ……ラブ……ラブホテルだって行った事ありますし。」


 ……お隣さんの口から“ラブホテル”なんてワード聞きたくなかった。なんか……ショック。


 俺がフリーズしてるとお隣さんは冷やかな目で俺を見て


「賢さん。最低です。みのりさんという素敵な方がいるのに。大人をナメないでください。」


 と、鍵をガチャりと開けて部屋へ入っていった。


 そして、次の日の小説は、浮気男が復讐されたり制裁される物語で……それはそれは、今までにないくらい残酷で怖い描写の物語で、「世界的文豪“KEN”ご乱心?!」とネットニュースになる位で……俺は思わず怖すぎて涙出たし、正しく縮上がる内容だった。

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