第8話 戦闘、そして絶体絶命
「わはは、お前が勇者か!」
後ろに魔物を従えてふんぞり返っている緑色の肌の巨人は、ピカピカに磨かれた銀色の巨大な四角い盾を地面にでんと据え、正面に構えたまま笑う。
「お前たちの聖剣など、この大盾の前では無力だ。さっさと降参すれば、町民の半数の命は助けてやるぞ」
大きな声で怒鳴られるため、またもや聴覚の音量を下げる羽目になった。離れているというのに、迷惑甚だしい。
「い、た……か?」
「え、なんだって?」
受話音量を下げすぎたようで、隣に立つ勇者の声も聞こえなくなってしまった。また音量を調節すれば、今度ははっきりと聞こえた。
「アイツは顔見知りかって聞いたんだ」
「いや、知らないな。サルケ男爵はそもそも異端扱いで他との交流がなかった。引きこもってたって言ったはずだが?」
彼の記憶容量に障害でも起きているのだろうか。
「そうか。せめて弱点がわかれば、やりようがあるんだがな……俺が勇者だ。お前に一騎討ちを申し込む」
「ほう、まだ聖剣とやらで戦うつもりか。いいだろう、さあかかってこい」
勇者が一歩前に出て声を張り上げれば、巨人も一歩前に出た。
その一歩が大きくて、ほとんど見上げるほどの距離になる。
「すまん、半歩下がってもらっていいか?」
「あん? 細かいヤツだな…これでいいか?」
ぶつぶつ言いながらも巨人は下がってくれた。体格に似合わず、律儀な性格なのかもしれない。
「ああ、それでいい。では、行くぞ!」
勇者が地を蹴って、剣を振り下ろした。
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聖剣から閃光が迸って、大盾で弾かれる。遠距離も近距離も全ての攻撃があの盾に阻まれていた。
魔法とは大気中に含まれる魔素を変質させて望む結果を起こす現象を指す。正確には魔力とは単位時間のうちの魔素の仕事量を指す言葉であって、厳密には魔力の固有振動という言い方は正しくない。
勇者はよく理解していないようだったが、魔素の固有振動を反転させて、効果を消滅させているのが聖剣だ。対してあの大盾は、今度は魔素の固有振動を反転するのを防いでいる。
理論上は簡単だが、実際の装置となると開発するのに長い年月がかかる。魔物は総じて長命だ。暇をもて余して研究されたのかもしれない。サルケ男爵のような変わり者も多いのだから。
つまり聖剣の本来の効果を発揮できなけれぱ、単なるなまくらな剣である。あの盾はそこそこの強度を誇るらしく剣では傷一つつかない。ただし巨人も盾を両手で持たないといけないらしく、攻撃といえば盾を振り回すくらいだ。重量もあるようで、スピードはそれほど速くない。勇者もひょいとよけれるほどだ。
決定打がない限り戦闘は長引きそうだと予想された。
だが、突然巨人が吼えた。空気が振動して、衝撃波となる。聴覚を遮断した機械人形は無事だが、勇者はとたんに動きが鈍くなった。隙をつかれて、そのまま巨人の手に胴体を握られる。
「ふん、ちょこまかと鬱陶しい。さぁ、捕まえたぞ、勇者よ」
「く、くそっ、放せっ!」
勇者が巨人の手の中で暴れているが、相手はびくともしない。
聖剣をも奪われて、そのまま遠くへ投げ捨てられた。
「剣がなくば、無力なものだな。さて、これまでの同胞たちへの仕打ちをどう晴らしてやろうか?」
凄絶な愉悦の笑みを浮かべて、巨人はにひひと嗤った。
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