第2話 魔王軍の襲来

 マルスと別れて、二か月後――俺たちは様々な魔物を斃して、強い装備を獲得し、強くなった。こういうのは少し悪いが、マルスが居なくなってからは効率的な連携が取れるようになった。

 そして、俺たちは遂に魔王軍との本格的な戦争をすることとなった――


「ついに、俺たちも戦場に行くのか……はぁ」

 俺は、最前線で進行しながら溜息を吐く。確かに、俺たちは黒竜や異形の生物などと対峙し、そして勝利してきた。自分で言うのも何だが、それなりの実力は身についていると思う。

 だが、魔王軍となると話は違う。奴らは魔王の加護があり、それなりの装備とそれなりの智慧、知識を有する。難易度が、格段に上がるのだ。

 そう考えると、不安で仕方がない。

「リーダーがそんな不安げだと、私たちまで不安になるから、そういう表情しないでよ。皆の士気も下がるじゃない」

「そうだよ。大丈夫だよ、アドラ。あたしたちは、色々な魔物と戦ってきたんだよ? 強くなってるんだから、魔王軍なんて蹴散らせるよ!」

 と、キュリスとヴィネスが俺の不安を和らげる為か、激励する。そんな言葉を言われると、俺も気合が入る。

「……そうだな、悪い。俺たちは魔王を倒して、世界を救う。その為にここに居る……そんな俺が、恐れてどうするんだ! よし、皆、頑張るぞッ!」

 そう言って俺は聖剣プロメアスを天に掲げ、叫ぶ。すると、二人は勿論、背後にいた無数の王国軍の兵士たちも雄叫びを上げる。

 そうして俺たちは荒れ果てた黒い大地へと踏み込む。

 ――魔国レルファルス。

 魔王が支配する魔物の国で、その国の大地には穢れた魔力が蔓延しており、一般人であれば一歩踏み込めばその魔力に侵蝕され、死に至る。

 だが、俺たち勇者と王国軍の兵士たちは皆その穢れた魔力を浄化する【聖王の十字架】を装備している。

 俺は十字架を握り締めて、穢れた大地を歩いていく。

 すると、眼前に黒い影が大量に見える。俺はそれらを視認した瞬間に足を止める。

「ついに来やがったか……魔王軍ッ!」

 俺は緊張しながら、魔王軍に向かい吼える。

 その黒い影に目を凝らすと、そこには多種多様の魔物が武具を装備して隊列を組んでいる。

「どうするの?」

 キュリスが問いかける。

「……それを、俺に訊くのか? 俺が戦術とか戦略に長けてないの知ってるだろ? 悪いが戦場の指揮とかは――」

 と、言葉を断って、隊列の先頭に立つ甲冑の巨漢に視線を送る。

「はっ、何でしょうか?」

 彼はこの王国軍における隊長を務めているゼルトだ。

「俺の代わりに、部隊の指揮をやってくれ。一応、俺たちが先陣切って突撃するから、討ち漏らした敵とかを対処してくれ」

「馬鹿じゃないの、アドラ。突撃するのは貴方だけよ。私とヴィネスは後方での支援が基本なんだから……はぁ、だったらシンプルに、前衛部隊とアドラで主戦力を削減して、私たち後衛が討ち漏らした敵を対処する、ってした方がいいでしょう?」

「確かにそれが最適だな。流石は勇者パーティきっての策士なだけある」

「何を言ってるのよ、誰でも思いつくことでしょう? ……はぁ、これだから突撃だけしかできない馬鹿は……」

 と、キュリスが頭を抱えて溜息を吐く。

 俺はそんな彼女に「悪ぃ悪ぃ」と軽く言って、前方へと向き直る。

 ――すると、先程までは無かった影が増えていた。

 それは人型で、まるで魔物とは思えない佇まいをしていた。それはまるで、人間の様な……

「おい……キュリス、ヴィネス、あれって……ッ?!」

 見たことがある、あの漆黒の髪、漆黒の瞳……アイツは。

「「マルスッ!?」」

 二人は思わず驚愕してしまう。そう、マルスなのだ、どう見ても。雰囲気は完全に変わっており、漆黒のローブを身に纏い、黄金の杖を持っている。そして左手には……彼の唯一のアイデンティティ、【星芒魔書】があった。

