第9話 救出、そして永久就職
「俺の友人を放してもらおうか」
巨人のゴツゴツした緑色の太い腕に立って、彼のつるりとした頭を見下ろす。
「ん、なんだ、お前?」
「俺のことはどうでもいい。それより、自分の心配をしたらどうだ?」
「は、どういうこと―――ぎゃああっ」
スパンと巨人の手首から先を切り離してみた。
勇者が落下して、器用にすとんと着地したのを見届けて、痛みで暴れる巨人から離れる。
「な、何をしやがったあああっっ」
巨人の顔が痛みと怒りでどす黒くなっている。緑が黒くなるとヘドロみたいな色になるんだなと、どうでもいいことを思いながら勇者を見やる。
「本当、何したんだ?」
「俺が殺戮マシンだって知っているだろ」
呆然と見上げてくる勇者に、淡々と答える。
「レーザビームだ」
全部の指から真っ白な光を放出する。範囲を設定して、最高出力でぶっ放す。
巨人も後ろに控えていた魔物たちも全てが消失した。
ついでに森も見える範囲は更地になった。
初めて使ったから、いまいち威力がわからなかった。だが、これは使ってはいけない代物かもしれない。
「お前、何が環境に優しいんだよ。単なる破壊魔じゃねぇか」
「いや、それは動力源が魔力だから、資源をムダにしないという意味だ」
むしろ経済的という方を押すべきだったか。
「盾も魔物も森も焼失? どういう原理だよ」
「魔力を光に変えて放ってるだけだ。この体は光増幅装置なんだ。単一の波長を増幅して電磁波を放出する…」
「まぁ、なんでもいいや。お前がいればひとまず魔物はやっつけられるってことだろ」
「お前の聖剣の方が環境に配慮されているがな」
「うん、それは否定しないが」
「せめて慰めろよ、友人がいのないやつだな」
「未だにその友人っていうのに違和感がなぁ。お前はあれだよ、相棒だな」
ポンと手を叩いた勇者が、うんうん頷いて納得している。
「相棒か」
「そんで一緒に魔物退治をしよう」
「なるほど。それならば、まあできそうな仕事だな」
「いや、それもだいぶと不安はあるんだがな。お前、不器用だし、なんか間抜けだし。仕事は何一つ決まらなかったしな」
「大丈夫、今度は相棒と一緒だからな!」
「お前、いつも自信だけはあるよな…そして相棒への期待が大きすぎる」
「俺は機械人形だからな。人形は物だろ。物は道具だ。道具を相棒と呼ぶのは素晴らしくいいアイデアだ」
機械人形は、本来ならば命じられて働く。だが主人がいなくなったため、自分だけで考えなければならなかった。そのため、多くのことを失敗した。
だが、相棒がいればきっと正しく自分を使ってくれるだろう。
「よろしく、頼むぞ。相棒!」
自分は機械人形だ、名前はまだない。
けれど、この度、相棒ができた。
永久就職が確定した瞬間だった。
俺は機械人形、名前はまだない マルコフ。/久川航璃 @markoh
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