 彼――マルスは一歩ずつ近寄ってくる。そして遂に、その相貌が鮮明に見えるところで足を止める。

「やぁ、久しぶりだね。アドラ、キュリス、ヴィネス……どうだい? この姿、良いでしょ? 僕が言うのも何だけど、随分と雰囲気が変わったね」

「お前……どうして魔王軍に?」

 俺は恐る恐る問いかける。すると彼は、微笑みながら答える。

「僕が勇者パーティを抜けた後、〝とある人〟が僕に言ったんだよ……『お前のその魔導書を活かす方法を教えてやる。お前を強くしてやる』ってね」

「貴方……私たちが恨めしかったの?」

 キュリスが眉を顰めて問うと、彼は首を横に振った。

「ははは、いやいや。そんな訳ないじゃん。君達は賢明な判断をした。僕だって納得してた。かつての僕は弱くて、むしろそこに居るのが辛かったくらいだ。……でも、君達はそんな無能僕に優しく接してくれた。そんな人たちを、どうして恨む必要があるんだ?」

「だったら……! どうしてマルスは魔王軍に与したの?! どうしてあたしたちの前に立ちはだかるの?!」

 ヴィネスが瞳を潤わせて、マルスを問い質す。

「……これは、挑戦だよ。僕はあの時は弱かった……思い出すだけで心が痛い。でも、今の僕は違う。力の使い方を理解した。沢山特訓した。……その成果を、君達に見てほしいんだ」

 マルスはそう言って、黄金の杖を俺たちの方へと向けて、何処か闇がある笑顔を見せる。

「……さて、僕の特訓の成果、とくと味わってくれよ?」

 瞬間、彼の杖の先端から紅蓮の劫火が飛び出してくる。俺は咄嗟にそれを聖剣で切断する。……今の一撃だけで分かる。マルスは確実に強くなっている。

 以前だったらへっぽこな炎しか出せなかったアイツが、今は途轍もなく速く、そして洗礼された劫火を飛ばせるほどになっているのだ。

 流石に油断していられない……俺は自分に喝を入れ、聖剣を構え、そして、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ‼」

 足裏の発条を利用して、思い切りマルスの方へと突貫し、聖剣プロメアスを振り翳す。

 ――俺の持っている聖剣プロメアスは、太陽神アスディルの魂の欠片が封印された宝玉が埋め込まれている。謂わば、この聖剣そのものが「太陽」なのだ。

 この聖剣の能力は「太陽が昇っている間は攻撃力や魔法の威力が十五倍にも増幅され、穢れを焼き尽くす」というもので、その威力は、低級のドラゴンならば一撃で殺せることが出来るのだ。

「……〝アルデバランの豪傑〟」

 刹那――マルスの背後から黄金の魔法陣が現れ、そこから黄金に輝く雨が降り注ぐ。俺はその無数の雨を聖剣で斬り、躱し、免れる。

 俺はマルスの胴体に聖剣を振り翳そうとしたその時――地面に刺さっていた黄金の雨が突然、黄金の剣やハルバードへと変化し、俺の背後へと襲い掛かる。

「クソッ――」

 確実に避けられない……そう思っていると。

 シュン! シュン! シュン!

 燃え盛る猛火の矢が、黄金の剣に直撃し、一瞬にして溶解する。

 ……キュリスだ。キュリスは魔法の矢を扱うことが出来、今のは〈炎矢フレイムダート〉という、炎属性の魔法が付与された魔法の矢だ。

 だが、前より威力が上がっているのが分かる。以前までのキュリスだったら、金属を融かせるほどの高熱の炎魔法を付与することは出来なかったのだが、二か月の間に急激に成長し、威力も上がったのだ。

「へぇ……キュリスも凄く強くなってるのか。皆も、頑張ってるんだね」

 マルスは微笑みながら、感心する。

 俺はそんな余裕ぶっているマルスに、容赦なく聖剣を振るう。

「笑ってる暇があったら、真剣に戦えッ!」

 俺の聖剣を、マルスは横へと逸れて躱し、

「分かってるよ。僕だって決してふざけている訳じゃないんだ。何、君達と会うのが、何処か久しぶりでね、懐古感に浸っていたよ、ごめん」

 マルスは杖を構えて、真剣な表情へと変わる。

「……さて、そろそろ本気で殺ろうか」

 そう言うと、マルスの杖の先端から空色の魔法陣が出現し、そこから氷結の茨が無数に襲い掛かってくる。俺は聖剣でそれらを切り裂くも、それらはすぐさま再生し、俺の背中にぴったりとついてくる。

「クソッ――厄介だな」

 俺はマルスの方へと急速に接近し、聖剣に魔力を込める。

「うらぁっ!」

「〈雷華ペタルレイ〉」

 刹那、黄金の魔法陣が現れ、放射状に雷の槍が放たれる。俺はお構いなしに聖剣を横一文字に振り翳す。

「――〈フレイブリード〉ッ!」

 俺の聖剣プロメアスが紅蓮と黄金の炎を纏い、振り翳した瞬間に超高温高密度の斬撃となり、マルスへと飛んでいく。

 太陽の炎を凝縮させた神聖なる斬撃……あらゆる魔を撃ち滅ぼし、焼き尽くす必殺の一撃。それこそがこの〈フレイブリード〉なのだ。

 ……だが。

「――メサルティムの軍勢」

 マルスの一言が、俺の斬撃を掻き消した。

 そこに現れたのは、無数の真紅の人魂だった。それらは俺が放った〈フレイブリード〉と酷似した斬撃へと変貌し、〈フレイブリード〉と衝突する。

 すると、聖なる斬撃は、真紅の斬撃によって相殺され、霧散する。

「……は?」

「驚いた? さっきも見せたけど、これは僕の魔導書の魔法だよ。結構強いよね?」

「クソがッ――」

 俺はすぐさま距離を取ろうとした――が、その時。

「逃がすと思う? ――〈影鎖ダークチェイン〉」

 俺の影から漆黒の鎖が出現し、腕や足を拘束する。俺は地面に叩き付けられ、軽く咽る。直後、マルスの間髪入れない炎の弾丸が、迫ってくる。

 俺はすぐさま影の鎖を聖剣で斬り裂き、即座に炎の弾丸の軌道上から離れる。

「アドラ! 退いて!」

 キュリスの声だ。俺はその声の通りに横へとずれる。キュリスは弓の弦を引き、烈風を纏った矢を三本、一斉に発射する。その矢は普通のものより遥かに速く、まる銃弾のように一直線に疾く奔っていた。

 それはマルスの心臓目掛けて放たれるが――

「〈閃鏡リットメイル〉」

 マルスの前に現れた透明な障壁によって防御され、更に矢は方向転換し、キュリスの方へと、更に速く飛んでいく。

「っ、あぁッ――!」

 そしてキュリスの脚へと直撃し、貫通する。あまりの激痛に、膝をつく。これじゃ遠距離からの射撃は難しいだろう。

「お前……ッ!」

 マルスを睨み付け、舌打ちをすると、背後から声が聞こえる。

「アドラ! あたしに任せて!」

 ヴィネスの声だ。彼女は掌を前に翳し、目を瞑って冷静に詠唱を始める。

「――嗚呼、神よ。今こそ天罰を、神罰を。彼の聖域たる天地を侵す者に、浄化の極光を……滅鬼の聖槍を――穿てッ!」

 刹那、マルスの頭上に純白の魔法陣が現れる。それは十字架と天翼、神々の鎖などの紋章が描かれた、神聖なる方陣。そこから放たれるのは、この世に存在するあらゆる白より白く、魔法師が放つ光魔法の光よりも眩い……そんな極光の聖槍が、マルスに降り注ぐ。

 神官が使用する神聖魔法の一つ――〈祓滅の聖槍エクシス・ランツ〉。

 流石にマルスもこれを喰らえばただでは済まないだろう――

「よし、流石だ! ヴィネス!」

「うん――! …………え?」

 光が霧散し、穢れた大地が見えてきた瞬間……味方全員が、絶望する。

 マルスの背後にいた、魔王軍の魔物たちは漆黒の塵となって消え失せた。魔王軍に与したマルスにも穢れが染みついているはずだ。途轍もない損傷を負っているはずだ。――そう、思っていた。

 だが、マルスは――立っている。

「凄いね、ヴィネス。驚いたよ……まさか、こんな高等な神聖魔法まで使えるなんて。君も相当強くなっているんだね」

「う、嘘……ッ!?」

「どうして……ッ」

「〝アルガディの不羈〟――特定の攻撃や影響を霧散させることが出来る魔法だよ」

 そんな魔法があっていいものか――確かにこの世界には魔法を打ち消す魔法が存在する。……だが、神聖魔法は一般の魔法から逸脱した、神の権能を借りた術。そんなものすら打ち消すことが出来るなど、ありえない。

「そんな出鱈目な魔法があってたまるか!?」

「僕の持っているこの【星芒魔書】には星々の持つ魔法が記載されている……星というのは、世界の法則を外れた未知数の存在。この世界のルールに縛られない、アドラの言う通り出鱈目な魔法が多いんだよ」

「クソッ! お前、二か月前までその魔導書の扱い方も分からなかったようなやつだったのに――」

「でも、今の僕はこの魔書の使い方を理解している。君達が様々な試練を乗り越えて、成長したように、僕だって成長してるんだ」

 マルスが余裕な笑みで俺たちを見つめる。

 ――いや、本当に見つめているのか? 見下しているの間違いじゃ?

 アイツは想像以上に弱い俺たちを嘲っているんじゃないか? だから悠然とした表情で、疲れている様子もなく、立っている。

 許せない。俺たちだって、色々な魔物を斃してきて強くなったのに、それが無駄になるのが、許せない。

 アイツは、もう「軽く怪我させるか」程度の軽い気持ちで攻撃できるような相手ではない。殺すくらいの勢いで――本気で、全身全霊で戦わなきゃ、死ぬ。

「マルスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ‼」

「お、本気だね」

 マルスはそう笑って、俺に向かって炎の弾丸を数個放つ。俺は無我夢中で、ただマルスの首を刎ね飛ばすことだけを考えて、迅速にその火球を斬る。

 そして間近まで接近し、聖剣を振るうが、マルスはそれすらも容易く躱し、器用にも俺の胴体に向かって氷柱を発射する。

 俺は咄嗟に聖剣を地面に突き刺し、それを基点に体を浮かせる。すぐさま政権を抜き、マルス目掛けて振り下ろす。それをマルスは杖で受け止める。

「――油断しないでよ」

 すると、地面から岩石の槍が出現し、俺の動きを封じようとする。

 咄嗟に動くことが出来ず、俺は脚を槍に刺される。

「ぐっ――!」

 俺は岩石の槍を聖剣で砕き、距離を取る。すると、背後でヴィネスが回復魔法をかけてくれる。脚の傷が見る見るうちに回復し、元通りになる。

「ありがとう、ヴィネス! うらぁ――ッ!」

「――〈獄炎インフェルノ〉」

 マルスの杖の先端から、赤黒い地獄の業火がまるで濁流のように流れ出てくる。

「〈フレイブリード〉ッ!」

 その炎を、神聖なる炎の斬撃で薙ぎ払う。そして再びマルスの間近まで接近し、聖剣を振るう。マルスは当然、刃を杖で押さえようとする。

 さっきの攻撃は防がれた……同じ攻撃方法なんて無駄もいいところだ。

 ――だから。

「おらっ!」

 俺は剣をマルスの胴体に振るうより先に、脚を前に出してマルスの胴体を蹴り飛ばす。彼は無様に吹っ飛び、倒れる。

「……へぇ、流石だ。――でも、これで最後だよ」

 マルスは立ち上がり、杖を天に掲げ、宣言する。

「――〝レグルスの威厳〟」

 刹那――マルスの背後に、黄金に輝く神々しい獅子が現れる。だが、その鬣は、黄金より遥かに輝かしい燦然とした色彩を放ち、その瞳は魅入られただけで殺されそうな程、威圧的だった。

「遍くを、裂け」

 その号令と共に、獅子がゆっくりと、その前足を振り上げ、黄金に輝く太陽のような、雷霆の様な鉤爪を俺たちの方へと振り翳す。

 ――刹那。

 それはまさしく迅雷の如く、疾風を如く。一条の光、流星――俺含めた味方全員が、そう錯覚した。

 俺は無意識に聖剣を盾にして、防御の構えをする。

 俺は必死のその攻撃を押さえる。背後に居る味方に当たらないように。これが当たれば、間違いなく死ぬ。

 そう思いながら、必死に防御する。

「グッ――ぁああああああああああああああああああああッッ‼」

 だが、そんな必死の踏ん張りは無に帰し、不甲斐なく吹き飛ばされ、胸に深い……深い傷を負ってしまう。

 俺は遠のいていく意識の中で、背後へと視線を移す。

 ――よかった。幸いにも、怪我をした奴はいないらしい。……いや、俺の視界が狭いだけで、もしかしたら数人は怪我を負っているかもしれない。

 でも、それでも、見える範囲の人が――ヴィネスが、キュリスが大怪我を負わずに済んでよかったと――そう、安堵し。

 俺の意識は途切れる。

「アドラ、アドラァァァァァァッ! ――〈治癒ヒール〉……ううん、これじゃダメ。〈天癒アンゲリアス〉っ――!」

 ヴィネスが、倒れたアドラの許へと涙を流しながら走り寄り、必死の回復魔法をかける。そして、ヴィネスの回復魔法で元に戻ったキュリスが弓を構え、マルスを睥睨する。

「――マルス、許さないわよ」

「キュリス、そう怒らないでくれ。大丈夫だ、手加減したから死ぬことは無いはずだよ。だから安心して――」

「そういう問題じゃないでしょう?! 私たちの仲間をこうして傷つけていること自体が問題なのッ!」

「あー……うん、それに関しては謝罪するよ。でも、僕を殺そうとしたのはアドラだ。僕だけに非があるわけじゃない」

「そんな詭弁が通用するわけ――」

「…………そうだね。その通りだ。勇者という敵同士とはいえ、かつての仲間を傷つけたことには僕も少し胸を痛めているよ……でも、これだけは言わせてくれ」

「……何よ」

「君達は充分に強い。何かしらの切っ掛けや、経験を積めば……傲慢だけど、僕に追いつけるかもしれない。……僕が切っ掛けを得たことによって強くなったように」

 マルスは自分の左手に持った【星芒魔書】を見つめ、何処かセンチメンタルな微笑みを表す。

「だから、これはお願いだ。――また、いつか再び戦おう。今度は、キュリスも、ヴィネスも、アドラも強くなった状態で。最高の状態で――殺し合おう」

 天真爛漫な笑みだ。その無邪気な微笑みからは本来出なさそうな言葉を、言う。

 キュリスは構えていた弓を下ろし、溜息を吐く。

「――そうね、私たちも、アンタに勝てないって分かったし。――今度は、お互い〝最強〟と呼ばれるような実力を以て、戦いましょう」

 彼女はそう吐き捨てて、ヴィネスとアドラの許へと踵を返す。

「どう? ヴィネス。治りそう?」

「――ふぅ、うん。何とかね。傷は塞がったけど……さっきの攻撃の影響が残ってるかもしれないから、しばらくは安静にした方がいいかもね」

「そう、分かったわ。――総員、撤退ッ!」

 キュリスは味方軍の兵士たちにそう宣言する。兵士らはすぐさま隊列を組み、道を引き返す。


「――そうだね……〝最強〟、ね。うん、僕ももっと頑張らなきゃね」

 そうしてマルスは、残った魔物たちを率いて、向こうに幽かに見える魔王城へと踵を返すのであった――

 

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無能なパーティメンバーを追放したら、魔王軍最強の黒魔導士になって現れた。  暁 葵 @Aurolla9244

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